きまぐれ博物誌
著者 星 新一
ばか話をきらって“常識”のなかで妙に深刻ぶり、笑顔を見せない国民性。趣味のアメリカのひとこま漫画収集のこぼれ話。コンピューター時代の管理社会のおかしなおかしな矛盾。はては...
きまぐれ博物誌
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商品説明
ばか話をきらって“常識”のなかで妙に深刻ぶり、笑顔を見せない国民性。趣味のアメリカのひとこま漫画収集のこぼれ話。コンピューター時代の管理社会のおかしなおかしな矛盾。はては、週刊誌の電話アンケートに応じて、首相のボディーガードやら心臓移植手術をやってみたいと提案する。ちょっとアマノジャクな著者が、SF的発想と鋭い観察眼をとおして書きつづった好エッセイ集。(「きまぐれ博物誌・続」と姉妹編)
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思い出話、プライベート、仕事、小説、社会、未来。さまざまなことをあれこれ語るきまぐれエッセイ集。
2011/10/13 16:58
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和四十三年から四十五年に書かれた星新一のエッセイ集。『きまぐれ星のメモ』に続く第二弾。
文庫本にする際、量が多いため『きまぐれ博物誌』と『きまぐれ博物誌・続』の二冊に分けたそうだ。
本書は気の利いた一文で始まる。
「ことしもまたごいっしょに九億四千万キロメートルの宇宙旅行をいたしましょう。これは地球が太陽のまわりを一周する距離です。速度は秒速二十九.七キロメートル。マッハ九十三。安全です。他の乗客たちがごたごたを起こさないよう祈りましょう」
これは、星新一が友人たちに宛てた年賀状の文面。
年賀状はデザイン重視にしてしまいがちだが、こういうユニークでユーモラスな文面重視の年賀状もよさそうだ。
いきなり心を掴まれることで始まった本書は、思い出話、プライベート、仕事、小説、社会、未来、とにかくさまざまなことについて語られていて、ひとくちに特徴を言いづらい。
あえて言うなら『きまぐれ』である。
そんな58のきまぐれエッセイの中から、印象に残ったものをピックアップ。
【習字】
大学生の頃、ノイローゼになった星新一。
意を決して医者を訪ねると、毎日かかさず習字をしなさいと言う。
実行した結果、症状が軽くなったそうだ。
雑念を払う作用が良かったらしいと述懐。
情報が氾濫して、ながら作業をしがちな現代も、一つのことに集中する時間が必要のように思う。
【新しい妖精】
星新一は独身の頃に、『ピーターパンの島』(『悪魔のいる天国』に収録)という作品で、合理性だけが世を支配し、妖精や怪物など想像の産物が一掃された世界を描いた。
やがて結婚し、娘ができた。そして五歳のある日、ラジオを聞きながら言ったという。
「このなかに、おじいちゃんがはいっているの」
またある時、テレビを見ながら言った。
「あのガラスをはずせば、むこうの世界へ行けるの」
『ピーターパンの島』を書いていたこともあって、かなり驚いたらしい。
そして星新一は、娘の言葉に、事実を理解させるには、どう答えたらいいのか、真剣に悩む。
大抵、笑って済ませるところなのだが、生真面目すぎるというか、夢がないというか。
「『ピーターパンの島』そのままじゃないか」
と著者に問いかけたくなった。
【官吏学】
以前、星新一は、父・星一と官吏との長い争いを『人民は弱し官吏は強し』に描いた。
私は、その官吏の理不尽さと執念深さに、恐れと怒りを抱き、星一の奮闘に昂ぶりを覚えながら読んだ。
ところがである。
このエッセイでは、「十年以上に渡って官吏と争った父のエネルギーはどこからきたのか」と考察しているのだが、官庁を相手に争うことが、一種の趣味になっていたのかもしれない、というのだ。
星一は、官庁と争っている時期に、彼らと闘うために四巻計4500ページに及ぶ『官吏学』を、『官吏学摘要』という1300ページのダイジェスト版としてまとめた。
しかも、それを相手の官庁に配ってまわったというし、朝は楽しげに起きていたという。
『人民は弱し 官吏は強し』で覚えた感情が、少ししぼんだ気がした。
【人物描写】
人物描写をほとんどしない星新一だが、そもそもの始まりは、
「アメリカのミステリー短編にあるような、ストーリーによって人間性のある面を浮き彫りにできるはずだ」
という考えかららしい。
しかし、いささか突っ走りすぎ、すなわち人物描写に反発するあまり、主人公が点と化してしまったとのこと。
でも、それが魅力なんだよなぁ。
【平和学】
星新一は、戦争の概念すら一掃した世界を『白い服の男』(『白い服の男』に収録)で描いた。
このエッセイで星新一は、「極端すぎるかなと思ったが、戦争をなくすには、他に方法はない。人は戦争についての知識を子孫に伝えるべきではない」と語る。
しかし、そうだろうか。
星新一は、「病気反対、健康」と祈るだけでは無意味なのと同様に、「戦争反対、平和」と唱えるだけでは平和はやってこない、とも言っているが、戦争の概念を一掃したとしても、戦争はなくなるとは思えない。
戦争は、それに関する情報を得たことで起きるのではなく、人の怒りや欲望の結果だと思うのだ。
つまり戦争はなくならない。
結局、一生つき合っていくしかない不治の病と同様に、それを抑制するよう嫌戦のムードを高めるしかないのだと思う。