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「乳と蜜の流れる地」から 非日常の国イスラエルの日常生活
ユダヤ人とは誰か。民族共存とは何か。今こそ知りたい中東の日常と一神教の手触り。イスラエルの大学で教鞭を取る著者が、政治状況が急速に悪化するなか、ユダヤ人の家族やアラブの隣人たちとの交わりを通して、追求した問い。批評精神とユーモアを交えながら、複雑な現実の重層性を明らかにする!【内容】ユダヤ人とは?◆乾いた夏と恵みの雨◆男と女◆安息日の過ごし方◆だれでも話せるヘブライ語◆二〇〇〇年後の帰還◆ユダヤ人から見たキリスト教徒◆キブツの危機◆日本と出会うイスラエル人学生◆憎悪に抵抗する記憶◆ユダヤ人とアラブ人◆安全と防衛 テロと選挙 兵役の意味◆改宗への道◆二つの成人年齢◆家族の意味◆公教育の役割◆産めよ、増えよ、地に満ちよ……◆不安とオプティミズム◆割礼という契約◆死と葬儀◆ユダヤ人であることの困難◆ユダヤ人と日本人【著者】1960年、大阪生まれ。国際基督教大学大学院比較文化研究科博士後期過程修了。博士(学術)。現在テルアビブ大学人文学部東アジア学科講師。著書『ヘブライ語のかたち《新版》』(白水社)、『古代イスラエルにおけるレビびと像』(国際基督教大学比較文化研究会)など。訳書多数。
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紙の本「乳と蜜の流れる地」から 非日常の国イスラエルの日常生活
2006/05/06 02:17
イスラエル人多数派の脳内現実
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ほいほい0080 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「イスラエルの和平派は、なんと・・・」という調子で「和平派」を批判する著者は、イスラエル人多数派の意識を記述することに成功している。日本語で読める貴重なイスラエル体験記である。ただし、著者が描いているのは、イスラエル人多数派の「脳内現実」であって、それは現実とは必ずしも一致しない。
本書で、著者が痛切に訴えるのが、パレスチナの子供を射撃するイスラエル兵の心情の理解である。イスラエル兵が子供に実弾射撃を行っているとは思えないから、ゴム弾射撃を指しているのであろう。実弾をゴムで覆ったものであるが、殺傷能力もあり、回復不能の障碍を与えることも多い。銃撃される子供達に言及すること無く、イスラエル兵を理解してくれと訴える著者は、放水のように、子供を殺すことの無い暴動鎮圧方法があるという事実を思い浮かべることができない。イスラエル人多数派が和平を諦めた理由として、パレスチナ人によるイスラエル兵2人のリンチ殺害事件が繰り返し登場するが、「2000年9月28日、リクードのシャロン党首は、アル・アクサ寺院のあるエルサレムの神殿の丘を訪れるという挑発に出た。・・・続く3日の間に、武装攻撃を受けたわけでもないイスラエル軍は、30人を殺し、500人を負傷させた。」(ル・モンド・ディプロマティーク2001年9月号の記事)こと、事件の前に、イスラエル軍が12歳の少年を殺害した映像が繰り返し放送されていたこと(著者は、映像をアラブ人の陰謀と確信しているかもしれないが)等、イスラエルで繰り返し放送されたパレスチナ人群衆が殺害に「歓喜」する映像の背景は、本書には登場しない。著者が意図的に隠しているわけでは無く、知らないか、知っていても頭に浮かばない精神状態にあるのであろう。
アラブ世界の教育、社会環境、報道が、プロパガンダに満ち、イスラエルへの敵意を煽るものであることは、世界中の人が認識しているが、イスラエルの教育、社会環境や報道も同レベルであることをイスラエル人多数派は認識していない。そうして作られる「脳内現実」が現実となり、自国の犯している戦争犯罪は認識から消えてしまう。
そんな状況は認識していたが、評者が驚かされたのは、著者が熱心なキリスト教徒だったことだ。7章の「2000年後の帰還」という章題が語るように、著者はイスラエルへの移民に肯定的である。1948年のイスラエル建国当時、パレスチナ人の約2割が、先祖代々信仰を守ってきたキリスト教徒であった。イスラエル建国時に、75万人前後のパレスチナ難民が発生したが、おそらく数万人規模のキリスト教徒は、全く非が無かったにもかかわらず、イスラエル軍に銃で追われたり、至る所で行われたパレスチナ人大量虐殺の報道や噂を聞いて、難民となった。彼らは故郷への帰還を熱望したが、イスラエル政府により禁じられ、再び故郷を見ることなく異郷にて生涯を終えつつある。著者の住む土地も、かなりの確率で、パレスチナ人所有の土地であり、キリスト教徒の土地だった可能性もある。残念なことであるが、著者の信じるイエス様は、そういったことには無頓着でいらっしゃるらしい。