紫紺のつばめ 髪結い伊三次捕物余話
著者 宇江佐真理
材木商伊勢屋の主人・忠兵衛からの「世話をしたい」という度重なる申し出に、心揺れる深川芸者のお文。一方、恋人の伊三次は、本業の髪結いの傍ら同心の小者として、頻発する幼女殺し...
紫紺のつばめ 髪結い伊三次捕物余話
商品説明
材木商伊勢屋の主人・忠兵衛からの「世話をしたい」という度重なる申し出に、心揺れる深川芸者のお文。一方、恋人の伊三次は、本業の髪結いの傍ら同心の小者として、頻発する幼女殺しに忙殺される日々。2人の心の隙間は広がってゆく(表題作)。そんな時、小間物問屋の大旦那・惣兵衛殺しの嫌疑が伊三次にかかり……(「菜の花の戦ぐ岸辺」)。他、お文の女中・おみつが行方不明になる「摩利支天横丁の月」など波瀾にとむ全5篇。人の痛みを描く人気捕物帖シリーズ第2弾!
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波乱万丈の展開に読者も釘付け
2007/09/17 04:54
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
宇江佐真理の描く時代小説は現代小説よりも身につまされる。
いろんな読み方が出来るのはそれだけ作品としての間口が広いのであろう。
作者の人となりというか視野の広さが読者にひしひしと伝わってくるのである。
伊三次とお文を理想のカップルと見るかどうかはさておいて、少なくとも男性読者が読めばお文をわがままだけど可愛い女性と捉え、逆に女性読者が読めば伊三次を単純だけどやさしい男性として捉えるであろう。
でも現代に生きる我々もストレス溜まりますが、作中の登場人物はもっと溜まってますね。
それだけ一所懸命に生きなければ過ごせなかったのでしょうね。
なんせ、クーラーも携帯電話のない時代ですものね。当たり前か(笑)
でも彼らの熱き心は現代人以上だと見習わざるをえないのである。
本作においてはやはり“すれ違い”がテーマとなっているのだろう。
特にお互いが強情な故に別れてしまった伊三次とお文。
これは読者もハラハラドキドキするものなのである。
まあ、あるきっかけで表題作にて伊勢屋忠兵衛の世話を受けることとなったお文も悪いのかもしれませんがね。
お金がない(というかこつこつやって生きている)伊三次にとってはショックでしょうね。
2編目から3編目まではより伊三次のイライラがヒートアップする展開が待ち受けている。
「ひで」では幼ななじみの日出吉の死に直面し、次の「菜の花の戦ぐ岸辺」では殺人の下手人扱いを受けるのである。
それも不破は何の庇いもないのである。
ここで悲しいかな、伊三次と不破との信頼関係が崩れる小者をやめてしまうのであるが、逆にお文との関係が修復しそうな方向性で終わるのですね。舟での2人のやりとりはとっても印象的かつ感動的です。
4編目の「鳥瞰図」は、まあ言ったら後に伊三次と不破との関係の修復を図るため、作者が不破の妻のいなみに一肌脱がせたと言って過言ではない感動の物語です。
伊三次がいなみの仇討ちを思いとどまらせるのです。
最後の「摩利支天横丁の月」は、お文ところの女中のおみつと1作目で強盗をやらかした弥八との恋模様が描かれている。弥八が改心し人間的にも成長して行く姿はとっても微笑ましく、おみつとの幸せを願わずにいられません。
いずれにしても、2作目まででこのシリーズの特徴は登場人物キャラクタライズがとてもきめ細かくされているということに気づくのである。
たとえば、ある人を造型的に取り上げるのでなく、いろんな過去のいきさつや生い立ちを巧みに交えてこの人はこういうところもあるんだということを読者に強く認識させてくれる点が、素晴らしいと感じたのである。
いわば、登場人物も作中で変化→成長していっていると言い切れそうなんですね。
それだけ作者が人間の感情のもつれや人情の機微を描くのに長けているという証なんでしょうね。
読者にとって面白くないはずはないと断言できそうな展開ですね。
個人的には伊三次とお文の啖呵を切ったセリフを読むだけで幸せな気分になるのである。
時に熱く、時に胸をなでおろし・・・
絶対、許せない
2010/10/18 20:07
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
> 伊三次は台箱の引き出しを閉じると弥八に向き直った。外から青竹売りの間延びした声が聞こえている。小鳥の囀りもかまびすしい。
> 障子を透かして朝の光が赤茶けた畳に斜めに注いでいる。丸い光の筒の中で埃がくるくると舞っていた。
「髪結い伊三次捕物余話」には、光や水や音や匂いのみごとな描写が随所にあるが、そのなかでもこれは、私の好きな場面の一つだ。
また、「捕物余話」は悲しい話が多いが、ユーモラスな場面も随所にある。北町奉行所の同心不破友之進が中間の松助を連れて岡っ引きの増蔵の詰めている自身番に行き、増蔵の子分の正吉を交えて話をする場面など、笑ってしまう。この正吉は、出てくるたびに、なかなか、いい味わいがある。
だが、それにしたって、伊三次に対する、同心たちの仕打ちはどうだ!不破友之進も、その友人の緑川平八郎も、絶対、許せない。伊三次が弥八に三十両のお金を盗まれた時には、弥八の親分の留蔵から、友之進から、友之進の妻のいなみから、寄って集って泣き落とし口説き落として、弥八を無罪放免させた癖に、伊三次が人殺しの疑いをかけられると、情が移ってはならないからと、緑川平八郎に調べを任せるなんて!!情で弥八を無罪放免にさせた連中が、なぜ、伊三次には情をかけないんだ!!
伊三次は、弥八にお金を盗まれたせいで、髪結いの床の株が買えず、芸者文吉ことお文と結婚できなかった。そのせいで、とうとう、わかれてしまった。それを、伊三次が人殺しをしてお金を盗んだ動機として挙げるなんて!!
それなら、弥八も一緒に引っくくって叩けよ!なんで伊三次だけが拷問されるんだ!!
一度は伊三次とわかれたお文が奔走して、同心たちの手に負えなかった娘に口を割らせた。姐さんに比べて、何をやってるんだ、不破友之進! と思ったら、彼も別の女に泥を吐かせていた。うむ、それはよろしい。
もう少しで商売道具の手の指をつぶされる寸前で釈放された伊三次。自分を信じずに緑川のするままに任せた不破が許せない、二度と御用は勤めない、と、伊三次は、よろよろしながらも捨て台詞を残して去って行く。その背に向けて、蒼白な顔で、何とか元の鞘に戻したい思いで声をかける不破の、「縋るような視線」を、お文が見ていた。
「縋るような視線」でも声でも、なんぼでも、なんぼでも、不破に男を下げさせりゃいいんだ。なぜ緑川がお役御免にならないんだ。なぜ瓦版に書きたてて謝罪と賠償を求めないんだ。いくら江戸時代だからって、ひどいじゃないか!!
まあ、この事件がきっかけで、伊三次とお文が縒りを戻したから、それは良かったけど。
ひどいといえば、不破友之進の妻いなみの実家が没落した理由も、ひどい。いなみの仇は、江戸でのうのうと風流暮らしをしている。いなみに髪を結ってくれと頼まれた伊三次は、いなみの頭に神経性のはげができているのを見て、いなみの心の苦しみを知る。
いなみは、不破の目を盗んで、仇討ちに出かけた。これは役所に届け出ていないので、たとえ本懐を遂げても、処罰される。不破友之進自身にも累が及ぶ。伊三次は必死にいなみを止める。だいじな手をいなみの小太刀で傷つけられながら。
いなみが仇と狙う風流人の武家は、存外の善人だった。殿様の命令で不本意ながらいなみの一族を裏切らざるを得なかった。ある意味でこの武家も被害者なのだ。
一番悪いのは殿様だ。いなみは、ほんとうは、殿様を殺すべきなんだ。でも、敵討ちの許されている江戸時代でも、それは許されない。なんて理不尽な社会だったんだろう。腹が立って仕方が無い。
ついに仇討ちを諦めたいなみに、風流人の武家は、息子は今でも、いなみの姉の命日を忘れてはいない、あなたも息災でいて亡くなった人々の供養を続けてくれ、などという。泣き続けるいなみとともに、読んでいる私も泣いていた。悔しくて、悔しくて。
いなみは、かつて隣家の主婦をそそのかして、この風流人の武家の茶室に放火させた。卑怯な偽善者である。しかし、もとはといえば、すべて、殿様が悪い。殿様の悪事が、巡り巡って、不破家の隣家の悲劇へとつながったのだ。まったく、やりきれない。
それでも、伊三次は、空を飛ぶ鳥から見たら、自分たちは小さな蟻のようなものだという考えも、持っている。髪結いの得意先の絵師の家で、見習いの少年が描いていたような、鳥瞰図を、自分も描いてみたいものだと思って、やってみるが、うまくいかない。手の傷が癒えて、再び髪結いの仕事を始めた時、いなみのはげも治り始めていた。
緑川平八郎も、伊三次に、謝った。
世の中、悪い殿様ばかりでもない。町娘をかどわかすという、悪い噂のある殿様も。実家や奉公先でこきつかわれていた娘たちに、きれいな着物を着せて御馳走を食べさせて遊ばせてくれた。その姿を見ているだけで殿様は満足していた。
だけど、そんな話を、家に戻ってきた娘達がしても、誰も信じない。
お文のかわいがっている女中のおみつは、だから、帰って来たとき、何をきかれても答えなかった。口さがない噂が流れて、かどわかしにあう前のおみつを嫁にと望んでいた男たちも、みんなそっぽを向いてしまった。
でも、あの弥八だけは、おみつへの気持ちが変わらなかった。伊三次とお文は、弥八を連れて、おみつの実家へ行き、おみつの親と話をした。弥八もおみつのそばへ行って、ふたりきりになった。
甘い、優しい、弥八とおみつの、ふたりだけの時間。
こうなってみると、伊三次が弥八を許していて良かった、と言わざるを得ない。
おみつの実家からの帰り道、夢見心地の弥八と、お文と、伊三次の三人を、横丁の月が照らしている。伊三次は、いつか、このひとときをしみじみと思い出して幸せを感じるのかもしれないと予感している。優しい男だからねェ……。
言葉で伝えきれない何かを見る
2004/12/01 22:43
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクヤマメグミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリーズ第二弾。
一作目の「幻の声」を読み終えた時、これから伊三次はどうなってしまうのだろう…と行く末を案じていたけれども、彼はしっかりと髪結いの仕事を続けておりました。
本書の中で、伊三次は人生における様々な別れを経験する。
やりきれない思いを抱えながらも、人は生きていかなければならないということを痛感している。悲しむだけでは何も生まれてこない。
自分の足でしっかり立って歩いている伊三次は、そりゃあ貧乏かもしれないけれども素敵だと思う。
流しの髪結いだなんて一見自由でぶらぶらしているようだけれども、彼は何も考えずに流されているわけではないのだった。
自由を選ぶことは、覚悟も必要なことだ。
伊三次を見て、そう感じた。
今後も多くの経験をして、男を磨いて欲しい。
紫紺のつばめ
2020/11/24 07:28
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukko - この投稿者のレビュー一覧を見る
髪結い伊三次捕物余話 第2
一作目を読み終わり、矢も楯もたまらず直ぐに2作目を読み始めました。
人情にあふれたほのぼの話・・・かとも思いましたが
主人公が許した上司や友を自分ならどうしただろう・・・果たして許せるかな?
人間関係の難しさを考えさせられる一冊となりました。