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〈英国紳士〉の生態学 ことばから暮らしまで
著者 新井 潤美
自転車を「bike」と呼ぶか「cycle」と呼ぶか、眼鏡は「spectacles」かはたまた「glass」か。イギリスの階級意識はこんなところにも現れる。言葉遣い、アクセントにはじまり、家や食べ物、ファッション、休暇を過ごす場所……あらゆるものに微妙な、あるいは明白な階級をあらわす名札がついている。「世界中でもっとも階級にとりつかれた国」、作家ジョージ・オーウェルはイギリスをそう評している。
そんなイギリスで「紳士」たらんと、ほかの階級から嘲笑を浴びつつ精一杯背伸びしてきたのが、本書の主人公「ロウアー・ミドル・クラス」の人々である。「英国紳士」と聞いて真っ先に思い浮かべるシャーロック・ホームズや、日本で人気のジーヴズは、実は彼らと同じ階級に属するヒーローなのだ。
ワーキング・クラスとは断固区別されたい、しかしアッパー・クラスには決して届かない。上の階級の趣味や持ち物をまねると、たちまち流行して彼らが所属する階級の証となり、揶揄の対象になってしまう。隣人と差をつけるべく、アップライト・ピアノを買い、レースのカーテンを飾り、ささやかなことに一喜一憂する姿は、滑稽でありながらもいじましく、愛おしい。
彼らが揶揄されはじめたヴィクトリア朝から、かつての階級を超越した「スーパー・クラス」が登場する現代に至るまで、およそ100年間の悪戦苦闘を豊かなエピソードで描きだす。ほろ苦くもおかしいイギリス階級文化論。(原本:『階級にとりつかれた人びと』中公新書、1999年)
〈英国紳士〉の生態学 ことばから暮らしまで
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〈英国紳士〉の生態学 ことばから暮らしまで
2020/02/26 14:36
階級社会イギリスでの下級中産階級の人々の悪戦苦闘の100年を描いた一冊です!
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、近代のイギリスにおける階級社会の中で生きてきた「下級中産階級」の人々の悪戦苦闘を興味深いエピソードで生き生きとえがいた階級文化論の一冊です。下級中産階級の人々は、中産階級なのですが、その下層部分であり、ある時には「下層民」とみなされ、社会から疎外感を感じたいたようです。こうした人々に焦点を当て、彼らが厳しい階級社会の中でどうのように生きてきたのかを知ることができます。同書の内容は、「二つのミドル・クラス」、「ヴィクトリア朝――せせこましい道徳の時代」、「リスペクタビリティという烙印」、「郊外のマイホーム」、「ロウアー・ミドル・クラス内の近親憎悪」、「貴族への憧れ、労働者への共感」、「階級を超えるメアリー・ポピンズ」、「階級のない社会?」といった構成になっており、非常に興味深いです!