電子書籍
「わくらば」シリーズ
著者 朱川湊人
姉さまが亡くなって、もう30年以上が過ぎました。お転婆な子供だった私は、お化け煙突の見える下町で、母さま、姉さまと3人でつましく暮らしていました。姉さまは病弱でしたが、本当に美しい人でした。そして、不思議な能力をもっていました。人や物がもつ「記憶」を読み取ることができたのです。その力は、難しい事件を解決したこともありましたが……。今は遠い昭和30年代を舞台に、人の優しさが胸を打つシリーズ第1作。
わくらば日記
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紙の本わくらば日記
2009/04/29 09:55
姉さまとワッコのガールズ事件簿。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:野棘かな - この投稿者のレビュー一覧を見る
表紙のイラスト、挿絵で読んでみたいと思う本もあれば、悲しいかなそのせいで読むのをためらってしまうこともある。
ちょっとためらいながら読んだこの本の表紙や挿絵は、イラストとしてみるととても素敵な絵なのだが、この本に登場する姉さまの文章から浮かぶイメージとそれらの絵を重ねあわせるとことは難しかった。
不思議なパワーを持つ姉さまは本当に美しく、くっきりした二重まぶたに筋の通ったお鼻、目の色は黒というより鳶色、肌はまるで牛乳のように白く、髪もほんのり栗色で、まるでロシアの美しい少女のようでしたと書かれている本の中の言葉を拾うと、たぶん、昔白子などと呼ばれていたアルビノの人のイメージなのだと思う。
イラストの姉さまは、前後に長い軍艦頭(死語)だしと並べ始めるときりがないほど、姉さまのイメージとはかけ離れていて外見のイメージは重ならないのだが、複雑なことに、本の中での姉さまの言動や行動は、ちょっとコミカルでイラストの絵のイメージの人だった。
昭和30年代の下町の生活にこだわった作家の物語も、です、ます文体からかもしだされる余韻も好ましく面白く読み進んだ。
この作家の本を読み始めると、と言っても、まだ3冊目ですが、必ず、なぜか、シュールと言う言葉が浮かぶ、Wikiのよると和製フランス語らしいが、日本語の同じような言葉ではなく、自分でもうまく説明できないけれどシュールなのだ。
人や物がもつ「記憶」を読み取ることができる病弱だが美しい姉さまのそのパワーが軸となり、しっかりものの母親や事情があって離れて暮らしている父親、人情味のある取り巻く人々をからめて、お転婆な妹のワッコ(和歌子)が、過去の出来事を回想するという手法で進む話は、登場人物が魅力的で、事件にかかわっていく経緯や解決に導くまでの話の流れも面白く、姉さまとワッコのコンビのこのシリーズをもっと読んで見たいと思わせるほど心に残る。
ちょっと気になるのは、会話のシーン、言葉にこだわっているように思える反面あまり言葉にこだわっていないのか、ガールズトーク(母、姉さま、ワッコ)があまりピンとこない。
今の時代は、2人いれば2人ともが話し続けるし、5人でも5人が話し続けるが、私以前の時代では、2人いれば、1人が話して1人は聞き役、それ以上人がいると、知識のある大人びた女の子はじっと黙り込み、肝心な時だけ発言するというように微妙に役割があった。
今の時代のように、うるさくないけれど、それなりに会話は弾んでいたので、家族の会話も含めて、そんな会話の面白さをもっと表現してほしいと思った。
昭和30年代にこだわる作家の意図はわからないが、今も昔も、平成も昭和も、変わることなく発生する犯罪、胸締め付けられる差別や環境による人生の事情などの側面をきちんと描こうとする作家のストイックな姿勢がなんともいえない凛とした空気をかもしだし、同時に過ぎ去ってもう二度と戻らない時代への郷愁を誘う本だった。
紙の本わくらば日記
2009/03/28 21:03
昭和三十年代のなつかしい空気の中で
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和三十年代前半、人の記憶を見ることができる姉・鈴音(りんね)が解決した事件を、妹のワッコちゃんこと和歌子が語っていく一冊。姉さまと私が、千住のお化け煙突を見に行く場面からはじまる五つの連作短篇集。
昭和三十年代の、昔なつかしい風情をたたえた作品の空気感がいいですねぇ。私はこの時代のやや後に生まれた世代ですが、昭和のあの頃にタイムスリップして路地裏を歩いているみたいな、昔なつかしい思いに誘われました。
その頃の町中に確かにあったに違いない人と人とのつながり、信頼の絆を、あたたかな眼差しで見つめ、描き出していく筆致もいいなあ。感傷的に過ぎるよと嫌う向きもあるでしょうが、私は好きだな、この世界。生き生きした好奇心、しなやかな感受性いうのを感じさせる語り手の「私」の描き方も上手く、共感を抱きながら読んでいくことができました。
参考までに、各短篇で取り上げられた事件簿の設定年と、その年に実際に起きた事件、刊行された国内推理小説をひとつずつ、挙げておきましょう。
「追憶の虹」・・・・・昭和三十二年(1957年) ◆ソ連(当時)、人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功(10月4日) ◆仁木悦子『猫は知っていた』
「夏空への梯子(はしご)」「いつか夕陽の中で」・・・・・昭和三十三年(1958年) ◆東京タワー完成(12月23日) ◆松本清張『点と線』
「流星のまたたき」・・・・・昭和三十四年(1959年) ◆現在の天皇・皇后両陛下のご成婚パレード(4月10日) ◆松本清張『ゼロの焦点』
「春の悪魔」・・・・・昭和三十五年(1960年) ◆カラーテレビの本放送開始(9月10日) ◆鮎川哲也『黒い白鳥』
2009年3月、本書のシリーズ第2弾として、『わくらば追慕抄』(角川書店)が刊行されました。この連作短篇がどんなふうに展開していくのか。楽しみです。
紙の本わくらば日記
2016/09/30 00:34
好きになれませんでした
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:koji - この投稿者のレビュー一覧を見る
5編からなる連作短編集ですが、5編で仕上がり具合というかストーリーの良し悪しにかなりバラつきがあると思いました。
特に最初の1編が私にはダメで、もう読むのをやめようかなと。