剣客群像
著者 池波正太郎 (著)
女武芸者の佐々木留伊が、夜の町に出没して<辻投げ>をおこなうのも、つまるところは、男を漁り男を得、子を生み妻となり母となりたいがためのことなのである──という書き出しで始...
剣客群像
商品説明
女武芸者の佐々木留伊が、夜の町に出没して<辻投げ>をおこなうのも、つまるところは、男を漁り男を得、子を生み妻となり母となりたいがためのことなのである──という書き出しで始まる「妙音記」は、美しく強い女の人生の転機をユーモラスに描いている。ほかに試合で負けたものは勝者の弟子になるという、奇怪な申し出で闊歩する男たちを描いた「秘伝」など、小気味よい江戸の日常を背景に、エロスに根ざす人間の欲望を個性ゆたかな剣客の姿を機智をもってとらえた七篇。
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武道に身を投じて得た濃厚な人生の数々が、生々しく力強く流れ込んでくる8編。
2010/05/17 19:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
本のタイトルと通り、剣客をはじめとする武道に身を投じた者たちの、生々しく濃密な人生を描いた作品。
彼らの人生を通して、力強い生命力が、流れ込んでくるのが感じられる。
以外は実在の人物。
【秘伝】
「腕に自身のある者は日本無双の剣士と勝負せよ」と建札を立て、江戸城大手門広場の一隅に座る岩間小熊。
彼の狙いは、かつての同門・根岸兎角が盗み出した、師の秘伝書を奪還することにあった。
その書物に書かれていた秘伝とは……。
岩間小熊、根岸兎角、土子泥之助ら同門の秘伝書を巡る物語を通して、秘伝書の中身を知った、三人それぞれの受け取り方描いた作品。
三者三様の生涯と、それを見透かしたような師の教えは、現代の人々の秘伝にもなるのではないだろうか。
この物語は『秘伝の声』に昇華したようである。
【妙音記】
女武芸者の佐々木留伊が、夜な夜な辻投げを行っていたのは、藩の武芸指南の家柄に相応しい男を捜すためもあったろうが、自分より強い男を欲する女の本能でもあった。
大きくなっていく騒動に、藩主が乗り出し男を選んだものの、留伊はあくまで試合に拘るのだった。
男勝りの留伊が意外な出来事で女となり、試合に決着がついてしまうユーモラスな作品。
相手の小杉九十郎のキャラクターも良いが、佐々木家の女中おちいによって締めくくられる結末もたまらない。
主人公佐々木留伊は、代表的な女剣士・剣客商売の佐々木三冬の他、池波正太郎作品には、自分より強くなければ嫁に行かないと豪語する女剣士が数多く登場する。
この物語の世界を広げたと思われる作品『まんぞくまんぞく』にも、魅力的な女剣士・真琴が登場し、読者の心を鷲掴みにする。
【かわうそ平内】
ささやかな道場を構え、四十にして腰の曲がっている辻平内は、かわうそに似ていた。
ある時、門人もおらず喜捨とあわれみで腹を満たしていた平内の元に、敵討つ身の武士・杉田兄弟が訪れた。
仇の山名源五郎は剣術に優れているのに、一向に剣を教えようとしない平内に、弟の弥平次はあきらめてしまった。
とても強そうに見えない飄々とした辻平内に「本当にこの人は大丈夫なのだろうか」と疑いの目が向いたあとに見せる、達人的な術と、敵討ちの下準備を行っていたしたたかさが爽快。
【柔術師弟記】
関口八郎左衛門氏業は、十歳の頃から手元にいて柔術を学んだ井土虎次郎の変貌ぶりに、とまどいを覚えた。
虎次郎に小父さまと慕ってきた頃の姿はなく、禁止されていた他流試合を行い、道場を荒らし回っていた。
師の前では殊勝にしていた虎次郎だったが、八郎左衛門が彼の所行を問いただすと、慢心を隠そうともせず、破門してくれてもよいと言い放った。
心を教えきれなかった師としての悔恨と、虎次郎を寵愛した親代わりとしての哀惜が描かれている。
池波正太郎版『泣いて馬謖を斬る』
【弓の源八】
兄・子松十右衛門が松江藩の汚職事件に連座して処分されると、年少の頃から弓狂いだった弟・源八も城下から追放されてしまった。
城下から五里ほど離れた村外れの、木樵小屋に住居を許された源八は、村人からその純粋で実直な性格に好意を持たれていたが、好きだった弓からは遠ざかっていた。
源八は村のとある女の助言で、弓の稽古を始めると、今度は世話になり物騒になってきた村の見回りを勧められた。
兄・十右衛門の牢死によって、奇人と呼ばれるほど愚直となった源八の、その行動に裏に潜む真実を描いた作品。
奇人と呼ばれながらも愚かしいほど真っ直ぐな源八の姿には、どこか颯爽とした清々しさが感じられる。
【寛政女武道】
牛堀家の女中・お久は、牛堀道場の門人・松岡弥太郎と関係をもった。
「二人は今日かぎり。そして他言は無用」というお久の声は、威厳に満ちていたが、実は弥太郎と同門・坂口兵馬の賭の対象であった。
そんなお久が、主人・牛堀九万之助と老僕の不在の中、夕刻まで針仕事をしていると、悪友五人をつれた弥太郎と兵馬が現れた。
かつて身をやつしてのめり込んでいたお久の妙技と、女でありながら武士としてみごとな行動をとるお久を描いた作品。
武道に反する弥太郎や兵馬、そして兵馬の兄の振る舞いが、お久の武道ぶりを際立たせている。
【ごろんぼ佐之助】
周囲の噂もあって、自分を用人の落胤だと思いこんだ原田佐之助の行状は荒れていき、伊予の破落戸となっていた。
脱藩して江戸にやってきた佐之助は、近藤勇の道場に居候していたこともあり、新撰組と行動を共にし、維新の奔流に飲み込まれてゆく。
新撰組十番隊組長・原田佐之助伝。
馬賊伝説も取り混ぜられており、原田佐之助の豪快な人物像が描かれている。
【ごめんよ】
無頼者に絡まれ、弟を置いて逃げ出した青山熊之助は、剣術を学ぶ決意をした。
熊之助が入門を願ったのは、剣客との噂はあるものの、爪楊枝ばかりこしらえている寺の菜園番・山崎平のところだった。
幕末の動乱に揺れるなか、兄を慕う弟と家督を放り出して師とともに江戸から姿を消した熊之助は、五年後に戻ってきた。
主人公・青山熊之助は、実在の人物のように描かれているが、創作上の人物。
弟を置いて逃げた事件によって変わった熊之助の人生と、いつまでも弟を思い、過去の事件が胸に巣くっている熊之助を、力強くも切なく描いている。
最後に伊藤博文と共演させて熊之助を描いているのは、にくい演出。
時系列短編集
2026/06/14 17:32
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
家康の時代から慶喜の時代まで江戸時代を舞台にした短編集である。作者の代表作である「剣客商売」の原型と思われる作品があって、とても興味を惹かれた。時代が下るにつれて面白さが増してくるような気がするのはなぜだろうか?
