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アリス Alice in the right hemisphere(角川ホラー文庫)
  • みんなの評価 5つ星のうち 4 2件

電子書籍

アリス Alice in the right hemisphere

著者 中井拓志

九五年八月、東晃大学医学部の研究棟、通称「瞭命館」で六〇名を超す人間が同時に意識障害を起こす惨事が起こった。しかし、懸命の調査にもかかわらず、事故原因は掴めないままとなった。それから七年――。国立脳科学研究センターに核シェルター級の厳重警戒施設が建造されていた。そこは比室アリスという少女を監視・隔離するためのものだった。世界を簡単に崩壊させる彼女のサヴァン能力とは一体!? 前人未到のスケールで、最先端の脳科学の未来を紐解いた傑作長編。

アリス Alice in the right hemisphere

670 (税込)

アリス Alice in the right hemisphere

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評価内訳

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「アキラ」とは似て非なる暴力

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:KNANBA - この投稿者のレビュー一覧を見る

文庫の書き下ろしの形でこれほどの作品が読める我々は幸せである。

7年前に発生した死者を出すほどの大惨事は、たった一人の少女が
“目覚め”たことが原因であった。厳重なシャルターのような施設に
閉じ込めたその少女が、再び“覚醒”してしまう。

デビュー作の「レフトハンド」を読んだ方であれば、同じ研究所を舞台に
似たシチュエーションの話がパニック小説として展開されるものと予想
できるはず。しかしその予想は半ばほどで裏切られる。

表面的に読んだ場合、本書は大友克洋の「アキラ」をイメージさせる。
「アキラ」も「アリス」も人の形をしているが人間ではない、まるで異質な
ものであり、その内面を想像することは不可能である。
例えば「アキラ」は過剰なまでに書き込んだ“絵”によりクライマックスの暴力を
表現して、それに成功している。しかし作者はこの作品において、文章による
描写でそれを再現または超えるつもりはまるでない。タイトルこそ「アキラ」に
(あえて?)似ているものの暴力の質が完全に異なる。

ここでは過剰にまで書き込まれた論理による言葉の暴力で、それらが実現されて
いる。描かれるのは、リアリティなどの脆弱なものは吹き飛ばされてしまうほど
異常な(または極めて正常な)論理による世界観の構築にあり、その世界の謎解き
と解説こそが本書のクライマックスなのだ。読者はそこで現実崩壊と再構築を
経験することになる。

実際に作者は、現実世界の仕組みを地の文ではなく登場人物たちに語らせる。
彼らはそれを犯人を指摘する名探偵のように、華麗に謎解く。ところが、
それらの指摘はあくまでも可能性の示唆であり、事実として断言される
わけではない。それならば、登場人物2人に対話させる必要など無い。
一度解説の終ったはずの事実が“揺らいで”しまうことによる読者の心地悪さ
こそが、この小説が目指すホラーとしてのありかたなのだろうか。

表面的にも十分楽しめるが、ぜひ深読みをしていただきたい。思ったよりも濃い。

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思考実験書としては文句なしに面白い

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:べあとりーちぇ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 比室アリス。あまりにも危険なそのサヴァン能力のために、地下深く作られた秘密のシェルターに幽閉されて眠り続ける美少女。彼女がその眠りから目覚めて歌い始める時、7年前、60人あまりが犠牲になった「瞭命館パニック」の悲劇がふたたび繰り返される…。

 野暮を承知でアナログを想像すると、さしずめ「一般的CPUの処理能力をはるかに超えた質・量のデータを、一種の圧縮コードを使ってムリヤリ食わせたらハングってしまった」というところだろうか。
 人間の脳はそう簡単にはリセットできないのだから、これは怖い。物語前半で畳み掛けるように描写される意識の崩壊シーンのイメージは圧倒的である。虚無から湧き上がる白い蝶の大群と虹の乱舞も、美しいだけにぞっとする恐ろしさに満ちている。中井拓志氏独特の文体に違和感のない人ならば、この部分だけで一級のパニックホラーである。

 ただ後半に関しては印象が分かれるだろう。
 登場人物の口を借りて「言葉により世界が崩壊する」という現象の論理的解説がなされるのだが、その論拠となっているものは言うなれば「擬似脳科学」「擬似認知科学」なのではないだろうか。
 その辺を踏まえつつあえて挑戦を受け入れられる人にとっては、ここはまたとない思考実験のチャンスとなる。しかしこの前提に引っかかりを感じる人は、何かしら肩透かしを食ったような未消化なものを感じてしまうかも知れない。

 恐らく中井氏としては確信犯的にこういった手法を採っている。だからあえて乗せられてみるのが本書の正しい楽しみ方であると言えよう。だが、ホラーとしての完成度を追求するとすれば、論理的解決はつけずに「なぜアリスの歌が致命的威力を持っているのかは一切不明」でも良かったように思う。

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