商品説明
10世紀初頭の『古今和歌集』から500年続いた二十一代の勅撰和歌集を縦糸に、天皇による多彩な和歌の活動を解説。また、古今伝受などによる近世の和歌の復興と近代への継承を明らかにする。さらに今様の後白河院、琵琶の後鳥羽院、後深草院など芸能王の生涯を辿り、秘曲伝受と中世の天皇権威との密接な関係を解明。立花の後水尾院、茶の湯の後西院など天皇の諸芸愛好と日本の伝統文化の起源を究明するシリーズ最終巻。
目次
- 第一部 天皇と和歌──勅撰和歌集の時代 渡部泰明
- はじめに──『百人一首』の中の天皇
- 第一章 王朝和歌の成立
- 1 『古今和歌集』の切り開いたもの
- 2 三代集の世界
- 3 拡大する和歌世界
- 4 和歌における虚構と現実
- 5 中世和歌の胎動
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紙の本
落ち穂拾いの最終巻は予想を裏切って面白かった。
2012/02/11 13:51
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
いつの間にかつらつら全10冊に目を通してしまったわけだが、どれも天皇と天皇に付随する制度の周縁を遠回しにぐるぐる迂回しているだけの空論閑文ばかり。天皇制を歴史的にあからめてくれようかという秘かな願いが叶えられることはただの1冊もなかった中で、落ち穂拾いのこの最終巻は予想を裏切って面白かった。
第1部の「天皇と和歌」では勅撰和歌集を逐次取り上げながら王朝和歌の特徴を具体的に論じているので、天皇から離れた本邦歌論史としても大いに参考になる。第2部の「芸能王の系譜」では声わざの帝王としての後白河院、琵琶の帝王としての後鳥羽院、両統迭立の中で秘曲伝授を争った後深草院と後醍醐天皇等をとりあげ、第3部の「近世の天皇と和歌」では寛永文化を主導した後水尾院の和歌復興運動を、第4部の「近世の天皇と芸能」では天皇の学問・和歌と並んで茶の湯の歴史を概説しているが、この最後の小論文が私にはいっとう興味深かった。
というのも家の近くに茶道宗偏流不審庵があったり、親戚にお茶の師匠で生計を立てている人がいたりするのだけれど、私はどうも当節の表層儀礼と利権商売化した現代茶道というものに抜き難い不信と偏見を抱いているからである。
かつて私は裏千家の千宗室氏が主宰する茶会なるものに臨席し、彼らが主導する作法通りに和菓子を頂いてわび茶を喫し、利休15代目の宗匠より有り難い講話?なぞも拝聴したのであるが、これが正統の茶道なりという感触のかけらすら体得できなかった記憶がある。
2畳か3畳の狭い茶室に閉じこもってちょん切られた朝顔や古臭い茶器をひっくり返して褒め殺したり、たかが1杯の茶を喫するのに長時間しびれを切らして正座したり、年代物の茶碗をぐるぐる回したり、宗匠の下らない人生訓を聴かされるのが正式な作法だと思っていたら大間違いだ。
堺の商人や信長、秀吉、家康などがよってたかってもっともらしい禅の修行まがいに陰湿に歪めてしまったわび茶だが、茶道には平安初期の団茶、滋養茶、中世以来の衣冠を付けず裸行での乱遊飲茶や賭け茶、闘茶、嗅ぎ茶、酒席における能や少女歌舞音曲付きの回茶など、もっともっと奥が深くて開放的な楽しい喫茶文化があることを、改めて本書で学び直してほしいものである。