紙の本
本書題名は “教員労働環境の悪化(変質)”くらいが適切
2011/07/24 17:21
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BCKT - この投稿者のレビュー一覧を見る
序章 病める教師―教育の現場から
第1章 教師力は落ちたのか
第2章 「逆風」にさらされる教師
第3章 教師の条件
第4章 「教育再生論議」に見る、教師の未来
第5章 「教育再生」への提言
著者は1947年(滋賀県米原市)生まれ。高松市立高松第一高等学校,早大(国文学科(現在は国語国文学科))卒業。私立海城高校,練馬区立石神井中学校教員等を歴任(現場職歴は22年,単純計算で,45歳まで教員だったことになる)。出版当時は,法大(キャリアデザイン学部,教授,「臨床教育相談論」「キャリアガイダンス論」)。東京大学(講師)。臨床教育研究所「虹」所長。ご存じだとは思うが,“虹”ともかく,“rainbow”は多様性を許容する象徴として用いられており,合衆国では人種差別を通り過ぎて,ホモやゲイ,バイセクシャルなども許容する旗印を含意する(らしい)。元日本教師教育学会常任理事、日本精神保健社会学会理事。「尾木ママ」(明石家さんま命名)。本書は著者が60歳の時のもの。還暦だったんだね。
本書題名(とくに副題)を見た時,戸田『「ダメな教師」の見分け方』みたいな内容を予想した。つまり,日本人教員の一部がいかに堕落しているのかを論じている本だと思ったのだ。しかし,尾木の議論は全体的には教員に対しては擁護的である。本書題名は,内容と食い違っている。あとがきに編集担当者への謝辞がないことからすると,もしかしたらどこかで出版社と意見が食い違ったまま出版されたのかもしれない。本書題名は,むしろ“教員労働環境の悪化(変質)”くらいが適切だと思う。たとえば,中央政府(基本政策)や地方政府(教育委員会),保護者(モンスターペアレント・給食費不払い家計),教師間(“人事考課”的制度),対生徒(「教育委員会に訴えるぞ」)など,教員の活動を制約するような要因を列挙しており,本書はとても教員をなで切りにするような内容ではないからだ。
興味深いのは,尾木は,教職志望者減少を論じる件で,競争率が3倍以上ないとよい人材は集まらない,と言っていることだ。つまり,生徒には「競争」ではなく「協創」(尾木の造語か?)を求めながら(192頁),競争の効用は認めており,教員選抜はきっちりやりますよと言っていることになる。当たり前だ。資本制経済で生きる以上,競争は避けられない。尾木に問いたい,では子供は,学校を卒業するまで競争を経験しなくていいのか? 極論すれば,敗北を知らずに23歳を迎え,“英語ができなければ当社は採用選考を致しません”などと通告されて,やおら“あ,もちっと勉強しときゃよかったかな”とか思わせたいのか?と。扶養家族を脱しようとする瞬間に,競争という勝負を突き付けられて,果たして耐えられるのか? それよりは早くから競争を導入して,敗北を生産的に合理化する術を身につけさせるべきじゃないのだろうか? 私が親なら,英数国社理の成績は私とおんなじくらいでいいので(“蛙の子は蛙”),自分の得意なことで生活ができるようになってくれればそれでいい。東大なんか行けやしないし,行けることなんて望んでない。自分の受験生時代を忘れるほど僕はまだ耄碌してはいない。
もひとつ。ついこのまえ読んだ森口『戦後教育で失われたもの』には,「徒競争,全員両手を繋いでゴールイン」は都市伝説だ,私(森口)は見たことがないと書いてあった。しかし,本書には,「東京などの小学校の調査では,80%を超える学校が『序列がつかないように運動会を工夫している』と答えたものです。徒競走の際,ゴール直前でストップ。みんなで手をつないでテープを切るといった“珍現象”が生まれました。テレビでも話題になったので,覚えている人も多いのではないでしょうか?」(57-8頁)とある。
結局,「全員同時にゴールイン」は都市伝説なんだろうか?
(1550字)
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教師の過酷な現状を考察し、「教師再生」に向けた良書!
2016/05/06 08:48
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、教育評論家としてマスコミなどでご活躍中の尾木直樹氏の執筆によるものです。表題は結構過激ですが、内容は、教師を取り巻く過酷な教育現場を詳細に考察しながら、こうした過酷な労働環境によって教師力を向上させることが阻まれ、教師の成長が妨げられていること、そして、このことは子どもの学力に直接つながってくる重要な問題であると指摘しています。さらに、こうした中で、如何に教師再生に向けて取り組んでいくかについても示唆も示され、非常に内容の濃いものとなっています。教育関係者にはぜひ、読んでいただきたい良書です。
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現役教師だった時代もあったはずだが、今や評論家。学校教師の置かれた現状を分析、教育制度・政策への批判。理想的なあるべき姿論を展開。教育は子どもたちのもの。学歴ではなく、社会を生きる力を育む。指針としては共感できるが、具体策は丸投げ。論理の飛躍があったり、細かい点は矛盾を感じる。
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意外にも赤を引くことが多かった。
全体的にタメにはなったが、後半はだんだん読み疲れてきた、というのが正直な感想。
また採用試験前に読み直したい1冊。
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題名でイメージするような内容ではないです。
安部教育改革が、20年後、50年後、100年後に、「日本を滅ぼした」少なくとも、「日本を悪くした」と言われることは、確実でしょう。
それが、なんで普通にわからないのだろう?
そういう普通のことが、書いてある本です。
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[ 内容 ]
なぜ教師はここまで追いつめられたのか?
教師力の低下と苛酷な教育現場の実態。
本当の「教育再生」への処方箋。
[ 目次 ]
序章 病める教師―教育の現場から
第1章 教師力は落ちたのか
第2章 「逆風」にさらされる教師
第3章 教師の条件
第4章 「教育再生論議」に見る、教師の未来
第5章 「教育再生」への提言
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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著者が伝えたいことは?
教育とは、学校や家庭などの現場において、日々営なまれる、ドロまみれで、人間臭い営みである。
教育再生は、外野から外野の論理を押し付けていくことではなく、主役である子どもたちの声を聞き取り、教師を尊重することです。その上で、必要な予算を注ぎ込む。
つまり、教師や学校は、子どもや保護者の力をかりて、彼らの実態や彼らが抱える問題をもとにした教育方針や指導方針を立てたうえで、日々実践していくことが、教育再生につながる。
学校と教師に自由と権限を与えることにより、いじめのない、創造性豊かで安全な安心できる学校が生まれてくる。
キーワードは、教育は、子どもたちのもの。
著書は、現状の教育の問題点について書かれているが、終始問題点の提示が主であり、具体案がないのが、残念である。
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今、はやりの「格差」と教師とを結びつけたタイトルを見て、思わず手に取りました。この20年あまり、いろいろな外部からの力に、学校現場は振り回され続けています。せめて、子どもをあたたかく見つめることのできる、物理的な、そして心理的な「ゆとり」がほしいです。
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対症療法。
今の教育のアプローチがそうである、と筆者は言います。ではどんな教育が望ましいのかといえば、『人間臭い教師の養成』つまり、昔の熱血教師の復興。懐古主義を思わせる内容に拍子抜けでした。
熱血教師、子どもに真摯に向き合うための手段が、現在の査定主義や煩雑な事務処理と相容れない。また保護者アンケート調査によると、理想の教師は、端的に言えば上記熱血教師で、更に、理想の子ども像や理想の教師、学校に求めるものは、『人の痛みが分かる子になってほしい』、『のびのびと子どもを伸ばしてほしい』がトップとなり、メディアが声高に叫ぶ『学力向上』を期待する保護者は少なかった…。
んー。
筆者の言う通り、確かに学校に対して学力の向上を求めるのはお門違いだと思うし(最低ラインは求めます)、学力向上を一番の目標に据えるなら学習塾に行かせればよいことで。学校というのは学力だけでなく、学校生活を通して、他人との強調・協働・協力を通じて共感性や情操、自律、責任感の醸成を目指す、言わば社会生活を営む上で必要な要素を培う『社会生活のミニチュア版』。
その音頭取りが教師なんだけど。
全ての教師が熱血教師だったら気持ち悪いだけで、もっと教師にも多様性を促進させるような方向性を持たせた方が良いような気がします。
序盤から終盤にかけて、著者による調査や文科省のデータを資料としてまとめてあり、丁寧な解説と著者の私見をうまくミックスさせていて読みやすいのですが、終盤からのまとめでは、ちょっと説得力に欠ける面もあり、著者の見解も紙幅的に言えば少なかったのが残念です。まぁしかし、押し並べて面白く読めました。
最後に、理想の教師像というアンケートの調査結果(本書掲載)をまとめたものを載せます。
好きな先生の条件(理想の先生像) NHK『少年少女プロジェクト』の調査
中学・高校生の回答
気楽に話せる…61%
授業がわかりやすい…50%
ユーモアがある…41%
どの生徒にも公平に接する…39%
生徒の話を真剣に聞いてくれる…32%
自分の過ちを素直にみとめる(あやまる)…19%
怒るときはきちんと怒る…17%
校長の回答
授業がわかりやすい…92%
気楽に話せる…4%
ユーモアがある…8%
保護者の回答
生徒の話を真剣に聞いてくれる…67%
授業がわかりやすい…56%
どの生徒にも公平に接する…50%
怒るときはきちんと怒る…44%
気楽に話せる…26%
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昨今の教育事情を冷静に分析。
教育現場を経験した人らしく、教師のおかれた立場をよく理解して書かれている。
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2012/06/30ー2013/08/20
壊れていく教師を救えるのは、尾木直樹さんのように教師の内実を知り尽くした元教師のコメントが必要である。教壇に立ったもののみが教育に対してもの言うことができる。
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教師の教育力の低下しているとよく言われる。これが的外れな意見だとは必ずしも言い切れないが、それ以上に社会の変化が大きいのではないか、というのが筆者の主張だ。実際に中学校教諭として現場にもいた筆者が、現在の教師を取り巻く環境や教員評価制度等について生々しい具体例を交えて論じている一冊。
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少し前の本だけど、書いてあることは少しも古びていない。かつて学校に勤務していて、今も多くの先生方のそばにいる自分にとって、大いにうなずける点がたくさんある本であった。
いろんなことがあるたびに先生は非難を浴びてしまっていて、本当に一握りの不心得者の行っていることが、なんだかその職全体を貶めているような印象が強い。たまにバカなことをやった人がアニメを見ていたからって、アニメファンを全員変態扱いするような論調とまったく同じである。
この本の中には、思うにならない勤務条件の中で、子供たちのために身を粉にして働く先生の姿がたくさん書かれている。特に、具体的なアンケートの中で明らかになる各先生方の声は、本当に心を打つものがある。自分のことは二の次にして、目の前の子供たちの笑顔だけを励みにしている先生方のことをもっとたくさんの人に知ってほしいと思う。
本のタイトルはわりあい強い印象を与えるけど、出来の悪い先生の見つけだして攻撃するような内容ではない。もちろん、先生がしっかりしなければいけないのは当たり前だし、問題のある先生にはやめてもらうなりなんなり、そういうことだって必要なのはよくわかる。この本にもそういうこともきちんと書かれている。
でもそれ以上に、もし教員格差が生まれるとしたらそれはなぜなのか、実際に格差があるとしたらそれをどうすればいいのか、そういうことにきちんと答えを見つけようとしている筆者の態度に好感が持てる。
法律の意図などについて、「そんなふうにとらえなくてもいいんじゃないかなあ」と思うところもいくつかあったし、筆者が指摘する問題点についても、「でも、それは…」と思うところもある。でも、そういった違いを越えて、根本のところにある考え方、一言でいえば社会が先生を信用し、教育をもっと大事に考えていこうという主張に深く共感した。
この本が書かれてから何年も経っている。同じ大変さの中に先生たちがいることが悔しい。
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熱い語りだった。尾木ママの教育に欠ける思いや、子どもの人格的成長に尽力しようとする思いが伝わるようだった。問題点はたくさんあがっていたが、どうすれぱよいのこの部分は抽象的になって、とりあえずお金もかけて人材集めもがんばって、世論と政策や保護者と教師、校長の認識の違いを埋めて、という感じになってしまったのがもう一歩。
ただ熱い語りに、尾木ママの本を他にも読んでみようと思えた。ぜひ、教員志望には読んでほしいし、たくさんふせんがつく本になると思う。
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教師を目指す人、教育学を学んでいる人、今の教師という職業にものいいたい人みんなに読んでほしい一冊。教師に対する見方が変わると思う。