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センセイの鞄 1
著者 川上弘美 (原作) , 谷口ジロー (作画)
日本文学界の至宝・川上弘美と日本漫画界の巨匠・谷口ジローのかつてない幸福な出会い! 谷崎潤一郎賞受賞の名作を完全漫画化。「遠いようなできごとだ。センセイと過ごした日々は、...
センセイの鞄 1
センセイの鞄 1 (ACTION COMICS)
商品説明
日本文学界の至宝・川上弘美と日本漫画界の巨匠・谷口ジローのかつてない幸福な出会い! 谷崎潤一郎賞受賞の名作を完全漫画化。「遠いようなできごとだ。センセイと過ごした日々は、あわあわと、そして色濃く、流れた。」(原文より)
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紙の本
漫画で描けるだろうか
2009/11/28 09:13
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
川上弘美の原作はこんな風にはじまる。
「正式には松本春綱先生であるが、センセイ、とわたしは呼ぶ。「先生」でもなく、「せんせい」でもなく、カタカナで「センセイ」だ」。
これが谷口ジローの漫画になると、冒頭の一コマで遠景があって小さく歩いてくる男性が描かれる。言葉は、「「先生」でもなく」とという、原作の二行めからはじまる。
二コマめ、三コマめは小さな川を渡る鳥、四コマめで鳥と交差するように男性の側面が描かれる。「センセイ」の顔は見えない。五コマめで男性の足元と鞄が描かれ、次のコマでやや寄って男性の後ろ姿、そして「「センセイ」でもなく」と言葉がはいる。さらに男性の歩きに沿うようにしてのコマがあり、空を背景に男性の背中。「カタカナで「センセイ」だ」と、川上の文章をなぞる。そして、全ページのタイトル。
もしかすると、これが川上弘美の描こうとして時間の緩やかさかもしれない。映画でいえば、導入部。ゆっくりとゆっくりとカメラが「センセイ」に近づいて、物語にはいっていく。
川上弘美の小説を原作にしているが、谷口ジローの作品(漫画)だということを、感じる。
おそらく週刊誌での連載の最後のコマだと思われる、居酒屋から出て夜の街を歩く「センセイ」の後ろ姿に、原作の冒頭の文章がはいる。この数ページで谷口ジローが自分なりの『センセイの鞄』を作り出したことが理解できる。
川上弘美の『センセイの鞄』は川上文学の幅と深みを広げた記念的な作品だと思うが、私のなかではなかなか再読ができない作品でもあった。
最初に読んだときの、あの胸の奥を揺さぶるような感動がふたたび戻るという保証はない。そうであれば、そのままにしておくことも、ありかもしれないと、ずっと読まずにきた作品でもある。
それが、こうして谷口ジローの漫画作品として目にするとは思ってもいなかった。映像にしろ漫画にしろ、具象としてのツキコさんもセンセイも見たくなかったというのが心のどこかにある。
そして、こうして漫画『センセイの鞄』を読むと、それは谷口ジローのツキコさんでありセンセイだということに気がつく。私のツキコさんではない。私のセンセイではない。
谷口ジローの漫画を非難しているのではない。川上弘美の原作が私を離さないのだ。
やはり漫画にはして欲しくなかったというのが本音にあるが、こういう形で再読するのも悪くない。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でご覧いただけます。
紙の本
川上弘美×谷口ジロー、こんなコラボ、贅沢過ぎる!
2012/02/29 12:46
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る
谷口ジローという漫画家は特にヨーロッパでの人気が高く、幾つか賞
も取っている。彼が欧州で人気があるというのはとても良くわかる。例
えば「孤独のグルメ」のような食をテーマにしたものを描いた時でさえ、
彼の漫画はとても思索的なのだ。フランスの漫画家ジャン・ジローなど
の影響を受けたそのタッチもまた、あちらの人には魅力的なのだろう。
そんな谷口が川上弘美の名作を手がけた「センセイの鞄」。これはどち
らにとっても、ちょっと怖い挑戦のはず。でも、両者が認め合ってるか
らこそ実現したコラボに違いない。
小説「センセイの鞄」は、馥郁とした文章がいい。やさしく、やわら
かく、ふんわりとしてる。それでいて深みがある文章。年老いたセンセ
イと37歳のツキコさんの恋物語はなんだかおかしくて、悲しくて、苦し
くて。それが谷口さんの絵でリアルに動き出すとどうなるか?ちょっと
心配もあったが、まさにこれは川上ワールド!そしてもちろん谷口ワー
ルドでもあった。原作を逸脱することなく、しかし、谷口さんらしい語
り口がなんとも素敵なのだ。
紙の本
静けさを湛えた絵のたたずまいが、いいですねぇ。身にしみるさびしさ、なつかしさ、あたたかさを堪能させていただきました。それにしてもうまいなあ、谷口ジロー先生の絵は。
2009/12/20 11:53
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品の静謐さを湛えたたたずまいは、ショパンの『ノクターン(夜想曲集)』に通じる味わいがあるかなあ。ツキコさんとセンセイの気持ちがふわりと通い合う、そのほのかな情感がうまく掬い上げられていて、改めて、谷口ジローの絵の素晴らしさいうのを感じましたね。
空に浮かぶ月も、暮れなずむ町の灯りも、公園の木に吹く風も、森の静けさ、花見の賑わいも、そうした絵のひとつひとつが、心にしんとしみてくる。なつかしい気持ちに誘われる。あたたかな命が通う絵の見事さに、何度もため息が出ました。
川上弘美の原作の味を生かした間(ま)の取り方の旨み、ゆったりと歩くテンポのリズム感も、実に素晴らしい。<「先生」でもなく 「せんせい」でもなく カタカナで「センセイ」だ>という文章を描いた冒頭二頁から、「おっ!」と引きこまれましたねぇ。この掴みのうまさは天下一品、抜群にうまいっす。
こたつに母親とふたり、ツキコさんが湯豆腐をはふはふ言いながら食べるシーン。ここは、藤沢周平の『よろずや平四郎活人剣』の一場面がオーバーラップしました。さすが、『孤独のグルメ』を描いた谷口ジローだけあって、食べ物を食べ、酒を飲むシーンの絵は絶品です。おそれいりました。
おしまいに、本単行本の帯に記された原作者と作画家の言葉を引かせていただきます。
<正直なところ、このような恋物語を描いたのは初めてのことです。ほとんど小説のままに、センセイとツキコさんといっしょに歩いてみよう。そう思った。>──谷口ジロー
<こういう話だったんだ! 谷口さんに描いていただいて、あらためて、いや、はじめてほんとうに、知ったような心地です。>──川上弘美