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  • 販売開始日: 2012/04/01
  • 出版社: 新潮社
  • ISBN:978-4-10-115739-9
一般書

剣客商売九 待ち伏せ

著者 池波正太郎 (著)

「親の敵……」夜の闇につつまれた猿子橋のたもとで、秋山大治郎は凄まじい一刀をあびせられた。曲者はすぐに逃げ去り人違いだったことがわかるが、後日、当の人物を突き止めたところ...

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剣客商売九 待ち伏せ

税込 616 5pt

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商品説明

「親の敵……」夜の闇につつまれた猿子橋のたもとで、秋山大治郎は凄まじい一刀をあびせられた。曲者はすぐに逃げ去り人違いだったことがわかるが、後日、当の人物を突き止めたところ、秋山父子と因縁浅からぬ男の醜い過去が浮かび上がってくる「待ち伏せ」。小兵衛が初めて女の肌身を抱いた、その相手との四十年後の奇妙な機縁を物語る「或る日の小兵衛」など、シリーズ第9弾。

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みんなのレビュー27件

みんなの評価4.4

評価内訳

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  • 星 3 (6件)
  • 星 2 (0件)
  • 星 1 (0件)

三冬浪漫〈夫婦〉

2003/07/07 17:16

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:流花 - この投稿者のレビュー一覧を見る

「恋はゲームじゃなく、生きることね」…こんな歌があった。すべてが輝いていた恋の季節を経て、男と女は結婚し、夫婦となる。結婚するということは、「この人と生きる」ということである。喜びも悲しみもともにし、同じ人生を歩む。二人の人生は一つになるのである。大治郎とともに、人生を歩み始めた三冬。そして、二人の人生が一つになった証として、子どもを授かるのである。
 ここに、もう一組の夫婦がいる。佐々木周蔵と、りくである。周蔵は、主人の汚行を一身に引き受け、「敵持ち」として逃げ回る生活を送ってきた。りくも、「敵持ち」という重荷を背負った周蔵とともに、同じ人生を生きてきた。ある日、周蔵と間違えられて大治郎が襲われる。それを知った周蔵は、大治郎に迷惑をかけてはいけないと、わざと討たれるのである。討たれた直後、大治郎に発見され、無言の帰宅をする。こうなることを覚悟していたりくは、動転するどころか、血に汚れた大治郎を気遣い、着替えや風呂を用意するという気丈さをみせる。しかし、大治郎にすべてを語り、大治郎が周蔵宅をあとにすると、りくは号泣するのである。外にも聞こえるくらいの大きな声で。敵持ちということは、いつか討たれる日が来るということである。しかも、主人の身代わりにである。こんな理不尽な処遇に甘んじながらも、周蔵とりくは、一つの人生を生きてきたのである。支え、支えられながら、二人で生きてきた人生は、ある意味、幸せだったのではないだろうか。いつかこんな日が来ることはわかっていた。だが、夫の死が現実のものとなり、夫に与えられた運命を思ったとき、夫があまりにも哀れに思えてならなかったのであろう。そして、このようなかたちで自分たち夫婦を分かつ、武士の世界の理不尽さを思うと、切なくて、切なくて…。その切なさを、どこにぶつけたらよいのか…。りくの涙は、堰を切ったようにあふれてくるのである。
 もう、恋の季節は終わった、大治郎と三冬。夫婦となったからには、どんなことがあろうと、これからは二人で世の中の荒波を渡っていかなければならない。そんな二人に、あまりにも悲愴な夫婦の人生を見せてくれた、佐々木周蔵・りく夫妻。
 『冬木立』の中で、小兵衛がこう言う。「初めての男に、おのが躰へきざみつけられた刻印は、おきみにとって、よほど深かったに相違ない」。三冬は顔を赤らめ、うつむいてしまう。大治郎は傍を向いて、咳払いをする。溜め息を洩らして立ち去った小兵衛を見送る大治郎と三冬は、声もなく顔を見合わせた。…「私には、三冬しかいない」。「私には、大治郎さましかいない」。…「この人と生きる」。夫婦とは、理屈を超えた深いもので結ばれているのだ。
 しかし、しかしですよ、大治郎さま。三冬さまは懐妊したことを、一番最初に大治郎さまに言いたかったと思いますよ。というか、私たち読者も、その時大治郎さまがなんて言うか、聞きたかったですよ! 大治郎さまって、こういう時、いっつもタイミングが悪いんだから!!

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名君と暴君の顔を持つ「殿さま」と潔い「人びと」

2012/01/10 23:01

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る

この第九巻第一話『待ち伏せ』で、大治郎は、人違いで殺されかける。前に、第六巻第四話『新妻』でも、人違いで殺されかけた。『新妻』で間違われた相手に潔い妻がいたように、『待ち伏せ』で間違われた相手にも潔い妻がいる。大治郎が、「いま、この期(とき)に」これだけの配慮ができるとは、と感心し、のちのち、「あれほどの女(ひと)を、見たことはない」と、述懐したほどに、夫婦とも、日頃から覚悟を決めていたのだ。この話は、私は、テレビでも見た。潔い妻おりくを、小説のイメージどおりの女優が演じていた。私はこのおりくさんが好きになり、彼女の夫に災難を押しつけた殿様に腹が立った。

それにしても、いくら、恩義もあり、好感を抱いている人から聞いた事であっても、あの小兵衛までが、無実の人を犯罪者と信じ込んで冷たくするとは、恐ろしい。もっとも、大治郎によって真実を知らされるや、間髪を入れず、犠牲がふえるのを防いだのは、さすがだったが。

これまで好人物だと思っていた殿様の、名君の顔と、暴君の顔と、どっちがほんとうの顔だったのかと疑問を抱く大治郎に、どっちもほんとうの顔だと答える小兵衛。

>「お前の顔は、まだ一つじゃな」

だからだいじなことに気づかないのだと言うが、大治郎にはわからない。

第六巻第四話『新妻』のとき、大治郎と三冬は新婚早々だった。ふたりは安永九年十一月に結婚していた。そしてこの第九巻は約一年後の、安永十年改め天明元年の秋が深まる頃から始まっている。鵙(もず)が鳴いたり、第二話ではおはるが干し柿を作ったりする。そしてそしてこの第一話で、大治郎の弟子で以前に放蕩をしたことのある笹野新五郎が、三冬の妊娠に気づいているのに、大治郎は全然気づかない。大治郎の鈍さは飯田粂太郎なみ。小兵衛にさんざん焦らされて皮肉を言われるのも当然。

第九巻第二話『小さな茄子二つ』では、小兵衛若かりし日の友情が語られて、ほほえましい。道場の近くの絵師のもとで修業中の若者と、ともに貧しく、「おのれの力量(ちから)が不足しているものじゃから、いつもいつも不満面(づら)で」、「不満が気炎に変り、はげまし合い、なぐさめ合った」。

だが、それから四十年後の、あまりの変わりように、悲しくなる。「小さな茄子二つ」とは、当時の小兵衛と彼でもあるのだろうか。

第三話『或る日の小兵衛』もまた、同じく小兵衛若かりし日の、なんと、「初体験」が語られる。

たいへんなしっかり者で働き者で、道場の門人たちから怖れられる毒舌家で、師の辻平右衛門からは絶大な信頼を寄せられていた、一見、男のような体格の、年上の女性。

そういう女性に、まさに「童貞を奪われた」小兵衛だが、それは不快な体験ではなかった。彼女が去った後、小兵衛はお貞(てい)と知り合い、結婚し、大治郎が生れ、幸福に暮らしたのだけど、お貞も死んで二十年近くたって、初体験の女性の幽霊を見た……と、思ったのだが。

実は、とわかったときの、小兵衛の心の動きがおもしろい。小兵衛は、お貞にまつわることは完全に忘れ去っていた。なぜそうなったかを私が考えるに、小兵衛は、かつて自分がされたようにして、おはるを手に入れたつもりだったのが、気がついてみると、自分のほうがおはるに捕われていたから、では?

へとへとになるまで歩き回って倒れるように眠り込んだ翌朝、おはるに起こされてもなお、ぼんやりしている小兵衛を、大治郎が迎えに来て、息子の呼びかけに「いま起きたところじゃ」と父が答えて終わるのが、象徴的だ。

第四話『秘密』は、第一巻第一話『女武芸者』とよく似た話の始まりだ。大治郎の腕を見込んで、ある人物を斬ってほしい、という依頼人が現れる。あの『女武芸者』のときには、ある人物の腕を折ってほしい、という依頼人を追い返してしまったが、今回、大治郎は、だいぶ世慣れて来たと見えて、小兵衛ばりに、依頼人の話に乗ってみる。ところが、やはり、小兵衛のようにはいかず、後から、やめときゃよかった、と思うところが、おかしい。

第一話『待ち伏せ』で大治郎が心惹かれたような、人柄も良く武芸も優れた人が、『待ち伏せ』と同じように、あまりにも潔く、最期を迎えてしまうので、読んでいる私も、とても寂しくなる。

「さまざまな人の恨みも、血の匂いも、おのれの身体に背負」い、「『いうにいえぬ……』事情もあり、過去もある」剣客のたしなみとして、浅く、淡く、つきあいつづけるのがよいと小兵衛が言い、大治郎もそのつもりでいた。だけど、こうしていい人がさっさと死んでいくのは、読者として、もったいなくて惜しい。しかも、これもまた、『待ち伏せ』と同じように、名君と思われた殿様が実は暴君だったせいなのだ。

大名であれ旗本であれ、お家大事ゆえに理不尽に殺し合う人々を止めることは、小兵衛にもできない。次の第五話『討たれ庄三郎』で、小兵衛もまた、大治郎と同じように、人柄も良く武芸も優れた人と知り合い、しかも同じように中年の優男の浪人で、そして、潔く死を受け入れている。この話も、一見、りっぱな殿様が諸悪の原因だ。

『剣客商売』のシリーズ中、太平の世が続いたために刀を差すと腰がふらつくような武士がふえたことを嘆く叙述は何度も出て来るが、だからといって、やたらと武芸を奨励し、勝ち負けにこだわる殿様も、困りものなのだ。秋山父子とその師匠たちにとっては、剣はおのれを磨くためのもので、勝敗によって出世が決まるとかいうものとは、次元が異なるのだ。

第六話『冬木立』には、おはるのような娘と、ある意味で小兵衛のような老人が出て来る。だが、この老人が娘にしたやりかたは、小兵衛がおはるに対してしたことと、全然、異なる。それが、このかわいそうな娘の人生をめちゃめちゃにし、老人も命を落してしまった。これはあまりにかわいそうな話だった。小兵衛とおはるもまかりまちがえばこうなっていた、と想像するとぞっとなり、そうならなくてよかった、とつくづく、思う。

第七話『剣の命脈』も、とても悲しい話だ。私は、美空ひばりの歌った「柔」を思い出す。

「一生一度を、一生一度を、待っている」

大治郎と一度、真剣勝負をしたいと願った彼は、重い病に冒されていた。それ以上に切ないのは、家族に疎まれていたことで、最後に淡々と語られた、彼や大治郎に対する無関心さは、やりきれなかった。

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皮膚感覚のような季節感を伴う剣客商売。晩秋から冬の、もの悲しい雰囲気漂う作品。

2011/10/05 16:16

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る

 剣客商売を読んでいると、それぞれの巻が季節を纏っていることに気づく。
 そして、その季節は、物語に皮膚感覚のようなものを与えてくれているように思える。

 例えば、第四巻『陽炎の男』は春から夏。
 三冬の中に大治郎の存在が芽吹き始め、心がくすぐったく、どこか落ち着かないような気持ちとともに、作品全体に暖かさと、徐々に増していく夏の暑さのようなものが感じられる。

 本書の季節は、晩秋から冬。
 夜の空気が冷気を帯びだした晩秋から、その厳しい環境に備えて生命たちが活動を弱める冬の感覚は、そのまま物語全体に、もの悲しく、感傷的な雰囲気を漂わせている。

【待ち伏せ】
 とある橋の上、大治郎は闇に潜んでいた二人の曲者に襲われた。そのうちの一人は親の敵と叫ぶ。
 ところが、大治郎が自分の名を名乗ると、二人は逃げ去った。
 人違いのようであったが、分からないのは、二人が明らかに大治郎を待ち伏せていたことである。

 武家奉公の悲しさを描いた作品。
 放っておけばいいものを、妙なことに首を突っ込んでしまう、まだまだ青い大治郎であった。
 それもそのはず、妻の三冬が身籠もったことにも気づかないのだから……。

【小さな茄子二つ】
 小兵衛のかつての門人・落合孫六が、不覚にも金百両を強奪された。
 孫六の言うには、絵師から百両を借りたうえ、ねんごろにもてなしを受けたその帰り、闇から生じた得体の知れぬものが、両足を絡め取ったというのだが。

 変わってしまったかつての友の姿に寄せる、小兵衛のさまざまな思い。
 旧友が道を外しているのを目の当たりにしたとき、小兵衛と同じように、失望よりも憐憫の情を抱くことができるだろうか。

【或る日の小兵衛】
 神無月の夜、小兵衛が手水に起きたときのこと。厠の小窓から、外に白い着物を着た老婆が立っているのを見た。
 闇に消えた老婆をおきねとみとめた小兵衛は、翌朝、死の間際に逢いに来てくれたのだと、心を昂ぶらせた。

 小兵衛の感を狂わせてしまうほど、おきねとの関係が『男』としての人生において、強く印象に残っていたということだろう。

【秘密】
 金五十両で人を殺めて欲しいと頼んできたその侍は、終始、誠心に満ちていた。
 その相手の名を聞くと、大治郎は言った。
「お引き受けいたそう」

 武家奉公の悲しさを描いた作品。
 人としての正義を貫いた友を討たねばならぬ、奉公人の正義を遂行する男の悲しさに満ちている。

【討たれ庄三郎】
 黒田庄三郎なる浪人は、酒屋で見かけただけの小兵衛へ「先生に、それがしの死に際を見とどけていただきたい」と言った。
 明後日、庄三郎は、果たし合いの末、十九歳の若者に討たれてやるつもりなのである。

 我が身を賭して子を思う男と、それに気づかないまでも、心の深いところで感じている子の姿は、感動的である。
 血のつながりとは、かくも不思議なものなのか。

【冬木立】
 小兵衛は冬の雷雨に行き遭うと、三年前、同じように雷雨に遭い、飛び込んだ飯屋で、老体を労るように体を拭いてくれた、店の小女のことを思いだした。

 小兵衛の感傷記。
 他人にはそれが不幸の原因だと分かっていても、当人にはそれが除かれることで絶望に変わることもある。

【剣の命脈】
「到底、この冬は越せまい」
 金子道場の十傑と呼ばれた剣士・志村又四郎は思った。
 旗本の家の跡継ぎは、父の溺愛する腹違いの弟がいる。
 心残りは、秋山大治郎と真剣を把っての立ち会いが出来ぬ事だった。

 命脈尽きようとしている剣士の悲しさ。
 死を前にした者の心残りに秘められた力は、蝋燭が燃え尽きる前のいっときの輝きか。

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超スーパー爺さん未だ健在でした。

2019/11/26 11:54

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る

超スーパー爺さん未だ健在でした。作品中ではそろそろ老いを感じ始めた描写もあるが、まだまだどうして16巻まで続くのだからやっと折り返したばかり。一方、大治郎は相変わらず実直一本といった生き様ながらも、徐々に世の中の機微に触れ始めて来たといった感じかな。作品全体としては、冤罪による追っ手に討たれる話が多いことと、結末のすっきりしないもやもやした話が多かったこと。やはり勧善懲悪的な話の方が判りやすくて良い。あと三冬が妊娠した。刺激されて「おはる」も子供が欲しいなどと・・・・・・。エーーッ。
<蛇足>
『剣客商売』シリーズは、池波正太郎(1923/1/25~1990/5/3、69歳)が1972年(49歳)1月から1989年(66歳)7月まで執筆なので、本作は55歳の時の作品。

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2006/06/19 19:08

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2007/02/25 15:06

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2008/06/01 14:13

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2010/03/24 12:00

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2010/09/13 07:48

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2010/09/17 13:48

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2011/10/03 22:15

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2011/10/22 20:24

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2012/03/31 22:17

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2012/05/27 01:27

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2012/11/08 17:53

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