由布院の小さな奇跡(新潮新書)
著者 木谷文弘 (著)
由布院は盆地である。かつては山に囲まれた普通の田舎だった。名所旧跡もない。温泉の湧出量は全国第二位という豊富さだが、客は少なかった。現在、旅館も増え、みやげ物屋が立ち並び...
由布院の小さな奇跡(新潮新書)
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
商品説明
由布院は盆地である。かつては山に囲まれた普通の田舎だった。名所旧跡もない。温泉の湧出量は全国第二位という豊富さだが、客は少なかった。現在、旅館も増え、みやげ物屋が立ち並び、国内温泉地のなかでトップクラスの人気を集めるようになった。年間の観光客は三百八十万人、宿泊客は九十五万人を数える。この奇跡的な成功の陰にはどのような努力があったのか。「由布院ブランド」を築き上げたまちづくりの物語。
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
小分け商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この商品の他ラインナップ
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
人を中心に由布院の魅力の成立と現状、そして今後に迫る一冊
2004/11/22 14:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:苦楽 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、プロジェクトXにも取り上げられた独自の魅力を持つ観光地として知られる由布院についての報告である。温泉こそあるが名所旧跡はなく客も少ない、山に囲まれた普通の田舎だった由布院を独自の魅力がある観光地としての魅力とそれを生み出した要因を本書は人に焦点を当てて語っている。
著者はまず「まちづくり達人」として、独自のビジョンを持ち、観光地由布院の方向性を打ち出すと共に運動の推進力となった二人、“ホラ健”こと中谷健太郎氏と“つぼみ溝口”こと溝口薫平氏に焦点を当てている。
「観光というものは特別に観光のものとして作られるべきものではないのです。その土地の暮らしそのものが観光というものなのです。村の生活が豊かで魅力あるものでなくしてその土地になんの魅力がありましょうか」
この中谷氏の言葉に含まれる考え方が、「環境とイベント」という二つの側面からその後の由布院のあり方に大きな影響を与えているのである。また、中谷氏、溝口氏共に自分たちで旅館を経営して独自の美学を形として表し、「ゆふいん音楽祭」「牛喰い絶叫大会」「湯布院映画祭」などの由布院を代表するイベントの立案、実行の推進力になっている。
やはり、物事を成し遂げるにはビジョンと理念を持った舵取り役と推進役の人が不可欠であると思わされる。
しかしその一方で、「笛吹けど民踊らず」という言葉の通り、一部の人間だけでは物事は成し遂げられない。特に由布院全域を観光地としてお客をもてなそう、という由布院独自の姿勢を貫くためには、地元の住民の理解と協力は不可欠である。
ゴルフ場開発計画反対や経験や雰囲気を守るための運動に参加し、手作りのイベントである「ゆふいん音楽祭」「牛喰い絶叫大会」「湯布院映画祭」等のスタッフを勤める地元のおばちゃんらの人々や、由布院を活性化させている外からの人々として、木工、音楽、料理など各方面で活躍している由布院に移り住んだ人々を本書はもう一つの柱として取り上げている。
そして、それらの人々が作り上げた由布院の魅力として、「ゆふいん音楽祭」「牛喰い絶叫大会」「湯布院映画祭」などの手作りのイベントとそれらにまつわるハプニングやエピソード、地域全体をもてなしの空間としようとする為の数々の試み──地域の顔である駅の足湯、女性用トイレの拡充から始まって、観光客に身近に接するタクシーの制服統一や意識改革、旅館やホテルなどのレストランの開放、相互案内や技術研鑽の為の料理長の出張指導など──を紹介している。これらを読むと、一度は訪れたくなる観光地としての由布院の姿とそれを支えている努力の両方を理解することができる。
しかし、本書が触れているのはそればかりではない。NHKのプロジェクトXに取り上げられて以降の動きや、観光客が増えた故の問題、パークライドなどの交通規制の試み、市町村合併や、コンビニの進出などの商業主義へどう対応するかなどの最新の話題や問題、それらに対する新たな試みなども紹介されている。
個人的には、観光地として成立するための、あるいは成立した後の重要な要素としてメディアと由布院の関わり方についての記述があればさらに良かったと思うが、それを差し引いても、魅力ある観光地としての由布院の成立、現在の魅力、そして今後の課題と対策という、由布院の過去、現在、未来を概観できる案内書としても、地域の人達が何かを成し遂げたドキュメントとしても本書は十分に魅力的な一冊である。