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須永朝彦小説選
「一語の揺るぎもない美文、人工の言葉でできた小宇宙…」。須永朝彦を敬愛してやまない山尾悠子が遺された小説から25作品をセレクト。〈耽美小説の聖典〉と称された『就眠儀式』『天使』から、密かな注目を集めつつ単行本化を見なかった連作「聖家族」まで。吸血鬼、美少年、黒い森の古城…稀代の審美眼を有した異能の天才が描き出す官能と美の迷宮へようこそ!
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須永朝彦小説選
2022/06/27 23:30
聖典の胎動
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
1970年代に「耽美小説の聖典」と言われたという作品集などから、編者の山尾悠子が選んだ一冊。
『就眠儀式』吸血鬼を恐怖や怪異の存在でなく、美の一形式として描いたというものらしい。日本人の青年が東欧旅行中に美しい没落貴族に誘われて、山奥の廃城のような屋敷に招かれる。そして日本に帰ってきて何やら儀式をしたりする。
『天使』天使もごついおっさんとか幼女とかじゃなく、美形の若者だったら、そして人間を容赦なく言いなりにする力があり、貪り尽くすような存在だったら、そんな夢想は果てしなく続く。また闘牛士を題材にした作品、生と死を分けるぎりぎりを生きている彼らは、心身のわずかなバランスでも命取りになりかねないが、さまざまな誘惑にさらされる身でもある。ところで登場する日本人の一人が少年時代に憧れたのばTVドラマのバットマン(とロビン)の肉体とコスチュームだったというのは、妙なあるある感があって面白い。
『悪霊の館』また東欧やポルトガルの滅び去った王朝の古城には、強力な怨念に凝り固まった皇子がいるものだ。獰猛で野生味にあふれて美しく、またまがまがしい。
「聖家族シリーズ」そういう美意識の元で家族について描くとなると、しかし両親、兄弟姉妹、叔父叔母も、美しさよりも醜さの部分が強調され、愛情よりも憎悪、嫌悪が強くなっていく先での破局が幻視される。
江戸川乱歩生誕100年記念とかで、谷崎潤一郎、佐藤春夫とあの世で対談をしていると、天の声のように嫌味な暴露ばなしを入れてくるやつがいて、誰かと思ったら稲垣足穂だという爆笑劇が巻末に収録。年代も近いらしいし、打ち明け話も面白いし、各作家への作者の愛が深いのがわかる。
他の単発の小説でもそうだが、全体にこの種のユーモア、諧謔や自虐の笑いがうっすらと含まれる。つまり自分の嗜好について耽溺するだけでなく、同時に懐疑というか逡巡といったところも感じられ、この分野の聖典であると同時に、古典であり、先駆者、先頭ランナーでもあるとすれば、これが果たして世の中に受け入れられるものなのかという疑念とともに、そういう感覚になるのも分かる気がする。それも精緻な文体を生み出す原動力になったかもしれない。
あと解説部分で短歌がいくつか紹介されているのも、やはり最初から同じ傾向だったのかということがわかって貴重かと思う。
須永朝彦小説選
2023/10/14 02:23
就眠儀式を読みたくて
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:M.V - この投稿者のレビュー一覧を見る
某所で『就眠儀式』のパロディを見かけ、元ネタを読んでみたいと思っていました。
ハードカバー版は絶版の上プレミア価格がついていたので助かりました。
須永先生の作品は初めて読みました。独特の文体も最初は読みづらかったのですが徐々に慣れて、読んでいるうちに現代からずっとずっと昔の時代にトリップするかのような、心地よい感覚になってきます。
文庫本なので持ち歩いて、仕事の休憩時間や病院の待合室で少しずつ読み進めてます。
耽美な吸血鬼ものを読みたい方にはイチオシです。