姜尚中の政治学入門
著者 姜尚中
湾岸戦争以後、時代の重大局面に妻子、さまざまなメディアで精力的に発言してきた「行動する政治学者」が、そのゆるぎない思考を支える歴史観と、政治理論のエッセンスを、コンパクト...
姜尚中の政治学入門
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商品説明
湾岸戦争以後、時代の重大局面に妻子、さまざまなメディアで精力的に発言してきた「行動する政治学者」が、そのゆるぎない思考を支える歴史観と、政治理論のエッセンスを、コンパクトな一冊にまとめました。アメリカ、暴力、主権、憲法、戦後民主主義、歴史認識、東北アジアという七つのキーワードを取り上げ、現代日本とそれが関わる世界の現状をやさしく読み解いた本書は、五五年体制の成立以来、半世紀ぶりの構造変化にさらされる社会の混迷を、正確に見据える視点を養ってくれます。未来への構想力を提言する、著者初のアクチュアルな入門書!【目次】はじめに 七つのキーワードで読む現代の日本
目次
- はじめに 七つのキーワードで読む現代の日本/第一章 アメリカ/第二章 暴力/第三章 主権/第四章 憲法/第五章 戦後民主主義/第六章 歴史認識/第七章 東北アジア/あとがき 私と政治学
著者紹介
姜尚中
- 略歴
- 1950年熊本県生まれ。東京大学教授、聖学院大学教授などを務めた。専攻は政治学、政治思想史。
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政治思想史の立場から見る日本政治学
2006/03/29 09:28
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
200頁弱の紙幅で、現代日本をとりまく7つのキーワードでみつめる政治学入門の新書です。「入門」という言葉が連想させるほどの平易さで書かれているとは思いませんが、それでも私は学ぶところの多い書だと感じながら読み進めました。
特に第四章「憲法」は、最近かまびすしい改憲論議を前にして、そもそも憲法というのは「人民から権力を受託した側が、それを恣意的に行使できないように制約を課すもの」であることに立ち返って考える必要があることを訴えます。そうそう、そうでした。このことをついつい忘れがちであるからこそ、憲法の前文に愛国心を盛り込むべきかどうかということが真剣に論議される事態が引き起こされているのです。「そもそも」論に拠れば、愛国心はその是非を問うこと自体がいけないということではなく、改憲論議とは別の土俵で論じるべきことだということになるのでしょう。
また第七章「東北アジア」では、朝鮮半島・台湾・中国大陸・ロシア極東と日本とで形作る地域構想を考えることが、日米安保に特化した安全保障を、漸進的な多国間主義の中に埋め込んでいく道のりになりうるとしています。
もちろん著者自身も「歴史認識をめぐる相克と冷戦構造の残滓」が「ユーラシア大陸の東端の未来構想に暗い影を投げかけている」ことを認めています。「こうした問題が解決されないかぎり、おそらく地域主義の夢は、虚妄に終わる」と指摘し、一筋縄ではいかないアジアの隣人たちとのつきあいをそれでも探る道を選ぶべきだと唱えます。
この提言はおそらく万人の賛同を得られるものではないかもしれません。しかしアメリカ一辺倒の現況から脱する手立てを探る上で、本書の唱えるような多国間主義的な後ろ盾を健全な形できちんと組み上げていくことは決して無益でも無邪気でもないような気もします。
干物と生もの
2007/08/08 20:35
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルに著者名を冠しているように、姜氏ならではの色が滲み出た政治学になっている。テーマは、アメリカ・暴力・主権・憲法・戦後民主主義・歴史認識・東北アジアの7つ。これを新書の体裁で、本文とあとがき合わせて、わずか172ページの分量で論ずるのは、はっきり言って詰め込みすぎである。そのせいで、各テーマの解説はあっさり風味。別に人物・用語解説もついているが、最低限の記述でしかない。難しいと感じる人がいるのはこれらのせいだろう。
やはり入門書を名乗るならテーマを削るか、もしくはページ数を増やして、概念説明こそを丁寧にやってほしかった。
さて、学問としての政治は、「抽象的な原理を振り回すばかりで、現実の役には立たない」といった類の批判が、時には政治学者の中からさえ自嘲気味に漏れでたりする。これは半分は当たっていると認めよう。しかし半分しか当たっていないとも言っておきたい。
姜氏はこの批判には自覚的な人だと思う。あとがきで、政治学を「干物」、メディアやそれが主に扱う現実界の情報を「生もの」に喩える。普段から「干物」の味をよく噛みしめているからこそ、「生もの」の世界で発言し判断を下せるのだという。そうして「行動する」学者として、生の世界に積極的に関わろうとしている。そうすると「敵」も増える。毀誉褒貶も激しくなるだろう。
本書はやはり抽象的な原理が中心だが、具体的なアジェンダ(政治的構想)も開陳する。それが姜氏の色だ。
賛同する点もあったが、一点、「東北アジア共同体」の構想について異論を呈しておきたい。
《しかし私自身は、たとえそれが決断主義ではないかと誹られても、ナショナリズムの実在よりは、東北アジア共同体の虚妄に賭けるべきだと考えています。》
「東北アジア共同体」とはASEANのようなものなのかEUのようなものなのか、はっきりしない。ASEANのようなものなら、日本も+3に参加しているが、東北アジアでも実現の可能性が0ではないだろう。ただし、ナショナリズムは保持されたままである。姜氏はアンチ・ナショナリストなのだから、それでは満足しまい。「虚妄」というからには、EUのような(あるいはそれをも越えた)方向性なのだろうと想像する。しかし、EU加盟国とてナショナリズムを払拭はしていない。
また、姜氏は日本国憲法の三原則、平和主義・基本的人権・国民主権を「保守」しようとする。いいと思うが、それは同時に立憲主義によるリベラル・デモクラシーを「保守」するということでもある。ならば中国や北朝鮮が「多元的な体制=民主化」に移行してくれないと、EU的な「共同体」までは無理なのではないか。EUに旧東欧諸国が参加したのも、「民主化」がなったからこそである。
私は「追米保守」のつもりはないし、東北に限らずアジア諸国と友好関係を深めることに異存はない。しかし、立憲主義体制の根本的相違を棚上げにしたままでは、棲み分け的な共生関係(APECのように経済関係を中心とした)としての東北アジアにとどまり続けるのが精一杯、という気もする。
こういった懸念を打ち破ってくれる「行動」を期待したいが、今のところ姜氏の立憲主義擁護と構想との懸隔はあまりに深い。