- みんなの評価
1件
後期ローマ帝国史I:帝国の勝利
著者 マイケル・クリコフスキ(著) , 阪本浩(訳)
新たな制度を打ち立てた、2~4世紀の政治史
本書は、ハドリアヌスからユリアヌスまで、2~4世紀を年代順に、人事と権力闘争、外敵との戦いを扱った政治史である。
共和政期、帝政前期の政治史については、日本語で読める文献も多く、皇帝の伝記もある程度揃っている。しかし「危機」の時代と呼ばれる3世紀については、ギボン『ローマ帝国衰亡史』を除けばきわめて少ない。本書はそれを補う、碑文学・古銭学を駆使し最新の研究成果を反映した通史であることに加え、著者はこの時代を「衰退」の時代、「滅亡」へと向かう過程ではなく、多くの失敗もあったが数々の改革を試み、内外の危機に見事に対応した勝利の時代として描いている。
帝政前期には、元老院議員たちが帝国のエリートとして統治の担い手となり、新たな事態に悪く言えば場当たり的な対応をしてきた。そこからしだいに安定した、一貫した統治が可能な官僚機構ができ始め、その担い手として騎士身分が興隆することになる。3世紀のさまざまな改革の試みの到達点がコンスタンティヌスの帝国であったという。
「出来事」を追ううちに「構造」が見えてくる1冊。
後期ローマ帝国史I:帝国の勝利
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
後期ローマ帝国史 1 帝国の勝利
2022/09/01 17:11
どストレートな政治史本
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mt - この投稿者のレビュー一覧を見る
訳者後書きにもあるが、最近のローマ帝国本にしては珍しく社会史にも心性史にも触れない、どストレートな政治史本。2世紀~4世紀にかけての皇帝とその統治が、かなり濃縮されて叙述されており、なかなかの読み応え。ただ焦点は統治構造の変容に絞られているので、読後感は意外とすっきり。騎士階級の台頭や皇帝を頂点とする官僚制といったのちのビザンツ帝国にも通ずるような体制の構築が、いかにして成し遂げられたか。キーマンとなる皇帝を挙げながら、最終的にはコンスタンティウス2世による完成までを追う。いつか出るであろう後編にも期待。