読割 50
電子書籍
睡魔
著者 梁石日 (著)
タクシー運転手の趙奉三は交通事故で瀕死の重傷を負って以来、失業中だった。何とか極貧から脱出したい趙は、悪友の李南玉に健康マット商法に誘われ研修会に参加し、いつしかのめりこ...
睡魔
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睡魔 (幻冬舎文庫)
商品説明
タクシー運転手の趙奉三は交通事故で瀕死の重傷を負って以来、失業中だった。何とか極貧から脱出したい趙は、悪友の李南玉に健康マット商法に誘われ研修会に参加し、いつしかのめりこんでいく……。金に目がくらんだ男女を狂わせる完璧なシステムと巧妙なマインドコントロール。著者自らの体験を基に人間の欲望の本質を暴く驚天動地の衝撃作!
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紙の本
エンターテイメントここにあり。
2005/09/19 16:45
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:jis - この投稿者のレビュー一覧を見る
久しぶりのヤン・ソギルを読了した。スピード感とスリル、エンターテイメントとしての物語性、登場人物描写が旨くかみ合わさって、一級品の出来になっている。
物語自身は単純である。作者を想定したと思われる趙泰三が、旧友李南玉と再会するところから始まる。大阪で事業に失敗、出奔、東北から東京に舞い戻り、困窮したくらしに嫌気がさした頃、このどうしようもない自堕落な男が登場してくる。在日という同胞であり、内部に暗い汚穢を持っている物同士が、貧窮した生活から何とか逃れようとする。
やっと辿り着いたのが、健康マットの販売。大下という在日韓国人が幹部の、マルチまがいの商売である。この小説の圧巻は、このマルチまがい商法を、研修と称して自己啓発を行いながらマインドコントロールしていく過程である。奇跡が起こったような錯覚を、参加者全員にさせ、潜在能力の可能性の開発などという、絵空事で人間改革させるところである。
この様な組織にありがちな、出鱈目さ、いい加減さ、離合集散の激しさは、つながりが金のみであり、人を増やす事により成り立つネズミ講の宿命とも言える。豊田事件を見るまでもなく、急激に途轍もなく増大する組織は、非常に危うい所がある。其処に色事が入り込むと崩壊の一途をたどる。
さてこの物語は、在日の人達の生態をかいま見せてくれる。日本人だけが登場人物となって、舞台が廻るのと違って、どうしても歴史の問題が入り込んでくる。歴史を引きずって、怨念や抑圧、それ故の爆発的エネルギーの発露など、個々人の内面まで規制する政治と文学に突き当たる。
何はともあれ、この小説は楽しむためにある。楽しみながら身近に感じるなにかに、気がつくかもしれない。大いなる楽しみと苦しみは裏腹とはよく言われるが、そんなことも考える暇もなく、楽しめる小説である。
紙の本
ははっ、ばっちりクロスオーバー
2002/12/10 01:23
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:penerope - この投稿者のレビュー一覧を見る
夜11時に読み始めて気が付きゃ朝の6時。うそじゃありません、久しぶりに読書で徹夜しちゃいました。
さえない主人公とその仲間達がマルチ商法にはまってゆき、結局何も得られず(ようは金ですな)元通りにさえないままになってしまうお話。僕も昔やってたんです、こういうの。見事に24時間お風呂の機械を30万ほどで買わされて…。
だから本当にリアリティがありました。全くおんなじこといってんじゃん!的な発言や人を言いくるめる手段があまりにも似ていてびっくりしたのです。しかし(かつての僕もそうでしたが)金に困った人間の発想ってたいがい一緒で、ちょっと立ち止まって考えればわかることなのにそれができない、がゆえに泥沼にはまって取り返しのつかない場所まで自ら踊り出てしまう行動形態はこうやって客観的に読むとはっきり知覚できるのですが、その当事者たちはやっぱり、ある意味トリップしちゃっていてなんか痛々しいと思いました。でもなんだろう、ただ共感したっていうだけじゃなくて、人の不幸ははたから見ると面白いのかなぁやっぱり、なんていう疑問も浮かびながら休む間もなくただひたすらページをめくりつづけてしまいました。
この作家、どうなんでしょう。過去何冊か読んで、いずれも楽しく夢中になったんだけれど、例えば花村萬月の本を読んでいるときに感じるようなあの、前のめりになっても鼻息荒くページをめくるような高揚感がないのです(なんか手触りは似てるんだけど)。だからいまいち手放しで褒めちぎることができなくてもどかしいのです。
しかし面白いことは面白い、掛け値なしに。でもなんかなぁと同じことをつい繰り返してつぶやいてしまうのもつまりはこの作家の術中にはまっているのだと思えば納得も?するのでしょうか。
文庫だし通勤電車45分同じなんて方、ぜひチャレンジしてみては? 多分、もうおりなきゃなんないの!なんてくらい夢中になれることうけあいだと思いますので。
紙の本
いやあ、迫力っていうの。在日パワーって言うか、生命のほとばしりってやつに圧倒されちゃうんだよね、そんなに頑張り過ぎなくても、って思ったりして
2003/10/30 20:35
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
梁石日とか、馳周星といった見慣れない漢字三文字の作家が、やけに気になる。とくに梁石日の作品は、どれをとっても刺激的なタイトルで、荒々しい世界を予感させる。おまけに、どの小説も部厚い。ずっと気にしながら、それでも読まずにきた。しかし、我慢が出来なくなって、とうとう読み、圧倒された。
この迸るような熱気は、どこから出てくるのだろう。民族の違いもあるだろう、それゆえに置かれた環境の違いもあるだろう。なにか今まで読んできた世界が、急に色褪せる、そんな力に満ちた作品だった。スーツなど着たこともないような、ネクタイなど似合わない、ズボンにランニングこそが制服のような、汗の匂いが満ちた世界が、そこにある。
借金で大阪を逃げ出し、東京でタクシーの運転手をして何とか生活してきた趙泰三は事故で仕事を辞め、その後、人に勧められて二冊の本を出版した。しかし次の本の話がある訳ではない。その趙のところに、彼の本を見た昔の遊び仲間の李南玉から、16年ぶりに電話が掛かってきた。
借金をすることを何とも思わない二人の再会が連鎖反応のように、あるいみガサツで、生命力に満ちた生き方を切り開いて行く。在日朝鮮人の置かれた過酷な環境、それゆえに男たちが抱く夢の行き着く果ては、人が人を騙す虚々実々の世界。そこでは金だけがものを言う。
47歳の趙はともかく、42歳の李の世間を見る眼が甘い。二人は大阪で夜毎豪遊を繰り返していた仲だが、そんな李のことばに、趙は東京で成功している先輩である白大進のノミ屋の仕事を譲り受ける。それにも失敗、ホステスの送り迎えから、健康マットの無店舗販売へと手を広げていく。
そんな彼らが辿り着いたのが、ジャパン・エースという怪しい販売会社。研修という名の勧誘、下部組織を肥大させながら、収益をあげていく人々。これは犯罪小説ではない。表向き、殺人も警察沙汰も無い。お金の話でありながら暴力団も出てこない。しかし、描かれる世界は壮絶。
読みながら、故伊丹十三が映画で描いた世界を思出だした。ここで信販会社は、どのような役割を果たすのか、ネズミ講とはどこが違うのか。趙や李は、生活態度こそ、だらし無いものの、いわゆる悪人ではない、ある意味普通の人。常識人である趙が、知らずに巻き込まれていく欲望への熱気。人間の弱さ。どんどん読んでしまう。
無いものねだりだけれど、一瞬でもいいから、動きが止まり青空が見えるようなところがあっても良かったのではないだろうか。あらぶるシーンばかり読まされると、疲れるだけでなく、そればかりが在日じゃあないだろう、そんなことばかりやってるから差別されるんだ、と心にもないことを言いたくなる。たまには、爽やかな小説を書いてみたらどうだろうね、梁さん。