時雨の記(新装版)
著者 中里恒子 (著)
夫と死別して一人けなげに生きる多江と、実業家の壬生。四十代の女性と五十代の男の恋は、知人の子息の結婚式で二十年ぶりに再会したことから始まった。はじめて自分の本音を話せる相...
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商品説明
夫と死別して一人けなげに生きる多江と、実業家の壬生。四十代の女性と五十代の男の恋は、知人の子息の結婚式で二十年ぶりに再会したことから始まった。はじめて自分の本音を話せる相手を見つけた男と、それを受け止めてなお甘えられる男に惹かれて行く女。人生の秋のさなかで生涯に一度の至純の愛にめぐり逢った二人を描き、人の幸せとは、人を愛するよろこびとは、を問う香り高い長篇小説。雅びな恋愛小説を数多く遺した中里恒子の作家案内と自筆年譜付き。
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大人の恋の物語
2008/11/16 13:06
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:碑文谷 次郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「自分には一生をかけての恋なんて、ないのだな、みんな、その時どきの出来心さ、俺が死んだとても、誰が、本気で泣いてくれるだろうか」という孤独を抱いている50代の会社経営者と、大磯で茶道教授してわび住まいの40代寡婦との短くも激しい恋情を描く傑作である。書き下ろし長編として発表された1977年から30年余を経た今でも、人生の大半を過ごした二人が、尚互いを必要とする真摯な求め合いは胸を打つ。私用運転手を自由に使い、普請道楽で、ヒステリー症の妻をもつ会社社長は、やがて「ほんとに、僕はただ、僕という男を、なんとか、あのひとに強要したいためばかりに、熱中」し、女には「良人が在世の頃には、このような喜びはなかった」という感情が芽生える。そして、二人は「生きているというのはこういうことか」という感動に身を焦がす展開に入ってゆくのである。
この小説のかもし出す哀切さは、昨今の不倫小説とは決定的に違う視点から二人をとらえている事にあろう。つまり、SEXを隔絶し、その一過性を過小評価することによって、その先にある何か別のものを作者は掴もうとしているようだ。男は独白するー「男と女が寄れば、すぐただならぬ仲になるなどというのは、ただの本能だ。恋のたのしみを長くたのしむ為には、ただならぬことになってはいけない」。だから、その燃える気持ちは、海外出張先からの綿々たる葉書・手紙に表れ、ついには二人で棲むための箱根の小さな家の設計図の形となる。常備するニトロールで心臓発作を抑えながら、こうも云うー「年齢?そんなことは関係ない。たしかに障害はある、障害があるから募る、思いが募るから抑える、抑えるからつよくなる、という因果のようなものじゃあないか。」
老いても尚、自分の夢を持ち続けそれを稚拙といわれようとも実現に向かってがむしゃらに進む男と、それを柔らかく包んで受け入れようとする女の大人の恋を活写して間然するところの無い物語である。