- 販売開始日: 2011/07/01
- 出版社: 新潮社
- ISBN:978-4-10-124714-4
闇の穴
著者 藤沢周平 (著)
わたしを棄てた男が帰ってきた。大江戸の裏店でそっとともした灯を吹き消すような暗い顔。すさんだ瞳が、からんだ糸をひくように、わたしの心を闇の穴へとひきずりこむ――。ゆらめく...
闇の穴
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商品説明
わたしを棄てた男が帰ってきた。大江戸の裏店でそっとともした灯を吹き消すような暗い顔。すさんだ瞳が、からんだ糸をひくように、わたしの心を闇の穴へとひきずりこむ――。ゆらめく女の心を円熟の筆に捉えた表題作。ほかに、殺人現場を目撃したため、恐怖心から失語症にかかってしまった子供を抱えて働く寡婦の薄幸な生を描く「閉ざされた口」等、映画化作品「小川の辺」を含む時代小説短編の絶品七編を収める。
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闇の穴
2017/12/13 06:13
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kikiryu - この投稿者のレビュー一覧を見る
藤沢周平さんの時代小説は、私が住むあの道この道この川と読んでいるとおおー、おおーと声を上げてしまう。ましてこの短編集の中の”狂気”は、新高橋の橋が舞台、毎日この橋を渡り学校に通い、眺めてきた橋。この橋で事件が起こり、犯人の足取りを古地図を見ながら追った。江戸の時代からこの橋はあったんだと感動が走る。
あらためて、歩き眺めてみる。楽しい気分になります。この小説を読んでいるときに、同じような事件が、日本でも起こりました、我が住む町を安全で安心して暮らしていくには、我が町を知るところから始まるのでしょうか。
人生に口を開けた闇の穴。そこに落ちた者たちの顛末。
2011/08/01 15:23
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
人生にぽっかりと口を開ける闇の穴。穴に気づかず落ちてしまう者、否応なく穴に落とされてしまう者、穴に魅入られ自ら足を踏み入れる者、さまざまである。人は闇の穴に落ちたとき、どうするだろうか。本書には、その疑問に答える、闇の穴に落ちた人々の姿が描かれている。
【荒れ野】と【夜が軋む】は、藤沢周平には珍しい怪奇譚。【荒れ野】は、福島のとある伝承を材にしていると思われるが、藤沢流に料理された物語は格別。
【木綿触れ】
足軽・結城友助の妻はなえは、赤子を亡くしてから気鬱となっていた。しかし、高価な絹の生地を夫から買い与えられ、実家の法事に着ていく着物を縫い始めると、以前の明るい妻に戻ったようだった。ところが、法事の三日後、はなえは川に身を投げた。
妻の死因を探るミステリー調の作品。きっちり始末をつける友助には感動させられるが、やり切れない思いに包まれる。
子を亡くした妻の深い悲しみを癒してやるには、どうしたらいいのだろうか。男には、子を失った女性の悲しみの根源を共感できないのが、もどかしい。
【小川の辺】
戌井朔之助は、妻とともに脱藩した佐久間森衛の討手を命じられた。佐久間の妻は妹の田鶴である。田鶴は、朔之助と同じ直心流を使い、幼い頃から気性激しく、討手が兄でも、夫が討たれるのを黙って見ている女ではない。朔之助は、兄妹同様に育った奉公人の新蔵を連れ、江戸へ向のだった。
朔之助を徹底的に嫌い、新蔵に心を開く、一見複雑な田鶴の心情は、優しく接してもらいたいという、一つの思いから生まれたものかもしれない。
2011年7月2日から全国公開された映画「小川の辺」の原作。
【闇の穴】
おなみの前に、五年前行方知れずとなった元夫が現れた。それ以来、何度も訪ねてくるようになった元夫は、用があるのかと聞いてもはぐらかし、薄笑いを浮かべて、そこまで来たから、ちょっと寄っただけだと言って、また帰っていくのだった。
突然訪れた災いの兆しに翻弄される夫婦が生々しい。この夫婦の立場になったとき、薄ら笑いを浮かべ、理由もなくやってくる男に、「もう来ないでくれ」とはっきり言えることができるだろうか。
【閉ざされた口】
女の子は、長屋の裏の雑木林に、椿の繁みにできた空洞を見つけ、『自分の家』だと決めた。そして、いつものように『自分の家』の中で遊んでいると、二人の男がやってきて言い争いを始め、やがて一方が殺された。男は去り、女の子は絶叫したが、舌は凍り付いたままだった。
殺しを目撃した女の子の描写が凄い。女の子の一人で遊ぶ孤独で淋しい姿と、目にした惨劇に恐怖し、声なき絶叫をする姿が、生々しく頭に浮かぶ。
【狂気】
男は、小名木川の岸で、駄々をこね、母親に置いていかれた女の子に声をかけた。女の子は置いていかれても平気で遊び始め、川に落ちないか心配したからだだった。しかし、男が女の子の手を引いて姿を消した翌日、女の子は遺体で発見された。
踏み入れてはならない闇の穴に魅入られた男の狂気を描く。この作品を書いているとき、著者も狂気を帯びていたのではないか、そう思えるほど、男の狂気がリアルだ。そう感じる自分にも狂気の種は内在するのかもしれない。
【荒れ野】
若い僧は、京から陸奥の寺へ、野原の続く道を進んでいた。越えると陸奥の国だと言われた山が正面に見える。二股に分かれた道を過ぎ、日が傾いて野宿を余儀なくされると、若い僧は、にぎやかな京を思い出し、すすり泣いた。そこへ、「もし」と百姓姿の女が声をかけてきた。
福島のとある伝承を材にしていると思われる怪奇譚。
同情と、「止めておけ」とそれを押しとどめる気持ちのせめぎ合いが沸き起こる。うなだれ、悲しみを見せる『それ』の背に、同情の気持ちが動くのは、『それ』の妖気のためだろうか。それとも、『それ』に本当の寂しさを感じたからだろうか。
【夜が軋む】
上州塚原宿の飯盛り女による、身の上に起こった怪奇現象の一人語り。相手は逗留の男。
これから二人で布団に入ろうってときに、こんな話を聞かされちゃあ……。
実際聞かされると、尻込みするに違いない。