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谷中・首ふり坂
著者 池波正太郎 (著)
養子に入った武家の妻にへきえきしていた男が、初めて連れていかれた谷中の茶屋の女に魅せられ、武士の身分を捨ててしまう表題作。自堕落に暮らしていた息子が、濡れ衣を負って処刑さ...
谷中・首ふり坂
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谷中・首ふり坂 改版 (新潮文庫)
商品説明
養子に入った武家の妻にへきえきしていた男が、初めて連れていかれた谷中の茶屋の女に魅せられ、武士の身分を捨ててしまう表題作。自堕落に暮らしていた息子が、濡れ衣を負って処刑された父の敵を討とうと決心した途端に人柄が変わってしまう「夢中男」。そのほか「尊徳雲がくれ」「へそ五郎騒動」「舞台うらの男」「かたきうち」「伊勢屋の黒助」など、全11編を収める傑作短編集。
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紙の本
十年間で剛から柔へ移り変わる文体の中で、変わらず描き続けている、生々しい人間の姿が魅力的な短編集
2010/12/16 18:59
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
直木賞を受賞した昭和三十五年から四十五年の十年間に書かれた作品を収録。
この十年という期間に、藤沢周平の作風が暗から明へと変わったように、池波正太郎の文体は剛から柔に変わっていることが、本書に収録されている作品から窺える。
このような文体の変化を感じながら本書を読み進めていくと、著者が変わらず描き続けているのは、生々しい人間の姿だということに気付かされる。
【尊徳雲がくれ】
二宮金次郎は、小田原藩より、分家宇津家の領地・野州桜町の建直しを委任された。
かつて大身の武士の家系を立て直した実績から声がかかったのだが、藩の反金次郎派の妨害は酷く、金次郎は建直し中の地を捨てて雲がくれしてしまった。
桜町復興中に金次郎が行方不明になってしまった空白期間を、池波流に創造した作品。
努力によって立身した金次郎の、勤勉で堅いイメージはなく、妙に人間くさい金次郎が存分に楽しめる。
【恥】
森万之助は、同じ反原派に属する児嶋右平次から、松代藩の権力の頂点にいた奸臣・原八郎五郎の襲撃に誘われたが、生臭い方法を好まない彼は、誘いを断った。
単独決行した右平次が原の襲撃に失敗し逃走すると、藩は万之助に討手の一人として、右平次を追うことを命じた。
松代藩での騒動と改革を描いた「真田騒動(真田騒動<恩田木工>」の番外編的作品。
一人の松代藩士に焦点を当てたこの作品は、血を見たくなかった主人公の選択の正しさを描き、そのために自らに恥を課した武士の潔さが快い。
【へそ五郎騒動】
山崎小五郎は、昼を抜く彼を、大勢が居る前で嘲笑した関口喜兵衛を斬殺し、逃走した。
彼の行動は、恨みからではなく、藩の財政が逼迫する中、主君の側近くに仕える者が、質素を嘲ったことが許せなかったのだ。
『恥』と同様、「真田騒動」の番外編で、山崎小五郎が起こした騒動を中心に描いた作品。
力を嫌った『恥』の万之助。力を使って藩の政道をただそうとした小五郎。二人の対照的な行動が、人間の様々な有り様を照らし出している。
【舞台うらの男】
家老の大石内蔵助に可愛がられていた服部小平次は、手先の器用さを生かし、小柄に細工を施して売ったことを、内蔵助に面罵された。
手のひらを返したような家老の態度に逆上した小平次は、家老の叱責どおり、退身して道具屋となってしまった。
題名通り、吉良邸討ち入りの舞台裏で働いた男を描いた作品。
しかし討ち入りのことよりも、内蔵助と小平次の立場を越えた関係が、快く心に残った。
【かたきうち】
鬼塚重兵衛は、諍いから殺してしまった森山平之進の息子・平太郎の命を狙っていた。
敵討ちに追われることに疲れていた重兵衛は、平太郎を偶然見かけたことで、返り討ちを決意したのだ。
追う者、追われる者、両者にとって苛酷な敵討ちの無情さを描いている。
【看板】
盗賊・夜兎の角右衛門は、一味の者へ先代から課せられた三ヶ条の戒律を、看板として守り抜いてきた。
ところが、拾い者を返すことが乞食の看板だという片腕の女乞食との出会いから、かつて手下が戒律を破っていたことを知った。
初めて、火付盗賊改方・長谷川平蔵が池波小説に登場した作品。
平蔵が角右衛門に指摘した『看板の違い』は、人の拠り所としている『主義』に大きな一石を投じている。
【谷中・首ふり坂】
三浦家に養子入りした源太郎は、新妻の高慢さと夜の激しさに辟易してた。
そんな時、源太郎は、谷中・首ふり坂の私娼仲介もしている茶屋で出会った女が気に入り、妻に内緒で通い始めた。
多くのしがらみを飛び越え、自由に生きる、人の営みを描いた作品。
公のために私を捨てる武士を描く一方、このような私を謳歌する人物の作品を描く、池波作品の普遍的テーマは『人間』なのだろう。
【夢中男】
林小十郎は、娼婦に入れ込み、父からくすねていた金がごまかしきれなくなると、父の殺害を思い立った。
ところが、無実の父が死罪となり、刑場に首が晒されると、小十郎は我を忘れて夜の刑場に忍び込み、父の首を取り返してきた。
『谷中・首ふり坂』の感想で述べた、公と私を主人公一人に内在させた作品。
公と私の間で揺れ動いているのではなく、どちらにも本気で向き合う人間の複雑さが浮かび上がってくる。
【毒】
幕府の表御番医師・吉野道順は、かつて一緒に暮らし、自分の子も産んだお千代から、奉公先の内儀を殺害する毒薬の融通を頼まれた。
吉野家に養子となるために彼女を捨てたやましさと、毒薬の用立てが露見した時の恐怖とで、道順は毒にも薬にもならない白い水を彼女に渡した。
道順の心を揺さぶる様々な女の姿を描いた作品。
最後に無垢な女の子を登場させるのは、女性本来としての姿を表したかったからだろうか。
【伊勢屋の黒助】
病で一ヶ月も寝たきりとなった棒手振の弥吉は、医者にかかる金もなく、死を覚悟したが、なぜか枕元にあった三枚の小判で助かった。
全快した弥吉は、お詫びの魚を持って、久しぶりに得意先の伊勢屋に顔を出した。
寓話を池波流に生々しく描いたような作品。
短い作品だが、リアリティのある話だけに、とても印象に残る。
【内藤新宿】
新宿の歴史探訪。
家康の江戸入りから、新しい宿場として発達し、戦後の活気ある復興を遂げた新宿の歴史を辿った作品。
ただ土地の歴史を見ていくのではなく、そこに関わった人々の姿が描かれているから、新宿が味わい深い土地として感じられる。
紙の本
古い作品ではあるが、それぞれ個性があり、楽しみ方も違っている
2007/10/14 21:31
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
池波正太郎の時代物短編集である。随分昔の作品を集めており、昭和35年に直木賞を受賞した後に書かれたものである。『上意討ち』でも登場した松代藩の原八郎五郎を敵役とするシリーズを始めとして、鬼平犯科帳のはしりとなる作品など多彩な11作品の短編集である。
『尊徳雲がくれ』の主人公、二宮金次郎(尊徳)の逸話である。昔は私の通う小学校にも二宮金次郎が薪を背負っている像が校庭の片隅にあった。しかし、それがどういう人物でなぜ校庭に像があるのかは分からなかったし、説明を受けた覚えもない。池波のこの小説で初めてその人となりを知ったわけである。勉強に勤しむ姿を見本にしろということだったのかも知れない。そういう意味では年配者にとっては新たな発見となる一編である。
『看板』は『鬼平犯科帳』の主人公、長谷川平蔵が登場する。登場するというよりは、その後のシリーズ『鬼平犯科帳』の予告編のような作品といってよいだろう。長谷川平蔵という人物とその役職についての説明を、盗賊の一人を題材にして書き綴っている。これを書いた頃は、まさか池波本人も自分の作品の大きな柱になるとは考えていなかったことであろう。
『恥』は信州松代藩で勃発した騒動を描いたもののうちの一つである。家臣の一人が真田藩主の愛妾に切り付けるという事件が起きた。早速討伐隊が結成されて、狼藉を働いた家臣と対決するが、討伐隊の一人はどうしても討つ気になれない。武士の恥を貫き通した一本気の家臣の姿が描かれている。この松代藩のお家騒動については、これまでも池波が描いてきたところである。藩主の悪政は、家老に原因があることもあるが、詰まるところは藩主の至らなさである。
こういう藩政には暗殺が付き物である。それにまつわる家臣の派閥や思惑が渦巻き、格好の小説の材料になるのであろうか。この辺りが池波正太郎の真骨頂であろう。
本書のタイトルになっている『谷中・首ふり坂』。良縁だと思ったが、意外にも女房殿は一筋縄ではいかない人物であった。しかし、武家の次男である主人公は養子に入っていた。江戸時代の婚姻慣習による悲喜劇を面白く描いている。
私にはまだ読んでいない池波正太郎の作品は相当残されている。鬼平のような長編あり、このような短編ありで、趣がだいぶ違ってくる。さすがは池波正太郎である。楽しみは続くのである。
紙の本
最初のうちは面白かった
2018/11/14 22:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ガンダム - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初から読み進んでいくうちに、短編とはいえ、あまり面白くなかった。特に「谷中
首ふり坂」はいまいちだったかな。
紙の本
感動は薄かったです。
2020/01/17 22:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:satonoaki - この投稿者のレビュー一覧を見る
ほとんどが、「ここまでいろいろあったけど、まあ落ち着いた」といったお話でした。
「谷中・首ふり坂」を読んでいる時がいちばんおもしろかったように思うのですが、こうしてレビューを書いている今、ストーリーを思い出せる話が一つもないというのは、どういうことでしょう。
優れた著名な作家さんにたいへん失礼なことかもしれませんが、「感動した。もう一度読みたい」という気分にはなりませんでした。