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火の鎖
著者 赤松光夫 (著)
東海村の原子力研究所から一人の研究員が消えた。一週間後、続いてインド人記者レイも消息を断った。日本新聞外報部の記者夏目泰造はレイの妻と助手と共にその行方追うが、二人は何者...
火の鎖
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火の鎖 (徳間文庫)
商品説明
東海村の原子力研究所から一人の研究員が消えた。一週間後、続いてインド人記者レイも消息を断った。日本新聞外報部の記者夏目泰造はレイの妻と助手と共にその行方追うが、二人は何者かの手によって相次いで殺される……。複雑な国際情勢下で東西の均衡を図る原子力開発――その舞台裏に浮上した二つの失踪と連続殺人事件! さらに空中に炸裂する飛行機事故!! 異色の長篇スパイ・ミステリー。
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明るい未来の裏側
2021/03/14 09:02
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
東海村に原子力研究所と発電所の建設が進む1960年代初め、一人の技術者が失踪する。核開発競争のために中国から引き抜かれたという噂が流れる。一人のジャーナリストが調査しようとしたが手がかりはない。その友人のインド人ジャーナリストも来日するが早々に失踪、それを追って来た妻は何か隠し事をしている。
そもそも所属組織も警察もメディアも事件には関心を払っていない。科学の進歩と明るい未来像に沸き立っていた日本の人々には、自分たちの手にしようとしている核技術がどんな波及効果をもたらすのか、冷戦の当事者となることの恐怖といった、未来の暗い面に頭が及んでいないらしい。そういう当時の風潮を暗黙に取り込んでか、反映されてか、この作品の構成が生まれているように思える。
中華系らしき情報源を持つと思われるインド人ジャーナリストと、MI5あたりと繋がっていそうなイギリス人ジャーナリストの行動は謎に包まれ、関わった女性たちが次々に殺されて、さらに謎は深まる。そして主人公の知らないところで、事態は刻々と動いていく。
こういう展開は、おそらく当時の日本の実情がそのまま現れていたのではないか。極東にあって、また冷戦においても核の傘の下にいて、グレートウォーの最前線について知らされもしていなかったわけで、日本で各国の工作活動が行われていても誰も気がつかないし、気にもしない。ジャーナリスト一人が突き回ったところで、関心も引かず、事態がそれによって動きもしない。そういう現実の世相が如実に現れてしまっている。
超人的なタフガイの活躍するようなカタルシス溢れる作品とは言えないが、庶民一般と国際政治の裏側をつなぐようなスペースがここでは生み出されており、たとえそこが空虚であってもやはり創造なのだ。