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騎乗
著者 ディック・フランシス,菊池 光
17歳の障害騎手ベンが突然厩舎を解雇されたのは、父親ジョージの策略だった。ジョージは下院議員選に勝利するため、唯一の家族であるベンを必要としていたのだ。激しい反発を覚えながらも、やがて父親に説得されたベンは選挙活動への協力を誓う。しかし、選挙区では、ジョージに対するスキャンダル攻撃と暗殺工作が待ちかまえていた!十代の少年を主人公に据え、生きることの厳しさと真の男の勇気を描くシリーズ第36作。
騎乗
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紙の本騎乗
2009/11/20 13:34
子の成長、親子関係の深まり、そして吹矢のように外部からやってくる謎
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
フランシス作品の主人公は、多様な職業に就いている。パイロットから公認会計士まで。出身階層も貴族から労働者階級までさまざまだ。
だが、主人公のキャラクターはいずれも共通している。すなわち、意志的、自制的な情熱、鋭い観察眼、合理的な推理、さわやか。
年齢は30代前半が多いが、本書には17歳の少年を登場させた。そこに教養小説の要素が入ってくる。
「政治家は」彼が言った。「まったくの真実を語ってはならない」
(中略)
「それに、政治家は、絶対嘘を言ってはならない」
国会議員立候補者の父親は、続けていう。「人々は、通常、自分たちが信じたいことしか信じないものだし、それ以外のことを言えば、彼らはおまえを厄介者と呼んで追っ払い、絶対に元の職に戻らせてくれない、後におまえが完全に正しいと証明されても」
読者は、政治的人間の心得を少年とともに学ぶことができる。選挙運動が活写されているから、風俗としての英国政治にうち興じてもよい。「ミスター・大物が二十分間喋った」のごとき渋い諧謔に、一介の市民であることの自信を読みとってもよい。
少年は政治を好まず、後に数学者の道を歩むことになる。しかし、父親を理解し、父親の意向にそって当選のために尽くす。「私はやると言った・・・・だから、やる」の意志は、少年がフランシス作品の主人公たるにふさわしいことを証明している。鋭い観察眼、合理的な推理が暗殺を防ぎ、下心のない率直さが味方をふやす。
当初、馬にたいする軽視をかくさなかった父親も、騎乗に対する少年の抑えがたい情熱をやがて理解する。
愛情とは理解することだ。
酸いも甘いもかみ分ける年代、70代なかばの作者は洞察していた。