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戦争を記憶する 広島・ホロコーストと現在(講談社現代新書)
  • みんなの評価 5つ星のうち 4.8 2件

電子書籍

戦争を記憶する 広島・ホロコーストと現在

著者 著:藤原帰一

歴史の記憶とは? 「国民の物語」とは? 戦後日本において、第二次大戦=〈戦争〉はどのように記憶され、日本人の心性に影響を与えたか。イデオロギーの呪縛をとき、気鋭の政治学者が真摯に問い直す。(講談社現代新書)

戦争を記憶する 広島・ホロコーストと現在

648 (税込)

戦争を記憶する 広島・ホロコーストと現在

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みんなのレビュー2件

みんなの評価4.8

評価内訳

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〈戦争の記憶〉を〈理解する〉

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:小田中直樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 日本の歴史、なかでも戦争をどう記憶するかについて、あちこちで議論が続いてる。教科書問題とか国民国家論とか、色々な次元で色々な話がされてるけど、はっきりいって飽きた。面白くないし、〈だから何なんだ〉って感じ。〈事実と物語〉とか〈自虐的と保守的〉とかって対立軸が出てきて、〈さあどっちだ〉って迫られても、こっちは〈うーん〉って唸るしかない。だって、他にも〈そのとき生きてた人と生まれてない人〉とか〈国民と個人〉とか、色々な対立軸があるし、おまけにそれらが絡みあってるから、すぱっと〈こっち〉って決められないんだ。そんなとき「異なる社会の間での和解と赦しの可能性」を探るために、戦争の記憶の「歴史的・社会的根拠までさかのぼって考える」(一〇、七ページ)っていうこの本を見て、〈ちょっと違うかも〉って思って読んでみた。
 著者の藤原さんによれば、アメリカ合衆国や中国やシンガポールを見ればわかるけど、戦争の記憶は色々だ。でも、どれも〈うそ〉をいってるわけじゃない。戦争の記憶は、そのときその場所の社会のあり方から影響を受けながら〈つくられる〉。おまけに、人々から需要がある。だから、〈どれが正しいか〉は大きな問題じゃない。大切なのは、各々の記憶が〈どんな風につくられたか〉とか〈なぜ人々によって選取られたか〉を〈理解する〉ことなんだ。歴史を振返ってみると、ヨーロッパ諸国はリアリズムで戦争を見てきた。合衆国は、理想主義を掲げて、反戦論と正戦論の間を揺動いてきた。同じく理想主義が強調された戦後の日本では、被害者意識と平和主義とナショナリズムが反戦論に結晶した。こんな各国の経験を比べると、現実には「様々の、正しいかもしれない歴史」(一七一ページ)しかないことがわかる。だから「虚飾やウソを離れて死者を見つめる、静かな視線」(一九五頁)が大切になる。
 この本は、やっぱり他の本と違ってる。それは〈理解する〉って姿勢に徹してるからだ。たとえば、外国の経験を〈理解する〉と、〈そうかなるほど、何だそんなことだったのか〉って気がしてくる。日本の特別なとこと特別じゃないとこが区別できるようになる。日本と合衆国は、〈反戦論と正戦論〉って対立軸では正反対だけど、〈リアリズムと理想主義〉って対立軸では同じだよっていわれて、僕は本当に目から鱗が落ちた。そして、〈世の中そんなに単純じゃない〉ってことがわかったから、〈あっちかこっちか〉って聞かれたときに堂々と〈そんな簡単に決められないよ〉っていえるようになる。戦争の記憶みたいに複雑怪奇な問題を考えながら「異なる社会の間での和解と赦しの可能性」を探るときは、頭と心を柔かくしなきゃいけない。この本は、そのためのヒントを教えてくれる。
 でも、それはあくまでも〈ヒント〉だ。藤原さんは「どう考えるべきか」(一九七ページ)、つまり〈答〉は教えてくれない。強い自我を持ち、〈僕ら〉じゃなくて〈僕〉の視線で、リアルに「それぞれの死者」(一九二ページ)に向合えばいいんじゃないかってほのめかしてるけど、具体的な内容はわかんない。僕らは、自分で答をみつけなきゃいけないんだ。僕の考えを二つ書いとこう。第一、〈リアルな理想主義〉(または〈理想を実現するためのリアリズム〉)を持つこと。理想がないリアリズムはただの現状追認で、現実が変化したとたんにリアリティを失う。リアリティのない理想主義は〈どうせだれも聞いてくれないんだ〉ってニヒリズムを含んでて、理想を失ってる。リアリティと理想って、どっちがなくても駄目な、車の両輪なんだ。第二、〈自分の役に立つか〉を基準にすること。そうしないと地に足が付かないから、足をすくわれちゃうぞ。[小田中直樹]

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「それぞれの正しい」戦争

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:佐倉統 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ここ20年ほどの戦争についての語り口には、常に違和感を感じていた。湾岸戦争でもユーゴ空爆でも、はたまた「国民の歴史」運動でも、なんであんなに一面的で単純な見方が大勢になってしまうのだろうか? だが、なにせ専門家ではないので、この違和感の拠ってきたるところを明確にすることもできず、居心地の悪い思いが長い間つきまとってきた。

 この気持ち悪さをスパッと解消してくれたのが、この本だ。藤原は膨大な資料を駆使し、さらに、戦争を描いた文学作品や映画を感性するどく分析して、誰がどのように戦争を描いてきたのかを解明する。つまり、戦争の「記憶」がそれぞれのイデオロギーや民族的立場に吸い上げられ、「国民の物語」として扱われていく過程を再現する。現実主義、理想主義、反核運動、ナショナリズム……。唯一の「正しい」戦争観などというものはない。「それぞれの正しい」戦争があるだけだ。市民に届く言葉を発することができなかった学者たちへの、自戒と自省の念も込められていて、すがすがしい。「国民の物語に組み込むのではなく、市民社会の夢に解消するのでもなく、戦争の残したものを捉え」る(p.194)道は、しかし、まだ遠く険しそうだ。だが、その道しか、ぼくらがとるべき選択肢がないことも、明らかなのである。(佐倉統/進化学者 2001.3.20)

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