赤目四十八瀧心中未遂
著者 車谷長吉 (著)
東京から流れつき、どこに行くあてもない「私」は日の当たらない蒸し暑いアパートの一室でモツを串に刺し続けた。向いの部屋に住む女の背中一面には、極楽の鳥、迦陵頻伽(カリョウビ...
赤目四十八瀧心中未遂
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商品説明
東京から流れつき、どこに行くあてもない「私」は日の当たらない蒸し暑いアパートの一室でモツを串に刺し続けた。向いの部屋に住む女の背中一面には、極楽の鳥、迦陵頻伽(カリョウビンガ)の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」──。圧倒的なストーリーの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描き切る。直木賞受賞で文壇を騒然とさせた話題作。寺島しのぶ主演の映画化も、日本映画大賞など数々の賞を受賞。
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私小説を生き返らせた作家
2005/04/18 18:03
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YORICZKA - この投稿者のレビュー一覧を見る
かつて東京で会社勤めをしていた男は尼崎にたどり着く。テレビもエアコンもないぼろアパートで来る日も来る日も牛や豚の臓物を串刺しにし、その日暮に明け暮れていた。そして彼を取り巻く人物達が時折発する、生命から絞り発せられる言葉や声が綴られ男を否応なく更に奥底へ押し流す。
この小説には血と死と隣り合う生の一瞬の煌めきが一言一言に込められている。そこには二元論的なココロが感じる悲喜も絶望感もない。一見陰惨で極限の境遇を書いているにも関わらず読んでいても胸糞悪くならないのは、美しい風景の描写だとか「アヤちゃん」の不思議な美しさだとかにこの一瞬の煌めきを見ているからだろう。また、作者の他者に対する愛情の深さや実直さが根底にあるからかもしれないと読み取れる節もある。読者を引き込む文章の巧みさも、嫌味に映るケレンではなく実に素直なのである。そしてこの小説は官能的でもある。
昨今の世相や喧騒から目を背けるように人々は娯楽を求め、作家もそれにまみれるように世の浮き草を掬い取るだけの小説が今、氾濫している。そして己と正面から対峙する器量を欠き、生ぬるいナルシストの垂れ流しと堕した私小説というジャンルの退廃に私達は文学史の中でこのジャンルの終焉を見て取った。この小説はいずれの認識に冷や水を浴びせ、私達の目を覚ませるだけの力がある小説である。現在においても尚ここまで優れた私小説が存在する貴重さは誰もが驚きを以って認められるだろう。
『赤目四十八瀧心中未遂』
2006/05/10 14:26
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:森村 翔 - この投稿者のレビュー一覧を見る
わたしを、一年の 間を 空けずに、再度 熟読 する気に させた 本が ある
『 赤目四十八瀧心中未遂 』 だ
これは、映画 『 赤目四十八瀧心中未遂 』 と 抱き合わせで
味わうのが 正しい
原作者 車谷長吉という 人の 小説力は 圧巻だ
でも、わたしは 映画から 入った
それは、女優 寺島しのぶ に 惹かれて 観たのだ
それは 正解だった
わたしは 彼女を、まず 映画 『 ヴァイブレータ 』 で 認めたのだ
そっちでの 共演者 大森南朋 の 演じた、岡部 という
本能で 優しい 男 にも 痺れた
わたし、この 役者は 好きだ
彼の 演じた 役柄のような 人物は、実在するように 思わされるのも、
役者自身の 人間性から 滲み出る 真実に あると 思う
それと、キャラが 対照的だったのが、「赤目〜」での 寺島の 共演者、
大西滝次郎 の 演じた 主人公 生島 の 役どころ
終始 強張った 顔に 緊張を 隠さない 人物像だが、
原作でも、映画でも、最後の 最後に、笑う 場面が 出て来る
その 凄味ったら、ない
こんな 顔を 男が する時とは、一世一代の 愛の 対象を
目の前に している 時だけだから
総じて CAST が とても 印象的で、成功していると 思う
数日前は、明らかに その 影像を 思い浮かべながら 再読した
生々しい描写
2019/09/12 00:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
私小説作家・車谷長吉の代表作。生々しく、じっとりするような描写が迫ってきて、ページを飛ばすように読んでいくものではないが、何度でも読み返したくなる。
この作品は直木賞を受賞した。当然である
2018/05/04 11:25
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
車谷長吉は私小説作家であるが、これは私小説ではない。また、一番長い小説だと思う。この作品は直木賞を受賞した。当然である。素晴らしい作品である。この後車谷長吉は、また私小説に突き進んでいく。それらもまた素晴らしいものが多い。なぜこのような人が長い間認められずに来たのだろうかと不思議に思う。
長吉節全開
2019/01/26 23:28
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「生島君、きみ一遍アヤ子のおめこさすってくれへんかの」「ええおめこの汁しとるど」というすごい、というか小説の世界では到底考えられないような台詞が登場する作品。でも、舞台になっているのが尼崎、というかアマ。それも阪神沿線の出屋敷というアマでもさらにディープな地区だから冒頭の台詞も「アル、アル」と思えてします。今では、阪神尼崎駅前も奇麗になっているが、私も知っている昭和五十年代のアマは、近づきがたいオーラを身にまとっている彫り師の男、貧民街で育った在日の美人・あやちゃん、病死した牛豚を客に食わすが人情家のセイ子さん、こんな人たちとすれ違ったても不思議ではない雰囲気があった
仄明るい、どこか爽やかさのある読後感。
2016/10/31 23:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:390 - この投稿者のレビュー一覧を見る
圧倒的な筆力。ずっと気になりながら未読だったことを後悔した。
大きなドラマチックな展開があるわけではない。しかし、その筆力、迫力で読み切ってしまう。内容は全編を通じて、ハッキリ言って暗い。しかし、ただ暗いだけではなく、どこかに仄明るさのようなものがある。読後感は爽やかと言ってもいいくらい。何とも不思議な作品。
ラスト、心中を「未遂」とし去るヒロイン。私があなたを殺すことはできない。私の生きる先に待つのが地獄だとしても、それでも生きる。――そんな選択をした彼女の優しさと強さが胸を打つ。
小説を読む喜びを再確認させてくれるような本作が、『血と骨』や『定年ゴジラ』といった名作揃いの中、直木賞に選出されたことも何とも嬉しく感じた。
最後の文士
2002/05/31 09:42
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:大島なえ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の作者は、今では最後の文士と呼ばれていい。私小説が死滅しようとしている今、これほどまで文学に命をかけて文章を書く人はいない。本書は作者の自伝的な作家になる前の、世を捨てた一人の34歳の男が尼崎に身を隠すように暮らした間の物語だ。「温度のない町」で底辺に暮らす人々との中にいる私は、それでもバチあたりで、ここに居るものではなかった。毎日、暗いアパートの一室で串カツにする肉をさばいて串にさす。それが自分の仕事だ。と言い切っているが、そこには生きている魂が救われない場をさまよっていた。背中に蓮池に今飛ぼうとしている鳥の刺青を彫るアヤちゃんとの、哀しくてひそやかな愛。
このような作品は、今やこの人にしか書けないだろう。その文章に圧倒されて、読む者の生きかたまで変えようとする、とんでもない小説だ。