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贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ(中公新書)
  • みんなの評価 5つ星のうち 4.4 1件

電子書籍

贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ

著者 桜井英治 (著)

贈与は人間の営む社会・文化で常に見られるものだが、とりわけ日本は先進諸国の中でも贈答儀礼をよく保存している社会として研究者から注目を集めてきた。その歴史は中世までさかのぼり、同時に、この時代の贈与慣行は世界的にも類を見ない極端に功利的な性質を帯びる。損得の釣り合いを重視し、一年中贈り物が飛び交う中世人の精神を探り、義理や虚礼、賄賂といった負のイメージを纏い続ける贈与の源泉を繙く。

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贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ

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みんなのレビュー1件

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評価内訳

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5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 本書は中世日本を舞台とした贈与論である。贈るという単純な行為にも時代的な決まりごとが厳然と存在する。中世日本の贈与について考える際、重要な点は現代日本の感覚で臨まないことだろう。史料に書かれたことを素直に受け入れる生真面目さ、さらには行間に潜む時代性を読み解く知識と柔軟な感性が不可欠だ。

 例えば「八朔の進物」。これは8月1日に、日ごろ付き合いのある者同士で贈り物をする行事で、京都では13世紀末頃に普及したという。1日つまり「朔」に贈るという意味の名称にも関わらず、身分や立場の差により贈る時期に大きな差が生まれる場合があるようだ。1日までに贈られても、立場が違い過ぎると極端な場合には2年分をまとめてお返しという事例もあるとのこと。これなんか現代の感覚ではとても考えられない。もう返さなくてもいいのではとも思うが、それは当時の感覚では許されない行為だという。どんなに遅くともお返しをすることが大切ということだ。

 また、Aからもらった贈り物をBに横流しするもあり、Aからもらったものをお返しとしてAに贈ることもあるという。いよいよ現代の感覚では理解しにくい。しかし、こんなことすら当時の感覚として許容されることだったとのこと。

 中世日本では贈与という行為が経済活動と明確にリンクしながら繰り広げられていたともいう。室町時代には人びとに対する贈与が税に転化する場合もあったというのだ。

 将軍私宅などの移転費用を大名たちに自主的に出費させる行為が、当初は贈与という形で行われていたが、これがやがて厳然とした税という形になったそうだ。また、「トブラヒ」という親族や同僚など親しい者の間で行われていた相互扶助的行為も税収とされるようになったとのこと。さらに「タテマツリモノ」という行為がある。これは一種の客人歓待儀礼で、中央から派遣された国司や地頭、代官などを、任地先の人々が宴会などでもてなすことである。これも歓待のはずが、負担化が義務付けられるようになり、やがては銭納化つまり納税という形になったという。

 上記の事例のように贈与を税収として転化するところにも中世という時代性が見て取れる。現代の感覚ではなかなか理解しづらいところである。

 現代でも歳暮や中元、それからクリスマスやバレンタイン、ホワイトデーなど様々な贈与行為がある。バレンタインやホワイトデーは完全に商業主導で、クリスマスは宗教発信が形骸化したもの。これらは現代日本の独特な贈与行為で、中世日本人からはとても理解に苦しむ行為だろう。本書の随所に紹介されている中世の贈与行為も現代の感覚では理解しづらいものが多い。この時代を超えたところにある理解の難しさをきちんと意識することが、歴史を探究する上で欠かせない。ただ、文書に書かれている文字の意味だけを追究することが歴史学ではないことを、本書は贈与を媒体として切々と教えてくれる。一読をお薦めしたい。

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