紙の本
20年間、電子出版を続けてこられた理由
2011/01/08 05:57
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆうどう - この投稿者のレビュー一覧を見る
20年近く電子出版に携わってきた「Mr.電子書籍」こと萩野正昭氏がその歴史を語りつつ繰り出すメッセージ。儲からなくても面白い仕事をしたいという気概が伝わってくる。出版とは、少数意見を発言する場であり、また、二ッチな市場に向けての商売なので、電子書籍はそのためのメディアとして優れているという根本的な見解がある。そして、単に商業的な面だけでなく、コンテンツの保存ということにまで視野に入れて事業を推進している態度に敬意を表する。そもそもは出版畑の人ではないようだが、20年近く真摯に電子出版に関わってきた過程で培われた見識なのだろう。
紙の本
ボイジャーを中心とする 20 年ちかい電子書籍の歴史と今後すすむべき道
2010/12/16 00:34
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者が映画製作にたずさわったあと,パイオニアでレーザーディスクをあつかうようになったいきさつから,アメリカでボブ・スタインという人物とボイジャー社に影響をうけてボイジャー・ジャパン社を設立し,米社が解散したあとも日本で電子書籍をつくりつづけたこと,そして電子書籍の未来についてまで書いている. 日本のボイジャー社がてがけてきたエキスパンド・ブックや T-Time,青空文庫などについての貴重な記録だといえるだろう.
最後のほうで著者はハードウェアがうつりかわっても本はいきのこっていかなければならない,そのためにはフォーマットの統一が必要だということを強調している. ハードがなくなると読めなくなるだろうアプリとして電子書籍を制作しているひとには,ぜひ読んでもらいたいものだ.
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Mr.電子書籍の異名をとる、萩野正昭氏による文字通りの奮戦記。ジャーナリストの視点ではなく、実業として電子書籍に取り組んできた方によるノンフィクションだけに、全編を通して臨場感や必死さが溢れ出ている。おそらく著者にとって今年は、1992年にボイジャー・ジャパン(現・ボイジャー)へ転職して以来、「今年こそ!」と思い続けた”19回目の電子書籍元年”ではないだろうか。そんな愛憎入り交じる著者の思いは、下記の一文に集約される。「お前らに電子書籍の一体何がわかるのか。」
◆自分の視点を持つことの重要性
冒頭、同時多発テロの際、崩壊するビルではなく、その瞬間を見る市民の表情を写した写真の話を題材に、自分の視点を持つことの大切さを訴える。著者自身、レーザーディスクの可能性を模索しているうちに、電子書籍の原型を見い出したという経験を持つ。そこへ導いた独自の視点とは、レーザーディスクを”見る側が時間をコントロールできるメディア”と見立てたこと。出版社の人でもなく、ハード機器メーカーの人でもない著者が、電子書籍の道を切り拓いてこれた要因はここにある。
◆著者の主張する電子書籍の理念
・必要性が本を生み出す
電子書籍によって、売れない本でも出せるということは、ある人々にとっては切実な「必要性」をすくいとる力をもっている。本来電子書籍とは、小さなものののためのメディアである。
・「本」ではなく「読む」を送る
言葉を一定の形式に固定して残すことが本の役割。しかし電子書籍の場合、「読む」ということだけに拘り、形は読み手が再構築できるようにすることが、新しい価値を生み出す。
電子出版を文化として育んでいくためには、最先端の技術に翻弄されたり、巨大プラットフォームによる囲い込みに屈したりせず、「残す」という課題と向き合うことが一番大切なことである。
そんな著者の理念こそ、残していかなければならない。
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電子書籍奮戦記」P. 16
多種多様な内容のものを世に送り出すのが出版本来の役割だと私は考えています。
ただし紙に印刷するにはそれなりの費用がかかります。本を保管する在庫費用もかかる。こうした事情から、人々の多様な超え、貴重な記録が、これまで十分に、世に伝えてきたとは言えません。出版社が費用に見合わないと判断すれば、自費出版しない限り、それを刊行することはできません。
しかし、電子出版を出版するのに、紙の本のような資金を用意する必要はありません。電子書籍は本質的に、小さなもののためのメディアなのです。私はこれまで電子書籍を、地道な庶民のメディア、また困難な中にあって声を発する手段だと考えてきました。これが私なりの「視点」です。
「小さなもの」とは、著者たちだけではない。出版社もまたそうなのだ。いや、出版社こそそうなのだ。
「電子書籍奮戦記」オビ
奇妙なアメリカ人との出会いから、いつしか始めた電子出版という仕事。儲かり始めたのはここ数年。借金と保険未加入の日々は「貧格」と笑うしかなかった。侮っていた携帯電話に救われ、周囲の物好きな(失礼!)人々に助けられ……ついにインターネット・アーカイブと出会う。大企業の寡占する世の中なんて、つまらない。小さくても、言いたいことある奴の声を拾い上げていこうぜ。
津野海太郎にならって、百年、さらには千年の目盛りによって考えた上で弾言しておく。
出版という行為は、貨幣経済が発展的に解消した後も残る、と。
金というものが今の通信のように、「(プロ以外は)使用量を気にせず使える」時代はいつか来る。「電話かけ放題」と「金かけ放題」との距離はみんなが思っているほど遠くはない。
そして How much が問われなくなった時にこそ、これがあらためて問われるのである。
What do you have to say?
だとしたら、電子出版というのは「新しい出版のありかた」というより、「本来の出版のありかた」ではないのだろうか?
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電子書籍の黎明期から携わってきた著者の活躍が書かれている。本とは何なのかというところから考え,本の恩恵を電子書籍を通じて多くの人にもたらしたいという著者の熱意が強く伝わってくる。
これまで,電子書籍には肯定的なイメージを持っていなかったけど,悪くないかもと思うようになった。
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パイオニア出身にしては電器屋主導の電子書籍書店に感じるイラつきがほとんどないのが嬉しい。文章もとてもうまい。電子書籍と紙の本の対比に馬車と自動車の比喩は言い得て妙だ。馬車に対するノスタルジーは結構なことだが、事実上、日常的に馬車に載る人間はもう存在しない。電子書籍推進派は、別に今から馬車を焼き払えといってる訳ではない。車で喪った命もあるが、助かった命もたくさんあるのだ。守旧派が馬車を懐かしむのは構わないから、せめて自動車の開発の邪魔はしないで欲しいと私は切に願う。非人間的なイメージを与えがちなコンピューターだが、実は人にとてもやさしいということはもっとアピールするべきだ。
(続きはブログで)http://syousanokioku.at.webry.info/201101/article_10.html
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20110213「電子書籍奮戦記」荻野正昭
昨年から出版されている数々の電子書籍関連本(以下、電書本)のなかでは正直期待していない一冊だった。
だいたい、創業社長の著作というものはほとんどご自慢のご賢察を連ねるものだから。
本作も最近のブームをみてほら見たことかと荻野氏の自慢話がなされると思いつつ読み進めたものの、正直ごめんなさいを言うしか無い。
昨年からの電書ブームで上っ面の業界ネタ、技術ネタに終始する他の電書本とは違い、本書ではおそらく電子書籍・電子出版ビジネスを既存の出版ビジネスや書籍流通ビジネスの置き換え、売上減の補填のためというようなしみったれた考えではなく、新しいビジネスとして一から電子書籍・電子出版ビジネスを捉え、考え続けてきた唯一の日本人の思いが描かれている。
大きな出版社相手のビジネスではなく、一出版社、一編集者としての思い、それがなかなか結実しないもどかしさ、そんな十数年間乗り越えてきたMr.電子書籍の言葉はいちいち簡潔で重い。
日本の国内事情にあった電子書籍・電子出版ビジネスをこれから創り上げていくにあたっては、こういう「タレント」を活かしきるプロデューサーが必要なんだろうな。
ボクも浅はかな考えをかなり正されました…(^^;)ハハハ。
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2011 2/28パワー・ブラウジング。筑波大学図書館情報学図書館で借りた。
ボイジャー・ジャパンの歴史と背景にある考えがわかる本。映画・映像コンテンツやレーザーディスクとの絡みがあったのか…少し意外。
タイトルには奮戦記、とあるが基本、苦戦の連続で最近光明が見えてきた、といった感じか。大手が幾度も敗退している中、生き残ってきたという事実が凄いとも言えそう。
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浜野保樹 極端に短いインターネットの歴史
津野海太郎 小さなメディアの必要
清水徹 書物について
書物とは、1,記号が何らかの支えの上にあり、2,時間が経過しても、ほぼ同じ意味内容が発信される装置、つまり時間の支配から免れている、いわば時間を征服した装置である。
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ボイジャーの萩野さんの著作。90年代前半のCD-ROMの時代から近くて遠い存在としてお名前を聞いていたが、ようやく同じフィールドにたった。エクスパンドブックから今に至るまでのボイジャーの歴史と萩野さんの思いに触れられる。
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ボイジャ社の荻野さんの本。先週の「国際ブックフェア」のセミナーでも話を聞きました。電子書籍に長期間取り組んできた経緯を述べています。根底の考えは、「電子書籍=本は、少数派が意見発信できるメディア。将来に内容を残すのがつとめ」という考えのようです。でも、本当は紆余曲折を経てそこに到達したと考えるべきかもしれません。 ハードメーカに対しては、「わかっていない」と批判的です。
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誰にもヒーローやヒロインがいると思う。
僕にとっての萩野さんは、数少ないヒーローの一人だ。
高校生の頃Macintoshに出会い、やがてExpanded Bookに出会って、ほんとコンピューターを読むようになり、気がつけばT-Timeもエキスパンドブックビルダーも買っていた。Mac Expoではエキスパンドブック横丁に通った。萩野さんがボイジャージャパンを興された頃から、多分、ずっと追っかけのようなことを、小さく静かに続けてきた。
あれからもう随分たって、気がついたら、マガジン航に時々寄稿させてもらうようになった。ようやく、ちょっとだけ、追いついてきたのだ。
電子書籍奮戦記は、萩野さんのこの20年ほどの、文字通り奮戦記だ。金儲けでなく、小さなものが声を発するためのメディアとしての電子書籍に取り組み続けた、萩野さんの熱い、熱い声だ。
萩野さんの文章は面白い。語り口は丁寧なのだが、語っている内容は常に熱い。革命者のそれなのだ。フロンティアを駆けるものの、道なき草原を走るもののそれなのだ。嘘のない文章を、読んでいるとだんだんと勇気づけられる。元気になる。僕にも何かできるのではないかと信じられるように思う。
電子書籍に興味のある方は是非読んで欲しい。そして書籍に携わる仕事をしている人には、必読の書だ。退けることなく、読むべし。
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2012年初の読了した本。電子書籍についていろいろ知りたくて手にとった本ですが、よかったです。おもしろかった。
中にかかれてある文書で気に入った文書を転記しておきます。
『もし電子書籍なるものがオン・スクリーンで読めるとか、デバイスに100冊納まるとかだけにとどまるならば、一体何の意味を持つだろう。紙の本のままで十分ではないか。書き手がいて出版社があって、印刷所があり書店があり図書館がある、ただ、そうした仕組みにおいてなお育むことができない出版があり、これもまた伸ばすべきものであるならば、電子出版には存在理由がある。かすかだが試みて値する希望がある』
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荻野さんは何事にも本気に一途にトライしてきた人
法学部を出ながら東映の映画作りに加わり
パイオニアでレーザーディスクに関わり
アメリカのボブスタインと気が合い
彼が持つボイジャー社と出会って
ニホン社を起こすことに発展する
それ以後の20年というもの
電子書籍という媒体を使うことで
広く細かく発言を汲み取ることに携わってきたし
本を機械的に音声化することで聴覚障害者へと
本という媒体を広げてきた
早さを調節できて無感情で読み上げることで
文字そのままを色の付かない状態で提供できる
又webにつなぐことで本の裏側にある膨大な資料や
歴史にワンクリックでリンクすることができる
現状ではドットブックという日本語用の
電子書籍のフォーマット形式に
閲覧ソフトのT-Timeを開発している
こらは電子書籍フォーマットの本命であるEPUBとも
相性が良いらしい
兎も角荻野さんは視野の広い信頼の置ける人物のようである