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家に棲むもの(角川ホラー文庫)
  • みんなの評価 5つ星のうち 4.1 1件

電子書籍

家に棲むもの

著者 著者:小林 泰三

四人家族が住み始めた古い家。もう一人いる感じがし、見知らぬお婆さんの影がよぎり、あらぬ方向から物音が聞こえる。昔、この家で殺人があったというが……ホラー短編の名手による謎と恐怖の作品集。

家に棲むもの

540 (税込)

家に棲むもの

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紙の本家に棲むもの

2004/05/03 23:59

病み付きになっちゃったらどうしよう

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:べあとりーちぇ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 「生き物」と「物」との違いは何? という問いかけをなんとホラーでやってのけ、第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した『玩具修理者』。その凄さと独特の世界観を噂に聞くにつけ、小林泰三氏には注目していた。ただしめぐり合わせかタイミングが悪かったのか何となく今まで手に取ることなく過ぎてしまっていて、大袈裟だが「ようし、今度こそ読むぞ」というある種の意気込みとともに本書に挑戦したのが2月の末だった。それから延々2ヶ月ちょっと。やっと、やっと、全部読みきることができた。奥付に辿りついた時は、身体が萎むようなため息が思わず漏れたものである。

 収められている短編は7本。ページ数も250ページ少々。特に読むのが遅い訳でもないのに読破にこんなに時間がかかったのには理由がある。ただし(少々文体に癖はあるけれども)読みにくかったからではない。ましてや読んでいてつまらなかったからでもない。ともかく、濃いのである。その独特の世界が。
 ページの間から瘴気が立ち上ってくるようなというか、読んでいると自分の周りに「小林泰三空間」が形成され、その中に閉じ込められてしまいそうなというか、不思議で圧倒的な迫力をどの短編も持っている。読んでいる間の気分としては、肺活量の限界にチャレンジ・素潜り競争とでも表すことができるだろうか。立ち上る瘴気を吸い込みたくないのだが、それでもページを閉じて読むこと自体を止めてしまうことができない…という苦しいジレンマである。

 短編を1本読み終えるたびに、どうしようもなく風呂に入りたくなって困った。触るもの触るものすべて糸を引いているような、何とも得体の知れないゲルで濡れているんじゃないかというような、そんな強迫観念に駆られてしまうのである。即席潔癖症製造書物とでも呼びたい気分。もしかしたら、本物の潔癖症の方は本書を読むことができないのではないだろうか。

 それでも滅法面白い。ぞーっとする感覚に背中の産毛を逆立てながらも、活字を追うことを止められない。7本の短編どれもが、それぞれ違う形での「ぞーっ」を徹底的に刺激する。こういうインパクトと吸引力を持った短編にぶつかったのは、筒井康隆氏の「蟹甲癬」や「顔面崩壊」以来かもしれない。
 「日常」が「異世界」へ少しずつずれ込んでいく恐怖と違和感、時には生理的嫌悪感。ホラーとはかくあるべき、の見本のような7作品だった。

 例えとして適当かどうか自信はないのだが、カカオ分100%のチョコレートを食べた時の気分と通じるものがあるかもしれない。口に入れた時の強烈な苦味、食後しばらくは鼻から口を支配する「カカオ!」な空気。1度に1かけら食べるのが精一杯。けれどしばらくしてその風味が消えてしまうと、不思議とまた食べたくなるのである。
 そんなふうに病み付きになってしまったらドウシヨウ、と思いつつ、既に筆者の手元には『目を擦る女』があったりするのだ…。

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