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  • みんなの評価 5つ星のうち 4.6 2件

電子書籍

美しく燃える森 真夜中を駆けぬける 完結

著者 依田沙江美

昇の片目がある日突然開かなくなってしまう。原因不明の症状に、心配した勇気は自分の趣味も兼ねて昇を焼き物教室へと誘う。教室では急用ができた陶芸家の大澤の代わりに講師役を買って出て、女性の生徒たちに相変わらずのフェミニストぶりを発揮する勇気。陶芸の癒しどころか、昇の機嫌は徐々に悪くなっていくのだが、そんな憂さも吹き飛ばすような騒動に巻き込まれて……。

美しく燃える森 真夜中を駆けぬける(1)

税込 44 0pt

美しく燃える森 真夜中を駆けぬける(1)

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みんなのレビュー2件

みんなの評価4.6

評価内訳

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完結編?

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:冬みかん - この投稿者のレビュー一覧を見る

なんかこのまま延々と続いてもおかしくない終わりでした。依田先生の描き方が日常を切り取ったような書き方だからでしょうか。幸福の中に差し込むどうしようもない不安とかそういうものの表現がすごくうまいと思います。

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名作が放つ強い力の前では、「ジャンル」の境界線も長い空白時間も無力だと実感する。 また会えて嬉しい。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:はりゅうみぃ - この投稿者のレビュー一覧を見る

食事をすること。
共に眠ること。
となりにいること。
とりたてて言うほどでもないことが、これほど沁み入るマンガもない。

直感脳で生きて、それを芸術という形に昇華させることが出来る勇気と、理性で生きて、それを企画や文章などの言葉で表現できる昇。
このマンガは、自己表現軸が正反対の2人が、互いを補完、時に反発しながら寄り添い続けていく姿を描くラブコメBL(ボーイズラブ)、4年ぶりに発刊された3巻めである。
…が、私はこれを(ただの)BLと思って読んでいない。

「ラブコメ」なのだから、恋愛を絡めた事件や痴話げんかでお話が転がっていくのはセオリー通りだが、このマンガで描かれる2人の「事件」や「痴話げんか」は、思いついて描ける類のものではなかったりするからだ。
温かみのある絵柄と甘いやりとりにオブラートされてはいるが、一見平凡な切り口の事件でも、切り取った後の形(葛藤と克服と導く結論)が、実は尋常ではないのである。

例えば、今巻「美しく燃える森」だと「昇の開かなくなった右目」が事件に当たるが、『萌』というサブキャラクターにまで反映させた心身問題や同性愛が抱えるリアル、言い換えれば恋愛の「闇」の部分を描く手段としてこの事件をスタート地点に起き、そして勇気の個性(直感の真心と芸術魂)を最大限に活かして、「美しく燃える森」で闇を浄化させてしまうあの一連の流れ、これを考えつくまでの思考回路がまず普通とは言い難い。

仮に自分が物語を書けるとして、勇気と昇というキャラから恋愛の闇の部分を描こうと考えた時、この作品のような形に辿りつくまでの思考過程が、ほとんど浮かばないのだ。解釈・考察に必要な「書き手の思考の後追い」が非常に難儀な、複雑で入り組んだ構築が成されている、とでも言えばいいのか。←「構成」ではなく思考的な積み重ねという意味の構築  

「闇」と「浄化」を描くなら、もっとシンプルで分かりやすいアプローチがいくらでもあるのに、このルートを良しとする作者の思考回路、読むには「上手いな~♪」ぐらいの仕上がりにしてしまう謙虚な姿勢の後ろに隠れた、作者の左脳(理論分野)に毎度驚愕してしまうのである。

フラッシュバックする記憶の断片。
漠然ながら確かにある不安。
はっきりさせることへの恐怖。
衝動を抑えきれずに触れてしまう「傷口」

我知らずの心の悲鳴で、身体に異常をきたしてしまう昇や萌の苦しみは、種類・程度は違えど、ある程度の人生を歩んできたものなら誰にも多少は覚えのある痛みで、正直、そこをエグられるのはしんどい。だからこそ、勇気がどれほどの救いなのかがよく分かる。勇気の存在は、「傷」を自然治癒させてきたほとんどの読者にとっても、あの時欲しかった救いの手、これを与えたかった作者の優しい狙いが沁みてくる。


とはいっても、ここまでなら「普通ではないが、上手い作家なら辿りつける高み」の範疇、この作者の非凡な形(感性)はこの先にある。

この話では、昇は結局、最愛の人に生涯話さない秘密を抱える事を選ぶ。
結果オーライなのだから、この後なにもかも勇気に話してしまったとしても、多分勇気は許すだろう。そして大概の作家は、そうするはずだ。
だって「マンガ」だから。懺悔して、許して、一点の曇りもなく信じあって大団円で普通は終わらせる。
が、この作者はそれを選ばない。秘密を打ち明けることで得られる、呵責からの開放と、打ち明けられた相手が許すまでに抱える葛藤、または許されないかもしれないという恐怖。
すべてを天秤にかけた上で「話さない。」

これが作者の伝えたい真のリアルだ。でも「ラブコメ」だから、僅か1,2ページでアマアマに締めてしまうのである。
なんとも潔く、複雑な形…。

この形にエグるには、思った、感じた、などという柔らかな心の動きではなく、傷になるほど深く心と記憶に刻まれてしまった感情を、晒して洗い直し、もう一度癒す作業が必要になる。
作者ご本人の経験の投影は、どんな作品でも少なからずあるが、この作品は、(おそらくは創作上の)ご自身の経験から派生した葛藤を拡大投影して作話しているように思える。(なんと自虐的な…「マンガ」が好きでなければやってられないだろう)
その苦しさを、この世の不条理から切り離した「マンガ=ラブコメ」という明るい形で救ってくれる強靭さが、この作品の魅力のひとつなんだと思う。



さらに、「懐かしい夜」で2人が見上げる月の逸話。
口絵にもなっている、あの春の夜のたった1ページ。あの1ページは、これまでのすべての「事件」と「痴話げんか」を収斂させた究極のエピソードになっている。

個展を開く事を決心した勇気が、「最初に話したかった」と昇に告げた夜に2人で見上げた月。
昇が言った「上手い事」、彼は想いを言葉にする業の人。だから、その想いを口にする。
勇気は感性を形にする業を持つ人。なので、あの懐かしい「夜」を再現する。

あの時の月だから、昇は一目で夜空だとわかる。
あの時の月だから、一度壊れても作者は元に戻す。いや、戻るために一度壊す。

修復可能な美しい月、それが彼らの育んできた愛だと作者はいう。
綺麗で沁み入るエピソードである。読者は、この美しさをただ受け取ればいい。
が、作者は、この美しいものをわざわざ壊して、一度丸裸にしなければならないのだ。ちょうどあの「月」のように。

2人で泣きそうになった、あの夜。
月を見て一緒に泣ける2人を描くには、泣きたくて、月を見る気持ちを見つめなければならない。月を見ようと空を振り仰いだその時に、できれば自分1人ではなく、共に泣いてくれる人がいればいいと、胸の奥の奥でこっそり願っていた。そんな想いまで気づかなくてはいけない。
作者は既に達観している。だから、この2人を描ける。

本当は暴かれたくない、が、かなえてほしい願い。
この作者は、読者の期待に応えるというプロ意識を、こんなところに持ってくるのである。
こんなエグリ方されたら堪らない。


これだけのことを「痴話げんか」に収め、しっかりラブコメでオチをつけてしまう、作者の揺るがない姿勢。1話、2話ならこんな話も描けるかもしれない。でも3巻分ともなれば…。
まったく、この作品での作者は神がかりだ。


私がこのマンガに魅かれるのは、自分でも知らなかった願いや目をそらしてきた痛みを緩く示して、晒して、優しくハグ、時に笑い飛ばしちゃってほしいからと思う。
この作者が、今度はどんな深淵を覗いてくれるのか、どんな救いを与えてくれるのか、このマンガにはいつもそんなことを期待する。

他にも、勇気を通じて教えられる本物の「絵描き魂」(私の知人の画家さんとそっくりだ、笑)、昇の敏腕ライターぶりなど、恋愛云々を抜きにしても読み応えは十分、ジャンルを超えておすすめしたいマンガである。



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