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リストカット 自傷行為をのりこえる
著者 著:林直樹
人はなぜ自らの身体を傷つけようとするのか。近年、社会・学校に蔓延する自傷行為。そのメカニズムと対処法を最新の知見と医療現場の症例をもとに解説。自傷行為に苦しむ人々に回復への道筋を提示する一冊。(講談社現代新書)
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2017/06/13 10:17
自傷行為を深く知る
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投稿者:あずきとぎ - この投稿者のレビュー一覧を見る
2007年初版。
著者は、都立松沢病院精神科部長である精神医学者(肩書は出版時のもの)。
本書は、書名の通り、リストカットを中心とした自傷行為について、その発生といくつかの症例の検証、そして自傷者が自傷行為を繰り返す状況からいかに脱するかを、精神医学の視点から論じたものである。
まず、第一章では、「自傷行為」の定義が論じられる。
つまり、本書において詳述される自傷行為が、どのような行為を指すのかということだ。
これについては、米国の研究者パティソンとカーハンが提示した「意図的に自分を害する行為」という概念(1983年)を採用している。
このため、拒食や過食、アルコールや薬物の乱用などは、「自分を害する」という点について「間接的である」として除外されている。
また、致死性の高い行為については、「自殺未遂」としてこれも区別している。
(一つ飛ばして)第三章では、自傷行為のさまざまな発生要因について、考察されている。
歴史的に見て、習俗として自傷行為が行われた時期・地域が存在するが、日本の現代社会においては、社会文化的要因と生物学的要因に絞れるようである。
文化的には、日本でリストカットが増加した70年代以降、マンガや楽曲(歌謡曲)でリストカットが描写されるようになったことの影響を指摘し、生物学的には、セロトニン・ドーパミン・エンドルフィンといった脳内物質の作用によるという学説を紹介している。
第二章・第四章では、有名人三人を実例として紹介し、特に第四章では、自傷行為が自殺未遂・自殺既遂(自殺行為)へとつながる危険性について論じている。
第五章では、著者が実際に診察・治療を行った三つの症例をモデルケースとして、その治療の過程を詳述し、続く第六章において、この三つの症例と絡めながら、自傷行為と精神疾患(気分障害・発達障害・パーソナリティ障害など)との関係を説明している。
第七章・第八章で、自傷行為(自傷者)への具体的な対応の仕方や精神科における治療法などが示される。
本書で、「援助者」と呼称された、自傷者の周囲(家庭や学校など)で対応する人々の意識の持ち方や注意点などが詳しく示され、合わせて精神科での治療の過程・進行と援助者との連係について、改めて詳述される。
第九章は、精神科での治療(主に薬物治療)以外の方法について紹介している(呼吸法・認知療法など)。
エピローグは、自傷者・援助者それぞれに向けての、著者からのメッセージが記されている。
本書は、新書という制約の中で、自傷行為について、精神医学からのアプローチによって広くその理解を深められるよう意図して書かれ、同時にその対応・対処の仕方について詳しく示された書である。
自傷者本人、また身近に自傷者のいる人々に、問題解決への希望をもたらしてくれるかも知れない。