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時計
著者 吉村達也
中伊豆の森で、眼球を反転させた奇怪な三人の死体が見つかった。しかも、彼らの腕時計は、みなデタラメな時刻を示して動き続けていた。半月後、同じ地域の貸別荘を訪れた男女が突然、すべての時計が狂い出す現象に遭遇! 同時に室内に異様な気配を察知し、身の危険を感じて逃げようとするが、ひとりの身体に想像を絶する変化が発生! 人間の常識を覆す怪奇現象の連続に、電磁波研究者清水教授は助手の神保真美と共に現場へ乗り込むが、そこで遭遇したのは死霊の大群だった!
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紙の本時計
2010/03/03 19:32
怪奇現象、SF、神保家の秘密。三つの場面をテンポ良く切り替えて描くSFホラー
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
<あらすじ>
神保康明は交通事故で死んだ。死の直前、時間の概念に関わるメッセージを残して。
遺言に従って献体した指定の病院で、異様な方法で保存された遺体。やがて秘密が隠された遺体に異変が起きる。
康明が死んで三週間後、中伊豆の森で、眼球が裏返り動眼筋が前面に表れた三人の奇怪な死体が見つかった。
彼らの時計は一様にでたらめな時刻を指し、死体の周囲には赤ん坊ほどの小さな足跡が無数に残されていた。
半月後、事件が起きた近くの貸別荘を訪れた男女。
異常な動きをする時計、辺り漂う青白い光の輪、腹の中で動き回る妊娠一ヶ月の胎児。彼らは異常現象に遭遇した。
<感想>
「卒業」、「樹海」に続く三部作の完結編。
この二作品を読んでいなくても十分楽しめる。
ただし本作品を楽しむには、異常現象を受け入れられるかどうかが、ポイントとなる。
この物語に描かれている怪奇現象は、原因がSFとなっているため、SF色が強い。
自然に存在する電磁波、人体が思考することで発生する電磁波、自殺者の残留生体電磁波、など電磁波により起こる異常現象が核として進められるSF的物語の説明役を、電磁波研究に没入する清水教授と、助手で神保康明の娘真美が担わされている。
しかし説明が弱い印象で、語られている現象には違和感を感じた。
例えば、物語の主題として、何らかの影響によって双子の、一人の胎児の中にもう一人の胎児が入ってしまうB.I.B(ベイビーインサイドベイビー/代表例はブラックジャックに登場するピノコ)という生命現象と、電磁波が人体に与える影響を絡み合わせて、壮大な生命の遺伝的継続が描かれている。
電磁波によって細胞を遺伝子レベルから変化させると、具体的に説明しているにも関わらず、どこか納得しかねるのは、教授が言葉で説明しているだけだからだろう。
実際に、細胞に電磁波を照射して遺伝子の変化実験の様子を描くとか、遺伝子レベルで変化したものが事件を起こし、それを捕らえ分析した結果、電磁波が遺伝子に影響を与えていたなど、という部分でもあれば、違和感を感じなかったように思う。
また神保康明の娘真美、息子透、透の妻ルイの持つ特殊能力も同様である。
残る疑問やその後が気になる、続編があってもおかしくない結末は、三部作の完結編としては物足りない。
物足りないが、次々に起こる怪奇現象、状況を冷静に描くSF、神保家の秘密という三つの場面がテンポ良く切り替わる構成と、謎を残して進められるミステリー的展開は、一気に読んでしまうほど楽しむことができた作品だった。