縮尻鏡三郎 捨てる神より拾う鬼
著者 佐藤雅美
御家人としての出世街道をしくじり、大番屋元締となった拝郷(はいごう)鏡三郎は、日々持ち込まれる厄介事を捌いている。ある日、大名家の婿養子のお手つきとなって厄介者扱いの娘を...
縮尻鏡三郎 捨てる神より拾う鬼
商品説明
御家人としての出世街道をしくじり、大番屋元締となった拝郷(はいごう)鏡三郎は、日々持ち込まれる厄介事を捌いている。ある日、大名家の婿養子のお手つきとなって厄介者扱いの娘を預かることになった。器量のいい娘は旗本の水野采女(うねめ)に気に入られ、奥方にと望まれるが、采女には許しがたい前科があった。なんとか娘を守ろうとする鏡三郎だったが、彼女は意外な申し出をする…。市井の事件と鏡三郎の親心が織りなす人情ドラマ。好評シリーズ第4弾。
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格言的タイトルと、そこへつながる物語の妙が魅力の時代小説。縮尻鏡三郎シリーズ第四弾。
2011/01/16 19:15
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
幕閣の政争に巻き込まれ、御家人から大番屋の元締めに落ち着いた拝郷鏡三郎。
大番屋は、小伝馬町の牢へ送る前の下調べをする仮牢兼調所である。
大番屋の長である元締め仕事は、仮牢への入出数の確認と、恐ろしい小伝馬の牢へ連れて行かれる前になんとか手心を加えて欲しいと、頭を下げに来る親兄弟や店の主人などの頼みを聞くこと。
そんな仕事柄、なんだかんだと頼りにされて、鏡三郎の元には、今日も様々な依頼が持ち込まれる。
本書は縮尻鏡三郎シリーズの第四弾。
物語の始まりは、鏡三郎の元に持ち込まれる依頼を起点に話が展開していくものから、飲み仲間の世間話から広がっていくもの、娘知穂と婿三九郎のごたごたなど、さまざま。
しかしその構成は、まったく結びつかないような二つの話が、最終的に一つとなり、各話の格言のような特徴あるタイトルへと結びつくというスタイルで共通しており、読者を楽しませてくれる。
その特徴的なタイトルが並べられた本書には、八話収録されている。
●娘知穂の一言が、困り果てた状況に新たな展開を生む、第一話【知穂の一言】
●世の不思議を思い知らされる因縁話が、さらに因縁を生む、第二話【陰徳あれば陽報あり】
●鬼の所行をはたらく不良旗本に端を発した騒動を描く、第三話【捨てる神より拾う鬼】
●剣の吉凶を占う剣相見の回りで起こった剣難の奇譚、第四話【剣相見助左衛門 剣難の見立て】
●娘知穂が持ち込んだ、友人で寄席の三味線弾きおふくの哀歌を描く、第五話【届いておくれ涙の爪弾き】
●老若男女にかぎらず、子供でさえも小さな物語を持つと言うことを材にした、第六話【母は獄門、祖母は遠島】
●ことさら善人ぶったことから足がついてしまった悪人の不運、第七話【過ぎたるは猶及ばざるが如し】
●日本初の算術所『塵劫記(じんこうき)』が思わぬ事件解決につながる、第八話【絹と盗人の数を知ること】
本書の面白味が減ってしまうので、これ以上内容に触れないが、それでも要約した内容とタイトルからも興味のそそられる話が多い。
そんな物語の面白さの他にも、厳しい境遇におかれる子供や、婿と離縁して春の訪れる気配もない娘知穂などを描きながらも、カラッとした暖かさが心地よかったり、遺言書の取り扱い方や、日本初の算術所『塵劫記』を材にするなどの日常社会を描いて、江戸の世界を身近に感じさせるなど、たくさんの魅力に満ちた一冊である。
知穂先生!
2011/08/04 11:09
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんで、三枝能登守は、知穂と三九郎が結婚したときすぐに、就職の世話をしなかったんだ? そうすれば、ふたりは離婚せずにすんだかもしれないのに。
三九郎が何度も「押し込め」になるから、とうとう、知穂は拝郷家の株を三九郎に譲って家を出て手習い塾時習堂の女座の師匠として暮らしていくことにしちゃったじゃないか。
縮尻鏡三郎は、知穂が、時習堂の男座の師匠橘川秀之進にほれているから三九郎とわかれたんだと思っているけど。鏡三郎の最大の縮尻は、おりんと結婚するために知穂と三九郎とを無理矢理くっつけたという罪悪感を無意識の深層に抱えていることに違いない!と、今回もえせカウンセラー的に読んでみる。
もっとも、作品中には、剣相見の助左衛門という人物が出てきて、縮尻鏡三郎が「凶剣」を持っている限り、知穂は不縁だという。占いもカウンセリングみたいなもんやが、「吉剣」を売りつけるのはいただけまへんで。
知穂と離婚した後、三枝能登守の世話で就職した三九郎は、意外や有能さを発揮し、再婚までしてしまった。しかもそのことを、橘川秀之進の結婚式の場で知穂に言う、縮尻鏡三郎。ばかばかばか!
でも、知穂は、手習い塾の師匠としては有能で良心的である。手習い子の家庭にはどうしたって貧富の差があるのだが、貧しい家庭の子も肩身の狭い思いをせずに塾の花見の行事を楽しめるように工夫する。一部の父兄は、たくさんお金をかけて派手な祭りのような花見をする塾に子供を移してしまうが。
うーん、有能で良識的なひとりの教師が世の中に出るために、彼女の離婚は必要だったのかなあ。うーん。
橘川秀之進が嫁の実家、つまり遠い西国に行くことになる。そこで後任に知穂が選んだのは、神山逍遥軒という、学識人柄は申し分ないが、縮尻鏡三郎よりも十歳も上の、老人といってもいい人。
>「もっと若い、先々、おまえが一緒になってもいいというお人はおられぬのか?」
>(略)
>「なにを馬鹿げたことをいっておられるのです。(略)」
>「(略)このまま独り者で終わってしまうぞ」
>「そんな話をしにきたのではありません」
ぴしっと知穂が縮尻鏡三郎を叱るのは当然だ。手習い子たちのためにも真剣な話をしているというのに、この親父は。
この話のときはまだ、天保の改革の数年前。この時分でも、娘浄瑠璃や人形浄瑠璃が禁止され、三九郎はそれに関係して押し込めという罰を受けたのだった。
一方で、将軍徳川家斉の実家の一ツ橋家が勢力を張り、それが、時習堂のライバル(?)の塾の派手な花見の行事でたいへんな騒動を起こし、悲劇をもたらす。『届いておくれ涙の爪弾き』、土壇の場で首を落とされた巳之助の魂が天に昇って行くときも、しばらく中空に残って聴いていたに違いない……。
その後、『母は獄門、祖母は遠島』という複雑で残酷な運命に見舞われ、縮尻鏡三郎もおりんもどう声をかけていいのかわからないでいる少女せんを、知穂が引き取る。せんも知穂を信頼したようである。教師としての知穂の良さは、おとなも子供も認めているのだ。ただ、おとなしい嫁にはなれそうもないが。