海外市場で国債を発行して資金調達しなければならなかった時代
2023/08/28 19:05
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投稿者:susan - この投稿者のレビュー一覧を見る
日露戦争は明治日本が経験した最大の戦役であり、広大な戦域や会戦の数々、膨大な犠牲者、和平交渉等、これまで様々な考察が行われてきた。本書は資金調達という観点から欧米債券市場における日本国債の価格・利回りの変化が戦況の推移と密接に関係していたこと、そしてそれが国債の発行環境を大きく左右していたことを指摘するものである。従って記述の大半を占めるのは交渉に奔走した高橋是清ら財界人と欧米銀行家の事跡であり、戦記物ではないことを注記しておきたい。
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日露戦争の際の資金調達に関して、当時日銀副総裁であった高橋是清とそれに随行した深井英五の活躍は多くの人が知るところだが、『是清自伝』などの記述には曖昧で不明な部分も多い。とくに高橋とユダヤ人資本家ヤコブ・シフとの関係はよくわかっていなかった。
本書は先行研究に依拠しながらも、シフをはじめとする欧米のバンカー達の立ち位置や考え方にも多く言及し、当時の国際的金融市場の中でこの日露戦費調達がどのような形でおこなわれたのか、またそれが日本にとってどのような意味を持ったのかを丁寧に、かつスリリングに叙述している。複雑でわかりにくい部分も図表を多用しながら解説しているので、初心者にもとっつきやすいのではないだろうか。
今さらながらオススメである。
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個人的に日露戦争にまつわる日本の動きに関する本を多く読んできた。その多くは歴史や世相に関するものだが、この本は「資金調達」に焦点を合わせた本であるが、逆に歴史の解釈に新たな切り口を垣間見せてくれたという点で優れた論考だと思う。私が「日露戦争」に惹かれるには、今の日本において決定的にかけている「資本政策、資金調達、外交戦略、パワーバランス、そしてそれらを背景とした軍事戦略・戦術」が、明治維新後わずか30年余りの間に高度に成立させた当時の日本の成長に、素朴に驚嘆しているからである。この歴史から学べることは、まだまだ、ある。
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日露戦争を資金調達という視点から見た本。
国際利回りという視点からみた当時の日露に対する評価や、資金調達を行った高橋是清のリレーションの範囲・深さ等、興味深い内容だった。
当時の国債発行市場や主要な投資銀行の情報なども楽しめた。
現代の日本への教訓にも富んだ本であると思う。
筆者があげている教訓としては以下の3つである。
1.公債の発行は増税の先送りでしかない。
2.市場へのアクセス、流通市場でなく発行市場へのアクセスは別個であるということ。
3.インベスター・リレーションの重要性、投資先・調達先の分散によるリスク回避が重要であるということ。
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歴史モノは苦手だけど、比較的仕事に近い金融の視点で日露戦争を読み解くとのことで読んでみたら、すげー面白い。公債の金利・値段は新聞や一般大衆以上に情勢を把握・反映しているものなんだなぁ。調達にあたって、国際的な金融資本に翻弄されるが、回を重ねるごとにうまくこなしていく高橋是清も見事。
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高橋是清による日露戦争時の海外公債発行の模様について、当人の自叙伝や世の中に広まった「通説」によらず、複数の資料を基に、著者が真実と考えるところが書かれている。高橋の苦労話だけでなく、当時のファイナンスの中心であるロンドンやニューヨークの金融プレイヤーの実態なども分かりやすく紹介されていて、興味深い。
それにしても、国を運営するというのは大変だ。今よりもずっと非民主的だと思われる明治時代においても、正貨が足りないから悪条件でも起債しなければならないのに、新聞には条件が悪いと書かれ、だからといって、資金不足の実態をさらけ出せば、ますます資金が集まらなくなって条件が悪化したり、戦争を止められなかったりする。そんな国民の不満を浴びながら、国の置かれた条件の下でベストを尽くすという明治の男は、高橋にしろ、小村寿太郎にしろ、みんな偉いなと改めて思う。
また、本書のメインではないが、あの児玉源太郎が、満州に関しては満鉄を使った植民地経営を志向し、「国民の血を流して獲得した」との理由で欧米資本を排除して、後の戦争の遠因を作ったという著者の指摘も、中々興味深く、人物に対する色々な評価があり得ることを思い知らされた。
高橋是清の自伝など、読みたくなる本が増えるという点でも、読んでよかった一冊。
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日露戦争を金融の観点からみた本。
著者が業界の人なので、マーケット関連のとこは良く書かれてた。
ただ、歴史家ではないので、内容がどこまで正しいのかわからないけど。
ファイナンスの帰趨が戦争の勝敗を左右するが、戦況の方もファイナンスの是非を変えるので、複雑だなと思った。
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この本は、日露戦争というテーマを軸に展開している点で、日本と列強各国の歴史が結びついて理解できる。
また資金調達が話のメインであることから、1900年代における日本の金融市場がどのような雰囲気であったかも垣間見ることができる。
当時の日本国債は、内国発行と同時に、海外発行(ポンド建て)も主力な資金調達手段だった。日露戦争時における海外発行を通じて、国際金融市場へのアクセスの礎を築く。
また根回しの大切さを学ぶこともできる一品。
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大掃除の合間になんとか読み終わった。
日露戦争時、日本は大幅に足りない戦費を外債によって賄ったわけだが、この本では、そのいきさつを詳細に描いている。日露戦争といえば、奉天会戦や日本海海戦が思い浮かぶが、本書では、派手なドンパチの描写は一切ない。
全編を通じて印象深いのは、100年前の国際金融市場が、現代から見ても違和感ないほど高度に発達しているということと、その市場で、高橋是清が驚くべきセンスを発揮し、資金調達を成し遂げたこと。また、実はロシアも資金調達に悩み、ギリギリの線で戦争をしていた事実は、僕の従来の日露戦争感に修正を与えてくれる。
それにしても、涙ぐましいまでの繊細さで世界に相対していた日本が、わずか40年後に対米戦争で破滅してしまうとは。司馬遼太郎が述べていたように「信じがたいこと」だ。
ちなみに大掃除はまだ終わっていない。
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日露戦争における外債発行の裏側、高橋是清の役割など、これまでと違った視点で分析している。クーンローブ商会とシフ。モルガン、ロスチャイルドの役割、当時の国際関係が垣間見ええる。良書。
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■ 日露戦争を始め戦史モノは兎角、軍事面を中心に語られるのが主流の中で、戦争を遂行するための資金調達に焦点を当てるのは、新しい視座に富んでおり、内容も含め名作と言える1冊。
「坂の上の雲」はあくまでも小説だということ。
・各戦役におけるマーケットについての意外な反応。
・ロシア帝国の20世紀初頭における立ち位置
・血の日曜日事件そのものの内容以上にマーケットに与えた影響の大きさ。
・新資料発見におけるロジェストウエンスキー提督の再評価。
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【「坂の上」までの物入り】日本にとっては文字通りの総力を費やすこととなった日露戦争。しかし、工業化も道半ばの日本にとって、もっとも重要な「金」の工面の見通しが立たなかったことから、高橋是清と深井英五は欧米バンカーとの交渉を通じて日本国債の発行を行うよう政府から指令を受ける。いかにして彼らは魅力に乏しかった日本国債の市場を開拓していったのか。金融という新鮮な観点から、日露戦争を鋭く切り取った話題の一冊です。著者は、投資顧問会社を2006年に設立した板谷敏彦。
名著。戦地からはほど遠い国債金融市場を舞台として繰り広げられたもう一つの熱い(されど極めて静かな)戦いに、読者の知的好奇心がぐらぐら揺さぶられること間違いなし。しっかりと20世紀初頭の国債金融がどのような状況にあったかまでも記述されていますので、読んでいて置いてけぼりを喰らうようなこともないかと。かなりの大著ですが、その厚みが120%意味を持つものですので、ぜひ手に取って読んでいただきたい作品です。
著者が高橋是清の公債募集談から汲み取った3点の教訓はまことに明確でありながら、同時に見落とされがちな点として顧みておく必要が十分にあるものだと思います(この教訓は本書を読み進めると本当になるほどと思わざるを得ません)。歴史についての新たな視点が獲得でき、国債金融に関する知識も身に付く、それでいて単純に面白い人間ドラマも味わえるというのですから、こういう本を名著と言わずしてなんと呼べばいいのでしょう。
〜東京市場での株式の暴騰ぶりとロンドン市場での公債価格の変化を比べれば、日本国民の戦勝に対する価値判断が欧州の金融市場と少し乖離し始めた状態が見てとれる。これまでバルチック艦隊に圧迫されていた日本の世論が明らかに増長し始めていたのである。〜
☆10があれば☆10にしたい☆5つ
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高橋是清が日露戦争時にそのような働きをしたということを本書で初めて知った。
手元にあった山川の日本史教科書(詳説日本史)では、高橋是清の名前は原首相刺殺後のp.301「立憲政友会の高橋是清は後継内閣を組織したが短命に終わり、」と二・二六事件のp.327「斎藤実内大臣・高橋是清蔵相・渡辺錠太郎教育総監らを殺害し、」の二箇所のみであり、日露戦争p.272-273の項では触れられていない。
当時の世界情勢、金融の様相、日露戦争の経緯を知れるのみならず、近代社会の成立を捉える上で金融を知ることが肝要であり、金融史を知ることで動的な世界の歴史がわかるということを実感させた一冊だった。
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日露戦争と言えば坂の上の雲のイメージしか持ってない人は読んでおかないとダメといえるテーマ。
戦争といえば兵隊の話ばかりが目立つがお金がないと話は始まらない。近代戦は以前より格段にお金が重要になるのだが、当時の日本は生産力も資源も不足していたので外貨がなければ戦争どころか国家の維持すら困難。そんな日本政府(高橋是清)が金融面でどのように立ち回っていたのかを当時の資料や状況を調べて書かれている本でした。
特に当時の国際金融市場の変動から国際社会は日露戦争の行方をどのように見ていたのかを推察しているのは興味深かったです。
明らかに国力を越えた借り入れをしているのだが、それを公表してしまうと必要な借り入れが行えないので民衆の加熱を抑えることが出来なかったジレンマが和平交渉での失態とあいまってgdgdになる様などを思うと歴史をいろいろな視点から学ぶ必要性をあらためて感じる。
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・学校の教科書で習った「日露戦争」。司馬遼太郎『坂の上の雲』で描かれる英雄的な明治期の日本人たちの雄姿は記憶に新しい。本書は華やかな戦物語の裏で戦費調達の使命を帯び欧米に向かった高橋是清と深井英五を中心に、当時の金本位制を元に為替レートを安定させた20世紀初頭の国際金融市場の動きを追う。二人は、当時二流以下の扱いだった日本国債発行をいかにして可能にしたのか?この物語は資金調達に奔走した人々の軌跡、金融版「坂の上の雲」だ。
・当時、日露のGDP/人は大体同じ水準だった(しかし人口や国土の広さ等国力のその他要素はロシアのほうが上)というのが意外だった。
・この本を読んでユダヤ資本(JPモルガン等)や貨幣制度について興味が湧いた。