- 販売開始日: 2011/10/07
- 出版社: 新潮社
- ISBN:978-4-10-329461-0
タワーリング
著者 福田和代 (著)
「我々は、ウインドシア六本木をビルジャックした!」。ビル会社社長を人質にとり、最上階に立てこもる犯人。地上で手をこまねく警察を前に、17階のオフィスにいた船津康介はある奇...
タワーリング
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商品説明
「我々は、ウインドシア六本木をビルジャックした!」。ビル会社社長を人質にとり、最上階に立てこもる犯人。地上で手をこまねく警察を前に、17階のオフィスにいた船津康介はある奇策を思いつくが……。最先端技術を極めた都市の要塞と、どんな時代も変わらぬ人々の「思い」が交差する、どんでん返し満載の城攻めサスペンス。
著者紹介
福田和代 (著)
- 略歴
- 1967年兵庫県生まれ。神戸大学工学部卒。金融機関でシステムの構築と管理を手がける。2007年「ヴィズ・ゼロ」でデビュー。ほかの著書に「迎撃せよ」「ハイ・アラート」など。
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映画のダイ・ハードを見ているせいか、驚きは感じません。無論、捻りには「ああ、そうか」とは思いますが、どうも快哉をあげたくはない。それと、こういう話なら男の書き手がいるし。男性作家並みではなくて、それを越えてくれなくちゃあ、高村薫みたいに・・・
2012/03/05 20:36
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
女性作家としては珍しい道を歩んでいる気がするのが福田和代です。女性作家といえば心理サスペンス、あるいはややファンタジー味のある推理、あるいは江戸時代を舞台にした人情ミステリというのが専らですが、福田はハードサスペンス、あるいは警察小説、犯罪小説に特化して作品を発表しています。ま、私が読んだのは『赤と黒の潮流』『オーディンの鴉』『怪物』、今回の『タワーリング』をいれて4冊なので断定はできませんが、他の本も一応は内容案内程度はチェックしているので大きくは外れていないでしょう。
文章も、女性らしいというと変ですが、柔らかな表現というよりは男性的。ですから、最初に『赤と黒の潮流』を読んだとき、これは男性ではないか、と思ったほどです。ともかく内容と文章とが見事にバランスしている。となると、読み手の側としても、女性作家として受け止めるのではなく、純粋にハードサスペンスとしての出来をみる。勿論、比べる相手のほとんどが男性作家の作品、ということになります。
で、正直、今までの作品、〈女〉でここまで書くか、とは思わせはするものの、〈女〉という断り書きを取ってしまえば、まあ、平均かな、というレベルでしかありませんでした。確かに、よく調べてはいる。甘ったるい男女関係を持ち込んで、話のベクトルの向きを捻じ曲げることもない。直球勝負というのはわかります。でも、所詮は130キロ台。コースを丹念について、バッターを研究してはいても強打者には勝てない、そういう感じ。ま、『怪物』は変化球で打ち取った、っていう感じではありましたが。
で、お話ですが、簡単に言えば
六本木ヒルズが何者かによってビルジャックされ、犯人たちにビルのオーナーが人質にとられた。犯人グループの要求が不明のまま、時間は推移する。進んだ警備システムに侵入を阻まれた警察、そしてビル管理会社社員の考え出した社長救出作戦は成功するのか・・・
ということです。勿論、実際の六本木ヒルズや森美術館が舞台になっているわけではありません。乗っ取られたビルは六本木の超高層ビル・ウインドシア六本木ですし、管理会社も森ビル株式会社ではなくて株式会社マーズコーポレーションとなっています。でも、イメージとしては六本木ヒルズを思うのがいい。少なくとも東京ミッドタウンではないし、サントリー美術館でもないことは間違いありません。
それはカバーを見てもよくわかります。装幀 新潮社装幀室とあるだけで、カバー画がイラストなのか、CGなのか、それとも写真なのか、オリジナルを加工したものなのか不明ではあるものの、この曲線が目立つビルはミッドタウンの角ばった、ある意味、オリジナルデザインをコストダウンを理由にいじくりまわした、一見高価、でも実は値切りました、っていう外観とは一線を画してはいる。
でも、建物の絵(写真?)はともかく、カバー紙のテカテカと空の夕焼けか朝焼けか知りませんが、安直なグラデーションはないのではないでしょうか。せっかくの建物のハイテクさの足を引っ張って、建物だけみれば20世紀末、でも本の雰囲気は1980年代、ってアンバランスなものにしています。ちなみに、あえて21世紀の建物としなかったのは、シンガポールのあのプールを屋上に乗せた建物を見てしまうと、見劣りがするから。少なくとも我が国の高層ビルデザインは東南アジアのそれに負けている現実があるからです。
閑話休題。物語は、プロローグ、本文16章、エピローグからなり、初出は「小説新潮」2010年1月号~4月号、単行本化にあたり、大幅に加筆・修正をしているそうです。で、大雑把に紹介した内容からは、多くの方が映画『ダイ・ハード』を思い浮かべるのではないか、ということです。ま、映画にはタフな刑事が登場し、こちらは17階のオフィスに閉じ込められたビル会社の課長待遇の35歳の独身社員が奇策を思いつくので、違っているのは確かですが、でも雰囲気は一緒です。
ちなみに、その独身社員、船津康介ですが、本の8頁には「およそ十一年前に、株式会社マーズコーポレーションの企画事業部に入社」と8紹介されていますが、部署に入社というのはおかしい。日本語としては「11年前に株式会社マーズコーポレーションに入社、企画事業部に配属される」が正しいのではないでしょうか。
で、お話ですが、結果としてを『ダイ・ハード』を超えることはない印象で、福田の限界が見えた気がします。特に、人間関係のありかたに工夫がなくて韓ドラレベル。ヒネリはあるものの、話の前半で先が読めてしまいます。気になるのは福田が、今の社会、不動産業界などをどう見ているかということが全く伝わらず、単に材料として使っているという点。
どんなに取材をして、情報量をふやしても、それ以上に話が深まりません。ラリー・ボンドなどのハイテク・軍事スリラーがほんの一時期、市場を席巻しながら、あっというまに消えていき、今では振り向く人もいないというのは、マスコミの問題もあるでしょうが、やはり情報を詰め込んだだけの話では、たとえプロットがあったとしても人間が生きてこない、そういう小説には限界がある、という証ともいえそうです。
これでは大リーグには行けません。