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プルトニウムファイル
著者 EileenWelsome , 渡辺正
ピューリツァー賞受賞ジャーナリストの大著、新装版で登場!「プルトニウムの人体投与」
本書は2000年8月に翔泳社より刊行された『プルトニウムファイル』上下巻を合本にしたうえで、若干の加筆・修正をし、訳者あとがきを一部新しくした新装版です。
プルトニウム原子の誕生からわずか四年半、マンハッタン計画が正式に発足し、放射能の人体への影響を知りたいがために、アメリカは国費をつかって放射能「人体実験」をはじめた。その厚い国家秘密の壁は、半世紀を経て一人の女性記者によって崩れはじめたのだった。そして「人体実験」の機密のヴェールは開かれ、コードネームだけの被害者たちは、ようやく生身の人間と変わった。
しかし、汚染されてしまった被害者の体は?実験によって亡くなった人は?秘密主義の名残りが、実験にかかわった医師たちの秘密隠蔽や言い逃れに変わるのか……?
※本電子書籍は同名出版物を底本とし作成しました。記載内容は印刷出版当時のものです。
※印刷出版再現のため電子書籍としては不要な情報を含んでいる場合があります。
※印刷出版とは異なる表記・表現の場合があります。予めご了承ください。
プルトニウムファイル
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2018/12/07 02:45
これぞジャーナリズム。詳細な調査に基づく本。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:美佳子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
5部47章にわたって第二次世界大戦中の原爆開発プロジェクト・マンハッタン計画に始まり、戦後も国家安全の名の下に多数行われた無意味な実験およびその関係機関、実験者、被害者たちが詳述されたピューリッツァー賞受賞の大作。その構成は以下の通り:
第一部 「産物」
第二部 核のユートピア
第三部 核実験のモルモット
第四部 合衆国版・ナチの収容所
第五部 清算
ウェルサムはクリントン政権下で情報公開が始まる以前の1979年からプルトニウム注射患者の特定を突破口に放射性物質を使った人体実験を追っていましたが、機密のベールは厚く、結局クリントン政権下のエネルギー省長官オリアリーの公開政策によって書類が大量に放出されるのを待たねばならなかったようです。
人体実験は大部分が第二次世界大戦後の冷戦中に実施され、国が資金を出し、ロスアラモスなどの国立研究所が中枢となっていました。主な実験は:
患者18名へのプルトニウム注射(サンフランシスコ、シカゴ、ロチェスターの病院)
妊婦829名に放射性鉄を投与(ヴァンダービルト大学、ナッシュヴィル)
施設の子供74名に放射性物質を投与(マサチューセッツ工科大学、ファーノルド校)
患者700名以上に全身照射(TBI)(シンシナチ大学、オークリッジほか)
囚人131名の睾丸に放射線照射(オレゴン州とワシントン州)
数千名の兵士および風下住民の試験被曝(太平洋およびネヴァダ核実験場など)
広島・長崎の被爆者を治療せずに観察だけし、被爆者の死体を収集・解剖したABCCはこうした放射性物質・核開発を取り巻く人体実験の文脈の中で活動していたのです。
本書は人体実験の全容を暴くばかりでなく、クリントン政権下で実施された情報公開やその後設置された調査委員会の成れの果て、裁判の行方や補償の有無に至るまで、詳述しています。クリントン大統領(当時)が1995年10月3日の朝、調査委員会の報告書を受け取り、調査委員会の意向を無視して被験者全員に謝罪したこと、そしてそのニュースがO.J.シンプソンの殺人容疑の評決のニュースに掻き消されたことまで言及されています。本来ならば厳しく糾弾され、罪に問われてしかるべき実験者たちおよび研究機関は、O.J.シンプソンのおかげで追及を免れたわけです。
原水爆実験における兵士や風下住民らの被害は比較的よく知られた核開発の闇部分で、私も随分前からその事実を認識していましたが、それ以外のがん患者を始め本来健康な子供や妊婦や囚人たちに直接放射性物質を投与したり照射したりと言ったあからさまな人体実験の事実には衝撃を受けました。インフォームドコンセントは全くなかったか、形式的で不明瞭なものだけで、被験者にリスクが十全に伝えられた形跡はありません。アメリカ医学会(AMA)の審査基準にもニュルンベルク憲章の原則にも反する実験で、「時代が違う」では片づけられない犯罪です。しかしながら、結局「国家安全」の大義の下に彼らが罪に問われることはありませんでした。
日本軍の731部隊が行った人体実験の成果をGHQに提供することで死刑を免れた構造とよく似ていると思います。