君を乗せる舟 髪結い伊三次捕物余話
著者 宇江佐真理
伊三次が小者をつとめる定廻り同心・不破友之進の息子、龍之介もついに元服。同心見習いの不破龍之進となった。近ごろ世間を騒がす「本所無頼派」を捕らえるべく、龍之進は見習い仲間...
君を乗せる舟 髪結い伊三次捕物余話
商品説明
伊三次が小者をつとめる定廻り同心・不破友之進の息子、龍之介もついに元服。同心見習いの不破龍之進となった。近ごろ世間を騒がす「本所無頼派」を捕らえるべく、龍之進は見習い仲間と「八丁堀純情派」を結成する。「本所無頼派」の頭を追ううちに、偶然にも淡い恋心を寄せるあぐりに再会して……。「あぐりさんを乗せる舟になりたかった。(中略)馬鹿でしょう? そんなことを考えるなんて」──龍之進の初恋を描いた表題作を含む、大人気シリーズ第六弾!
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我を頼めて来ぬ男、その後
2010/10/24 13:01
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
『黒く塗れ』で登場した、一風堂主人、越前屋醒が再登場。越前屋の話は、この作者の他の作品みたいに、「ひとつ灯せ~」「ええい!」と、気合を入れてから聞いたほうが、良さそうだ。かわいそうに伊三次は、そんな気合も知らず(他の作品だから当然だが)、素直にこわがり、こわいくせに、自分から話をせかしたりして、まんまとのせられている。そんな人の良さにつけこまれて、徳川将軍も大名も恐れて封印していた妖刀をこっそり持ち出したらしい老女を探るようにと、北町奉行所定廻り同心不破友之進から命令されてしまう。けなげにもひとりで屋敷に乗り込む覚悟を決めた伊三次は、越前屋醒に、
> 「この世に不思議なことは一つもありゃしねェ」
と、まるで京極夏彦の小説に出てくる古本屋の主人みたいな啖呵を切る。内心は、がくがく、ぶるぶるなのに。
妖刀は、伊三次の目の前で、あっという間に、三人の命を奪った。どうしてそうなったのか、皆目、見当が付かない。恐る恐る屋敷から逃げ出す伊三次の背中に、
「カタリ」
という音が聞こえた。伊三次は振り向かずに逃げた。後始末に向かった同心緑川平八郎と越前屋醒は、妖刀で自らの手を傷つけた。伊三次だけが、かすり傷一つ負わなかった。
妖刀の住まう屋敷のかもしだす恐ろしさのすべてが、「カタリ」に収斂している。伊三次は後々まで、刀に追いかけられる夢を見る。伊三次と川の字になって寝ている赤ん坊の伊与太も、おとっつぁんの恐怖に感応してこわそうな顔をする。女房のお文だけが、平気な顔で、
> 「今月の実入りはやけに少ないよ。もちっとお稼ぎよ」
とけしかける。御蔭でやっと伊三次も落ち着いた。ありがたや、ありがたや。
おとっつぁんの恐怖に感応する、やさしくてかわいい伊与太は、疱瘡にかかってしまう。伊与太が高熱でうなされているとき、伊三次は、鮮やかな江戸紫の着物を着た娘に出会う。近頃巷で噂の幽霊だ。伊三次は幽霊娘に必死で頼み込む。きっとおまえさんを陥れた悪党をつかまえるから、どうか、伊与太を助けてくれ!幽霊娘はどことも知れないお寺に伊三次を連れて行き、伊三次は、疱瘡からこどもを救うおまじないを見つけた。
> 「おんころころ……」
みごと悪党を捕えた伊三次が大急ぎで家に帰ると、伊与太も快復し始めていた。ちょうど、伊三次が、
> 「おんころころ……」
と祈っていた頃から、伊与太の熱が下がり始めていたのだ。よかった。あの幽霊娘は、ほんとうは誰だったのか、わからないままだけど。
伊与太は、ききわけがよくて気さんじだけど、ちょっと発達が遅いようだ。伊与太よりも半年早く生れた、不破友之進といなみの娘茜は、逆に、同じ頃に生れた赤ん坊と比べても、発達が早いぐらいだ。口も手も足も、そのしっかりしていること、とても伊与太のかなうところではない。
伊与太が風車を吹いて回していると、さっと横取りする。伊与太、ぼうぜん。ややあって、茜の手にある風車を取り返しに行くと、ぱしーんと、(茜の手で)鋭い平手打ち。伊与太、号泣。お文が次々とおもちゃを出すも、すべて、茜に横取りされ、手を伸ばすと「メッ」と(茜に)叱りつけられ、しまいには、(茜と)眼が合うだけで、伊与太は泣き出す始末。
どこかに、こんなカップルが、いたなあ。
そうそう、片岡美雨と、乾監物である。
> 「美雨殿も拙者の心意気だけは買って下さった」
おお~、よかったねえ! 久しぶりに伊三次が会った監物は、剣術に精進した御蔭でスタイルもよくなり、男ぶりを上げた様子。そのうえ、不器用で馬鹿正直な男女の恋を取り持つのに奔走した心意気を買って、美雨も、監物の器量に満足したようだ。
更にうれしいことには、あの不破友之進が息子の龍之介改め龍之進に、
> 「あれはなかなか目端の利く男だ。いずれ片岡様の跡を継ぎ、吟味方与力として腕を振るうだろうて」
と言っている!
よかった。前作『黒く塗れ』を読んだ時、並みの男以上に武芸の達者な美雨に、八丁堀界隈の連中が罰ゲームのようにカスをつかませたんじゃないかと、私は、心配し、憤慨していたんだ。そうじゃなかったんだ。よかった、よかった!
だけど、ほんとうは、『黒く塗れ』で、美雨が満開の桜の下で謡を口ずさんだとき、心の中にいた「我を頼めて来ぬ男」は、すぐそばでその声を聞いていた龍之介じゃなかったのかなあ。年下でも、何年か待つ甲斐のある男だと感じていたんではないのかなあ。
なぜって、今作『君を乗せる舟』で、お文が、龍之介改め龍之進が二十歳になった頃にはどれほどの男ぶりになることか、道を通るだけで娘達が黄色い声を上げることだろう、と言っているからだ。それに、剣の腕もたつし、そのうえ、伊三次の弟子の九兵衛が、龍之進のことを、「意地の強さは半端じゃねェ」と言っているから。こういう男こそ、美雨の理想の男性だったんだろうと思う。
龍之介は元服して龍之進に名を改めた。同じ年頃の少年たちと合わせて六人が同時に奉行所の無足の見習いとなった。彼らは、本所無頼派と呼ばれる不良少年たちの取締りに熱を上げる。無頼派の頭株の男を追っているうちに、龍之進は、憧れのひとあぐりに再会した。前々作『さんだらぼっち』で、龍之進は、あぐりの父が殺人を犯した場面を目撃し、悩んだ末に、とうとう、告発した。あぐりの父は死罪となった。そして、あぐりは、かつては琴を弾き、華を生ける、御嬢様の暮らしだったのに、今は長屋で仕立物などで身過ぎ世過ぎをしてつましく暮らす身の上だ。
龍之進の母いなみは、あぐりのために、縁談を持っていく。あぐりよりも十五歳も年上で、妻を亡くした男の後添えの話だ。暮らしは豊かになるが、それって、親切なんだろうか。あぐりはまだ十六歳だ。『紫紺のつばめ』で、かどわかしから戻ってきたおみつに、三人の子持ちの男の後添えの話があると聞いたとき、お文は、あんまりだ、まだ十六なのに、と言って泣いた。それと同じじゃないのか。
だけど、あぐりは、本所無頼派の頭株の男に、もう少しで騙されて吉原に売り飛ばされそうになった。それを、龍之進や伊三次や不破友之進や不破家の下男の作蔵が、身を挺して守ってくれた。特に作蔵は、かつて、自分の娘を身売りした罪悪感から、ほんとうに命を投げ出してあぐりを守った。その作蔵から、今際の際に、後添えの話を受け入れるようにと言い遺されてしまっては、あぐりは、逆らえない。
あぐりのために、「君を乗せる舟」になりたい、と、伊三次だけに打ち明ける、龍之進。あぐりに、龍之進が二十歳になるまで待って貰うことはできなかったのかな。みんな、親切でしているようだけど、あぐりから、年下でも彼女にふさわしい男と結婚する機会を奪ってしまったんじゃないのだろうか?
龍之進を見守る伊三次の優しさに、読んでいる私も慰められる。龍之介が龍之進になったのと同じ様に、伊三次も、いつの間にか、若い男から、円熟した大人の男になったようだ。
君を乗せる舟
2021/06/21 10:22
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投稿者:yukko - この投稿者のレビュー一覧を見る
髪結い伊三次捕物余話 第6弾
世代交代?
不破の旦那と伊三次の子供たちが大事な場面で何度も登場
元服したり、病気で命が危うくなったり・・・
登場人物が皆魅力的で誰が主人公になっても良い感じ
読み手もその日の気分で感情移入する相手が変わります
