いじめの構造(新潮新書)
著者 森口朗 (著)
なぜ、いじめは起こるのか。いじめっ子といじめられっ子の境界には何があるのか。大人の目を狡猾に避けて隠蔽されるいじめは、理想論ばかりの「今時のいじめ」論からは絶対に理解でき...
いじめの構造(新潮新書)
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商品説明
なぜ、いじめは起こるのか。いじめっ子といじめられっ子の境界には何があるのか。大人の目を狡猾に避けて隠蔽されるいじめは、理想論ばかりの「今時のいじめ」論からは絶対に理解できないし、解決もできない。「いじめの根絶は不可能」という現実を明確に直視した上で、いじめのメカニズムを明らかにし、具体的にどう対処すればよいのか、わかりやすく提示する。
著者紹介
森口朗 (著)
- 略歴
- 1960年大阪府生まれ。中央大学法学部卒業。教育評論家。東京都職員。小学校、養護学校、都立高校勤務を経験。著書に「戦後教育で失われたもの」「授業の復権」など。
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これまでのいじめ議論が吹っ飛びます
2007/06/24 08:20
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:宝船 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、いじめを分析した書物として、内藤朝雄の書物と並び、現在最高水準にあります。
内藤理論の紹介やスクールカーストという概念をいじめ分析に導入した点は著者の大きな功績ですが、それだけでなく「いじめという行動が合理的に選択されている」「いじめの傍観者に、いじめを止める行動をとらせるにはゲーム理論が応用できる」など、目からウロコの内容が満載です。
「いじめられている子どもは可哀想。今すぐ根絶しなければ」というレベルの類書に飽きた方は是非。
「本気の大人」になりたくない人のための「いじめ学」入門
2007/07/29 17:24
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:後藤和智 - この投稿者のレビュー一覧を見る
あの日の喧噪を、我々はもう忘れつつある。「あの日」とは、平成18年10月頃、とある学校で「いじめ」を原因に自殺した人が出た、ということが報道されてから、多くの番組で「いじめ自殺」が採り上げられ、特番もたくさん組まれ、またかの悪名高き教育再生会議が、これまたお粗末な「緊急提言」を出して、多くの専門家、準専門家の失笑を買った(ちなみにこの「提言」は、本書でも嘲笑されている)。「いじめから子供を救おう!」と叫んだり、あるいは「現代のいじめはこんなにも酷くなった」と嘆いてみせたりする「本気の大人」たちの姿を、新聞、テレビ、雑誌などで見ない日はなかったほどだ。
それから数ヶ月経過した現在、もはや「いじめ自殺」を輝かしい目で語るものは誰一人いなくなった。青少年の自殺が微増した原因を「いじめ自殺」と安易に結びつけるような報道があったり、あるいは「いじめ」に関して安直な便乗本(そしてそれは疑似科学本でもある)を出すような自称学者がいたりするけれども、嵐は既に去った。そんな中上梓された本書は、まさに「本気の大人」たちの安易な言説とは一線を画し、「いじめ」を社会学、心理学的に捉えるための足がかりとして、極めて貴重な文献に仕上がっている。
本書は基本的に、前半と後半に分けることができるだろう。前半は、主として複数人の専門家による「いじめ」言説を、著者がある程度独自に組み替えるなどして、現代の「いじめ」を読み解こうという試みだ。援用されている学者は、藤田英典、内藤朝雄、森田洋司などで、彼らの議論を発展的に継承しつつ「いじめ」を論じようとする本書第2,3章は、まさに本書の白眉である。
もちろん、既存の議論に対し、最近話題となっている概念を適切に付加することも忘れていない。ここで付加されている概念が、平成19年頃より話題となった「スクールカースト」概念で、学校内や職場内の狭い社会において、学力というよりもコミュニケーション能力などの「総合的な能力」の高低によって地位の高低が決まってしまう、というもので(詳しく説明するのは難しいが、あいにくこの概念の説明に特化した本はない。なので、これの背景を述べたと思われる、本田由紀『多元化する「能力」と日本社会』(NTT出版)を参照されたし)、この概念を藤田英典の「いじめ」言説に結びつけることによって、よりフレキシブルに「いじめ」を説明できるようにしている。
このように、通常はなかなか世間に伝わりにくい概念を、ある程度簡略化、あるいは汎用化することによって、広く伝えることこそ、本書のもっとも大きな役割だと思う。ある自称を論じた言説に対し、それに学術的な概念でもって批判するということは、短絡的な言説の流行に水を差すと同時に、長期的な視座をも与えてくれる。
第4章は「いじめ」が隠蔽されるメカニズムを説明する。本章に限ったことではないが、若い教員に対する上司の嫌がらせ(特に日教組系の。ただ、これについては著者が日教組を批判するために意図的に偏った採り上げ方をしている可能性もあるので、割り引いて読む必要がある)の事例は、読んでいて気持ち悪くなる。第5章の「いじめ」言説への批判は痛快。「いじめ」を受けたことのある身としてこのようなしたり顔の言説に対する批判は実に頼もしい。ただ、最後のほうで藤原正彦やらTOSSやらを持ち上げているのは、個人的にはやや減点対象だが、本書全体のクオリティを落とすようなものではないだろう。まさに「いじめ学」の入門書といえる本書は、多くの人に読まれて然るべきものだ。
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