面白いのだから仕方ない
2021/06/24 15:48
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第74回直木賞受賞作。(1975年)
但し、文春文庫で刊行されたものは「改訂新版」となっていて、最初に書き下ろした時より実に30年以上経った2007年に作者自身の手によって全面的に書き直されたものだ。
受賞作とこの「改訂新版」がどのような違いがあるのか、研究者でもない単なる読者からすればそれを明らかにすることもない。
ただ読んだ作品が面白いかどうかだ。
受賞時の選考委員の中でも「一番面白かった」(村上元三)「一番読みごたえがあった」(川口松太郎)といった意見があったように、受賞時の作品もやはり読書の醍醐味が評価されたといえる。
佐木はこの「改訂新版」の「あとがき」にも、この作品のことを「ノンフィクション・ノベル」と書いているように、この作品は昭和38年秋から翌年1月に起こった連続殺人事件「西口彰事件」をモデルにしたものである。
この「ノンフィクション・ノベル」について、直木賞の選考委員のひとり柴田錬三郎は「そんなジャンルを認めることのばかばかしさが先立つ」と全否定している。
確かにこの作品は登場人物の名前等は変えられていて、ノベルといえるが、一方でノンフィクションを否定するものではない。
この作品を原作として今村昌平監督が1979年に映画化しているが、今回原作を読んでその違いに驚いたが、ノベルというのであれば映画となったものの方がフィクションの要素が高い。
ノベルにしろフィクションにしろ、この作品の一番の力はやはり面白さだろう。
「読んでいて面白いのだから文句のつけようがなかった」とある源氏鶏太の選評がすべてを語っている。
自己の生き様に復讐か......。
2013/02/27 18:37
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投稿者:dankousaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
同名の映画も強烈な印象を受けたが、克明に事実を追う文章には圧倒された。
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今村昌平による映画は緒形拳の迫力の演技が印象に残る衝撃的な名作だった。その原作ということで今回初めて読んだが、これも衝撃を受けた。書いてあることではなく、書いてないことに。今村映画で中核をなすエピソードがほとんど書かれていないのだ。
ひとつは主人公榎津と家族の関係。特に父と妻の関係が事件の背景として大きく影を落としているが、原作にはその関係を示唆するような記述すらない。
ふたつめは「あさの」の母娘殺人があっさりとした記述しかないこと。今村映画では、母娘は指名手配犯人であることをわかった上で、自分たちも殺される予感を抱きながらも榎津と関係を続ける。榎津も自分のことがばれていることを知っており、それでも拒絶しきれない彼女たちを本当に殺してしまうのかという緊迫感。そしてついに二人とも殺してしまうときの衝撃。原作ではここもだましきった上での殺人、という扱いである。
つまり、これらのエピソードは今村映画の「創作」だったのだ。恐るべし。
だからといって、この原作が面白くないというのでは決してない。事件に関連した人々の、物語の本筋にはほぼ関係ない逸話を丹念に描くことによって時代を映していくかと思えば、榎津が神出鬼没に大胆不敵な詐欺を繰り返すあたりのスピード感は爽快ですらある。
久々に高木彬光の「白昼の死角」を読みたくなったが、こちらは残念ながらガラパゴスにはない。
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「文庫本あきとがき」で著者自身も書いているが、手法としてはカポーティ
の名作『冷血』と一緒か。
実際にあった事件のノンフィクション・ノベルだが、犯人の名前は勿論
変えている。
九州での強盗殺人事件を皮切りに、静岡県で旅館経営者の親子を殺害。
殺害後、旅館に質屋を読んで物品を処分する。
その後、弁護士を装い、千葉県、北海道、栃木県、東京で詐欺を働き、
東京では老齢の弁護士を殺害し、洋服ダンスに死体を隠したアパート
で数日過ごす。なんだ?この神経は。
そして、舞い戻った九州で再度弁護士を装い教誨師に接近するも、
11歳の娘に正体を見破られあっけなく逮捕される。
昭和38年から昭和39年の初めにかけての、78日間の逃亡はこれにて
幕を閉じる。
取り調べの模様から裁判、そして死刑執行までを描いているが、描写は
あくまでも淡々としている。殺人は確かに起きているのだが、その凄惨な
場面は一切なし。まるで新聞記事を読んでいるようだ。
日本縦断で犯行を繰り返した犯人の動機は分からないが、カトリック一家
に生まれ育った犯人が最後には死刑判決を受け入れ、信仰に帰依する。
緒方拳主演の映画では犯人像ばかりに焦点が当てられていたが、原作は
逮捕から刑の執行までの心理の推移が読みどころか。
尚、モデルとなった西口彰事件の犯人は「史上最高の黒い金メダル
チャンピオン」「悪魔の申し子」と呼ばれ、1966年に死刑確定、4年後に
刑場の露と消えた。
呼んでいる間、緒方拳の顔がちらついて仕方なかった。同名映画もそうだが、
「鬼畜」も観たくなったなぁ。
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ノンフィクション小説の金字塔と言われていますが、私にはなぜか文章が素直に入ってこず、時間がかかりました。
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緒形拳や柳葉敏郎などにより何度も映画化、ドラマ化された大量殺人実話。
鬼気迫る演技ばかりに気を取られるが、実話は更に狂気じみている。戦後史に残る事件として驚きに満ちているの。
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第74回 昭和50年下直木賞受賞作。欲望の赴くままに強盗殺人と詐欺を重ねて日本中を逃走する犯人と彼を追う警察との追走劇。実際に発生した事件を題材にしており、犯人と被害者、彼らの家族や知人、警察・法曹関係者たちのそれぞれの立場での描写が生々しく迫ってくる。「週刊新潮」編集部シリーズのようなノンフィクションノベルが好きな人におすすめ。1979年に映画化された今村昌平監督の同名作品は犯人役の緒方拳や三国連太郎、倍賞美津子らの迫真演技と脚本の良さにて小説の雰囲気をそのまま楽しめる。こちらもおすすめ。
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実在の連続殺人事件を淡々と描く。500ページと長いが、読み出したらあっという間。文章自体に色気はないけど、こんなに読みこませるってのは凄いことだと思う。ほとんどフィクションなんじゃないかってくらいの、取材の綿密さ。どうやったらこんなに切り込めるのか。被害者や関係者の気持ちがよく分かるもんや、と終始驚いてました。
ただやっぱり歴史を感じるなぁ。女性の権利がまだ確立してなかったんだろな。
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創作部分もあるドキュメンタリー。この世の中に榎津のような人間は多く居るのだろうけど、それを実行に移す者が出てこないだけなのだろう。新約のローマの信徒への手紙にある一節「復習するは我にあり」を題名とした著者のセンスは、榎津が犯した犯罪や、それを詳細に綴った本作の内容にも増して凄いと感じた。
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[落とし前の清算]東京オリンピックを目前に控えた昭和38年(1963年)、九州で強盗殺人を犯した榎津巌は列島を縦断しながら、殺人と詐欺を繰り返し警察からの逃亡を図る。初の全国一斉捜査が行われ、その当時、史上最悪の殺人鬼と恐れられた榎津であったが、ある少女の通報を基に逮捕され、刑の言い渡しを待つ身となり......。第74回直木賞を受賞したノンフィクション作品です。著者は、本書の執筆を機に、自身の人生が大きく転回したと語る佐木隆三。
(実際に起きた事件ですので不謹慎な表現かもしれませんが)とにかく作品全体のグリップの効きがすごい。冒頭から最後まで、怒濤の如く作品世界に引きずり込まれること間違いなしです。榎津という犯罪者の描き方、それを取り巻く人々の困惑や苦悩、そしてさらにその周縁を囲う当時の社会の空気まで、見事に描ききった一冊だと思います。今村昌平監督がメガホンを取った同名の映画もぜひ観てみたい。
結果としてかもしれませんが、逮捕に至るまでは犯人の榎津にまったく語らせず、彼と何らかの関わりを持った人々の口を借りて、その人間性を浮かび上がらせていった筆の運び方は、後半の榎津の語りをより浮かび上がらせるために正解だったのかもしれません。それにしてもここまで重厚な社会ノンフィクションを久しぶりに読むことができて一人大満足です。
〜絶対に警察には捕まらない。悪しからず。〜
古さをぜんぜん感じさせない作品でした☆5つ
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昭和38年の連続強盗殺人事件を描いた直木賞受賞作。
福岡市で男性二人が惨殺された強盗殺人から、玉名市で少女に見破られるまで78日間の逃亡劇が、親類縁者・友人知人・同僚や目撃者と捜査関係者の証言・資料をつないで綿密に描き出された大作。全国津々浦々で多くの人を欺き続けた大胆な逃亡生活は驚愕に値する。犯行の性質上、また綿密な足跡調査のために事件関係者としての登場人物が多く、誰の話なのか、誰の主観なのか追いづらく、読みやすくはなかった。でも著者の主観や不要な感傷に邪魔されることもなく、過不足なく描かれた事件の全容と、証言・資料をもとにした各関係者の心境描写はバランスが小説として秀逸。
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ずーっと昔に観た映画も凄かったが、原作も期待に違わず圧倒されました。まったく無駄のない文体が、迫真性を際立たせています。一気に死に追いやる残忍さと、いともたやすく人を欺く知能犯ぶりが一人の人間のうちに同居する、化け物のような犯罪人榎津の恐ろしさが伝わってきました。実際に起こった事件をもとに作られたのですが、本当に「事実は小説より奇なり」ですね。
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綿密な記録調の文面に最初は「うへぇ…」となりますが徐々にクセになり、やがて著者の気迫に圧倒されます。何も知らず読んだだけにチャクラ全開になりました。そして私はこれ以上にかっこいいタイトルを持つ本を知りません。奇しくも先日著者の訃報が流れ、驚きました。。素晴らしい本でした。
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実際にあった事件を題材としたノンフィクション的作品。淡々と経過が書かれており、読みにくい部分もあった。
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フィクションとノンフィクションの境目が分かりにくかった。(明確な部分も少なくないけれど)やはり小説としての作品なのだろう。読んでいて最後の方は犯人に肩入れしてゆくのが不思議だったがこれは作者が意図してることなのだろうか。誰に、何に復讐するのわからないまま、己に対してなのかなと思うことにした。