被差別の食卓/ポジティブな被差別論
2005/10/18 13:25
12人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:tujigiri - この投稿者のレビュー一覧を見る
大阪でちかごろ人気を博している「かすうどん」。
10年ほど前に一大ブームとなった「もつ鍋」。
これらの食べ物がいずれも被差別部落をルーツとしていることを知らない人は多い。
「なんであんな部落の食い物が流行るんやろ」
ある年配の知人がぼそりとつぶやいた言葉は、いまでも僕の耳の奥に残っている。
差別は汎人類的に相当に根深い問題であり、残念ながらおそらく人類史がつづくかぎり、程度の違いはあれど永遠に解消されない類いのものだろうと認識している。
被差別の立場に立たされたことのない僕(や、あなた)が彼らの心情を心から理解することは不可能なのかもしれない。同和利権という、また別次元のマターもそこにはひかえているのかもしれない。
また、逆差別のねじれ現象やポリティカリー・コレクト(PC=政治的公正)によって表層にはあらわれなくなった「見えない差別」などの多面性を鑑みるに、知れば知るほどあらためてむずかしい問題だと痛感させられる。被差別がさらに被差別を生み出す泥沼のような差別のスパイラルに至っては、暗澹たる思いしか湧いてこないというのが正直なところだ。
差別とはある意味で、一神教における悪魔の存在同様に、全体の霊性を構成する不可欠なパーツなのではないか。ときにこんな理不尽な感覚さえ胸に去来してしまう。
端的にいって、文化人類学的にこの構図を是認することは可能だが、いっぽうでそれを看過することは到底できない。理と情の二律背反を目の前にして、僕らは途方に暮れながら停滞している。
差別の根絶は本当にむずかしい。だからこそ、その構造を知ることはとても大事なことなのだ。
本書は世界各地の被差別民の姿を独自の食文化「ソウルフード」という横糸からとらえ直した、ユニークかつ意義深いレポートである。境遇の悲惨さを前面にださず、差別者側の倫理性を問う論調のなさ(あるいは薄さ)が、この本をして差別問題における稀有なテクストとしているといえるだろう。
アメリカやブラジルの黒人集落、ブルガリア・イラクのロマ(ジプシー)、ネパールの不可触民などの被差別部落を、日本の同じ被差別民として訪ね歩いた著者の、客観的でありながら独特の斜角を備えた目線は、彼のジャーナリストとしてのすぐれた資質を証明している。
部落解放同盟的な運動・書籍にはあまり触れたことがないので正確さを欠く所感かもしれないのだが、このような本があらわれたこと自体が、差別問題があらたな局面に差し掛かったことを意味しているのかもしれない。
まず差別を知ること。本書はその教導役にふさわしい、実に読みやすくておもしろいレポートである。
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「もの食う人びと」と同じくらいの良書。ジャンルもルポタージュやし。被差別部落(国内外問わず)でのみ食べられている、一般の人は捨てたりして食べない部分を上手に料理して独自の食べ物に昇華させていった文化がある。食べ物を造る産業に携わるモノとして、文化としての食べ物という側面は見逃せない。本当に読んでよかった。
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一部の限られた人たちが普通は食べることはない食材を工夫して調理して食べたものが
現代ではソウルフードと呼ばれている。当時のソウルフードは味よりも栄養を摂取することを優先させていました。
現在はちょっとしたアレンジも加えられ食べやすい土地の名物料理となっていたりします。
生き抜くための料理がその土地の名物料理になって観光客に振る舞われているとは皮肉なものです。
あたり前のように食べていた家庭料理がその家独自のソウルフードかもしれません。
でもそれは恥ずかしいことではなく、むしろ自慢すべきことです。
何年経っても忘れない味こそがソウルフードの本質だと思います。
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内容はおもしろくはあるんだけど、細部の考察なんかが、どうもうーん。弱いというか怪しいというか、粗雑感と過剰感が否めない気がする。
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父が、食に関する本を読むのが好きだったので私も自然に好きになりました。この本は、被差別者たちに特有の料理を取材し記述したもので、料理と彼らの生活が密着していてとても興味深い。
伝統に根付く差別は学校の授業で習った程度の知識しか持ち合わせていなかったので、差別に関する知識を得られただけでも読んだ価値があったと思います。面白く読みやすかった。
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興味深く読んだけど考察が物足りない。ソールフードはどこでもなんとなく似ている、とざっくり示してしまうことで、もっと重要な部分が抜け落ちてしまうのではないだろうか。それも料理という面、差別という面両方にとって。
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ハリネズミを食べたり、荒れるイラクに行ったり、少しヒリヒリするカンジの文章で食べ物を軸に人々を描きます。
ケンタッキーフライドチキン、さいぼし、あぶらかすについて勉強になります。
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部落差別の大阪の食から黒人奴隷の食 ジプシーの食 カーストの食を実際に食べています。
差別食なんだけど 捨てるような内臓肉を
きちんと処理して食べたり 感心する事が沢山ありました。
だけど差別はいかんね
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フライドチキンが実は黒人奴隷が食べにくい鶏の手羽や爪先を油でじっくり揚げて骨まで食べられるようにしたもので、さらには日本の被差別部落で食べられている牛の腸を輪切りにしてじっくり揚げて食べるあぶらかすとも共通している、といった具合に、食べにくい、捨てられていた部分を工夫しているうちに一般的な御馳走に「出世」する例と、相変わらずごく一部でしか食べられていない例とを併記し、「一般社会」と同化するのか拒否されるのかといった被差別者のあり方と重ねて解き明かしている。
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人権→と畜→食 と考えていた所で出会った一冊です。
作者(30代)の感性を感じつつ学ぶことのできる一冊です。
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「食事」という共通点から、世界各地の「被差別部落」や「被差別民」のルーツを辿っていく。
文化や言語がまるっきり違っていても、「被差別」の名の下に彼らは彼らの中で共通する独自の食文化を築いていったということがよく分かる。
筆者自身も大阪の部落出身であるため、そういった人々に対して常にシンパシーを抱きつつこの文章を綴っていることも、
この書から滲み出ていると感じた。
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アメリカ、ブラジル、ブルガリア、イラク、ネパール、そして日本。自らも被差別部落で
育ち、その食卓を囲んだ著者が、世界の、そして日本の被差別民の食卓をめぐります。
そこで見えてきた共通点とは?世界的なファストフードであるフライドチキンが
なぜ被差別民の食事なのか、という下りはヒザポンものです。
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『日本の路地を旅する』が貸出中だったので、さかのぼってこっちの本を借りてきて読む。
▼かつては差別のため、むらと一般地区の人間との結婚は難しかった。各地のむらの者同士の間では頻繁に縁組がなされ、むらの食べ物は「むら」から「むら」へと伝えられた。そうして独自の食文化が育まれていったのである。
こうした「むらの食べ物」は、被差別の民の知恵と工夫の結晶である。最初に事実を知った時は、自分が普段から食べていた料理にそんな歴史があったのかと軽い衝撃を受けた。しかし成長するにしたがって、わたしはそのような環境に育ったことを、徐々に誇りに思うようになったのであった。(p.6)
大阪のむら(被差別部落)でうまれた著者が、自分が食べてきたものをたどり、そこから世界各地の被差別の食をたずねる旅に出る。アメリカ、ブラジル、ブルガリア、イラク、ネパール…各地の「抵抗的余り物料理」は、被差別の人びとのソウルフードでもあった。
食べると差別される
著者がたずねた先には、だからそのソウルフードをもう食べないのだという人たちもあった。
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すごく良かった。
被差別部落の出身である著者が、「被差別の民の知恵と結晶」である「むらの食べ物」を通じて、主に海外の被差別民を尋ね歩いた記録。
著者の、人に接する姿勢がとてもまっとうでほっとする。
「被差別者に対する配慮」という特別なものではなく、ただ当たり前に礼を尽くす。
食べ物を残さないようにおなかをすかせて行くとか、読者が取材対象に悪いイメージを持たないよう気を配った書き方とか。
してくれたことやされていること、ちょっとしたことにきちんと気づいてさりげなく拾っていく。
インタビューを受けた人が軒並み「(今では)大した差別はない」と言い、昔の差別は(ひどすぎて)語れないと答えるのが印象的だった。
石を投げられたり顔が変わるほど殴られたり指を端から折られたり殺されたりはしないから「(それに比べれば)差別はない」。そう言えてしまうほど過酷な差別の歴史がある。
そんな悲惨さを書きつつ、決して対象を貶めない、現状を軽んじることもしない。
だから安心して読めた。
ただ、ロマに「自分は日本のジプシーだ」というところはひっかかった。学校を出て仕事をして食っていけて外国にだって行ける著者がこの場所にいる子供と同じなわけがない。
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[ 内容 ]
大阪のある被差別部落では、そこでしか食べられない料理がある。
あぶらかす、さいぼし…。
一般地区の人々が見向きもしない余り物を食べやすいように工夫した独自の食文化である。
その“むら”で生まれ育った著者は、やがて世界各地にある被差別の民が作り上げた食を味わうための旅に出た。
フライドチキン、フェジョアーダ、ハリネズミ料理―。
単に「おいしい」だけではすまされない“魂の料理”がそこにあった。
[ 目次 ]
第1章 ソウルフード―アメリカ(ハーレムの豚もつ煮 フライドチキンの秘密 ほか)
第2章 奴隷たちの楽園―ブラジル(国民料理は奴隷料理 ダダの笑顔 ほか)
第3章 漂泊民の晩餐―ブルガリア、イラク(ロマの“浄・穢観” 「トマス」「トラハナ」冬の朝食 ほか)
第4章 禁断の牛肉料理―ネパール(カースト制度の国 不可触民サルキ ほか)
第5章 被差別の食卓―日本(団地からの風景 日本版ビーフジャーキー「さいぼし」 ほか)
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[ 参考となる書評 ]