紙の本
サッカーの応援も楽しいけれど、この本で「日本」を愛する!
2001/03/07 13:06
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
身のまわりで使っているハサミや土瓶のような道具に美しさを見いだし、それを作る民衆的工藝を「民藝」と名づけたのが本書の著者・柳宗悦である。
宗悦の見立てにかなった陸前古川の金熊手、東京のかんざしと櫛、武蔵加須の鯉のぼり、下野益子の壷、羽前天童の将棋駒、越後小千谷の縮、沖縄八重山の白絣など多数の民芸品が地方別に紹介されている。宗悦の文章に添えられた芹沢けい介の版画によるカットが、味があって楽しい。
本の最後に附された解説にもあるように、軍人の家に生まれ、学習院でお坊ちゃんとして育った柳宗悦は、武者小路実篤や志賀直哉たちと白樺派を形成する。
でも、覚醒した自我や天才の個性を重んじる彼らの芸術観になじめなかった宗悦は、自我が生じる以前の未分化の自然に着目し、名もなき民衆が自然な姿で作りだした日常の道具の美に惹かれていく。
そして、大正末期から20年もの歳月をかけて全国津々浦々を歩き回り、調査した結果がこのような本にまとめられたのである。
長い歳月を、旅と調査にかけて生きた人としては、ここ数年ブームになっている宮本常一が有名である。彼とパトロンであった渋澤敬三について『旅する巨人』という佐野眞一氏の面白い本があるし、膨大な調査記録は『宮本常一著作集』というおバケみたいな全集に収められている。『忘れられた日本人』『日本の村・海をひらいた人々』といった岩波文庫で、その凄さの片鱗に触れることができる。
ほぼ同じ時代を生きた二つの巨星が、同じような問題意識を持って、昭和初期までの日本の姿を記録に留めようとしたことは、極めて興味深い。
第二次世界大戦、高度成長経済、バブル経済を経た今、彼らが大切に思っていた「美しい日本の風景・日本人の心」は、ほぼ壊滅状態になってしまっているといってもいい。
美しいものはやがて滅びるということが、彼らの頭の中に切実になかったとしても、深層意識のどこかにあり、それに突き動かされるように調査の仕事をしていてくれたからこそ、私たちは本を頼りに、次の世代に過去の美しい遺産について語ることができる。二人の著作はどれも、神のような存在がいて、その取り計らいによって残されたものなのだという気さえしてくる。
しかし、宮本常一と柳宗悦には際立った違いがある。宮本が人から聞いた話をまとめたり、農具や漁具から家の間取りにいたるまで網羅的に何でかんでもまとめたのに対し、宗悦は調査を「民藝」にしぼり、それを自分の美意識によって取捨選択して並べたという点である。
山口の百姓の生まれであることを自分の強みとして歩き回った宮本と、自然を重んじながらも、最後は自分の美意識を貫いた宗悦。二人の仕事を比べながら、失われつつある日本の姿・日本人の心を追って、本の中を旅するのも楽しい。
紙の本
大事にしたい
2021/04/30 16:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MR1110 - この投稿者のレビュー一覧を見る
民藝運動の創始者柳宗悦の著書。戦時中に書かれた本書ですのが、既にこの時期には手仕事が少なくなりつつあり時代遅れという流れになっていた事を知り驚きました。今この時代だからこそ手仕事のありがたさ素晴らしさを知る事が出来ます。
紙の本
手仕事の日本を読んで
2012/02/01 17:28
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナツ - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は、民藝に興味があり、柳宗悦という名前を歴史の教科書で見かけたことがきっかけでこの本を購入しました。
今の日本には、手仕事が必要だ。手仕事をもっと見直すべきだ。という筆者の強い思いが伝わってきます。
文体がすこし古風な感じもしますが、決して読みにくくはなく、静かに語りかけてくるようです。
たしかな知識と、筆者の批評が、読む人に心地よいリズムを与えます。
旅のお供に丁度よさそうです。
投稿元:
レビューを見る
2008/9
民藝運動の中心である著者が、全国各地に残った、まさに民藝といえるものを紹介している一冊。戦前にかかれたものながら、今でもまだ伝統工芸といきづいているものもあり、これからも残していきたいものも多数紹介されている。デザインなどを志している人には一度読んでおくことを強くおすすめする。
投稿元:
レビューを見る
地方の伝統工芸を覚えることとか、そんなに興味ないし、
図版も、写真ではないので、明確なイメージもしにくい。
けど。。
この文章の中に身を浸らせると、「地方の工芸の正直な美」に包まれているような、
「ほんとうのほんとうに美しいものが好き」という熱くも柔らかな男気のようなものに包まれているような、
そんな感じがして、とっても気持ちがよく、
私にとっては一種のヒーリングです。
読んでいるうちに、自分の五感が豊かに研ぎ澄まされていく感じがします。
そして、「ほんとうに美しいもの」に、見たり触ったりしたいな、って思います。自分の五感が「ほんとうに」満足するように、誠実に丁寧に、工芸や身の回りのものを選んで、贅沢ではない豊かな、美意識を持って、生活を楽しみたいと思ったりします。
ほんとうに良い身の回りのものを選ぶことが、自分を大切にするってことに繋がるような気がする。
投稿元:
レビューを見る
通して読むのもいいのだけど、なんとなく適当にパラパラめくって気になった章を気になったとき読むのも楽しい。
絵を見ているだけでもいいですね。
投稿元:
レビューを見る
解説の言葉に、心が痛みます。
「『手仕事の日本』はまだ手仕事が各地方の生活の中でいきいきと働いていた昭和十年代の姿を、これからの日本を背負って立つ若者たちのために書き残す仕事であった。結果としては、滅びていった手仕事の遺書となってしまった。」
今では見る事が出来ない、すばらしい日本の姿があります。
「良い仕事をする」ではなく「悪い仕事を知らない」と表現する、
この本の日本語も、美しいです。
美しい世界を堪能できるすばらしい本です♪
投稿元:
レビューを見る
柳宗悦による民藝案内書。
手仕事で作られたものは、それが手仕事であるがゆえに美しい。実用のために作られたからこそ、そして使い込まれたからこその美しさは、まさに柳の言う「健康な美しさ」なのだろう。
「品物の良し悪しを定める標準は、それがどれだけ健やかな心と体との持主であるかを見ればよいわけであります。」(pp.263,ll.2-3)
そのような点で、品物も人間も同様だとの観点は、するりと自分の中に入って行った。審美眼なるものを持たない自分にもわかりやすく、まさに案内書。
芹沢銈介の小間絵も楽しい。惜しむらくは、本文に該当するところに絵が入っていないことか。敢えてなのだろうが、読者の視点も忘れない構成にしてほしかった。
投稿元:
レビューを見る
民芸運動の創始者として知られる柳宗悦が、日本全国を歩いて見いだした民芸品を紹介している。
柳の民芸論は、彼の民芸運動と一体のものだった。本書の「解説」でも触れられているが、1940年におこなわれた柳田国男との対談の中で、事実を正確に報告することが民俗学の責務だという柳田の主張に対して、あるべき民芸の姿を積極的に提示し、それを推し進めてゆかなければならないと柳は主張した。こうした彼の姿勢は本書の中でもはっきりと示されている。彼は各地の民芸品が俗に流れてしまったことを嘆くとともに、確かな手仕事だけに現われる「健康の美」を取り戻すべきだという主張をくり返している。
本書の中心は各地の民芸品を紹介した第2章だが、第3章には柳の思想がコンパクトにまとめられており、柳の民芸論へのかっこうの手引きとなっている。職人たちが作った民芸品は、いわゆる「美術作品」とは違い、作者個人の名が記されていない。それらの品物は、作者の名を知らしめるために作られたのではなく、実用を旨として作られたのである。柳の功績は、こうした民芸品がもつ「美」を見いだしたことだと言ってよいだろう。
実用品は美術作品と比べて価値の低いものとみなされがちだ。ところが、それらの品物がもつ健康美が私たちの生活の中から失われてゆくにつれて、私たちの心はしだいにすさみ、日々の生活は潤いのないものに陥ってしまう。柳は、美術作品にそなわっているような「鑑賞」される「美」とは異なる、私たちの日々の暮らしを深いものにする「美」を見いだし、その価値を称揚したのである。
芹沢銈介の手になる挿絵も味わい深い。
投稿元:
レビューを見る
60年も前に書かれた本著は、民芸品・工芸品の挿絵を添えながら、職人さんの功績、実用美、健康美など、日本のモノづくりの良さを現代に伝えてくれます。
投稿元:
レビューを見る
1946年(昭和21年)?
民芸運動の提唱者・柳宗悦による、若年者のための民芸解説書。日本各地の手仕事(染物、陶器、文具、家具、衣服、郷土玩具など民衆の生活に密着したもの)が紹介されている。写真が添えられていないため文章から実物を思い描くのが難しいのが難点だが、芹沢銈介による小間絵がその欠点を補っている。また、柳の持論である「職人の功績」「用の美」「健康の美」等の概念も簡潔に説明されていて興味深い。「モノづくりの国・日本」の原点に回帰させてくれるような書物である。若年者向けということで極めて平易な文章で書かれているので、民芸入門として適していると思われる。
投稿元:
レビューを見る
昭和17年12月~18年1月に書かれた。
柳は手仕事の現状を示し、将来に向かっていかに発展させるか、という課題をもって書いた書物であるにもかかわらず、戦争、戦後の混乱、さらに近年の高度成長に伴う社会の変貌はまた別の意義をこの書物に荷わせた(解説より)。
各県の手仕事が示される。
真っ先に三重県をチェックして、お、四日市!と見てみたら、
「四日市は有名な『万古焼』の土地ですが、この焼物には不幸にも見るべき品がほとんどなくなってしまいましたから、通り過ぎることと致しましょう。今も沢山作りはしますが、いやらしいものが余りにも多いのであります。」
ですと。
いきなりのけぞってしまった。
素晴らしいものは心から賞賛し、良くないものには手厳しい。
それは確かな審美眼ゆえ。
伝統に培われた美しい手仕事が人間にとってどれだけ大事なものであるかを伝える。
「機械は世界のものを共通にしてしまう傾きがあります。それに残念なことに、機械はとかく利得のために用いられるので、出来る品物が粗末になりがちであります。それに人間が機械に使われてしまうためか、働く人からとかく悦びを奪ってしまいます。こういうことが禍いして、機械製品には良いものが少なくなってきました。」
柳さんがiPhoneを見たら何て言うかな。使ってたかな。
まぁiPhoneはモノを生み出す機械ではないからちょっと違うか。
投稿元:
レビューを見る
民藝が失われることはそれを使っていた生活(伝統)と、社会関係、それを生み出し使ってきた美意識、そして風土への感性を失うことだ。僕たちの課題は、民藝を芸術として鑑賞するのではなく、民藝を生み出した生活を学ぶことだ。そして新たな民藝を創り出すことであり、今ある民藝を支えることである。
投稿元:
レビューを見る
民芸運動を提唱した柳宗悦による戦前の日本各地で作られていた工芸や道具などを紹介した文集。民芸運動は日常的な暮らしの中で使われてきた無名の工人による民衆的工芸品の中に,真の美を見出し広く紹介した活動である。皆さんの出身地にはどんな手仕事があるのか,またここ栃木県は民芸運動と深い関わりをもつ益子焼があり,身の回りの手仕事に関心をもつ機会になればと思う。
*推薦者(教教)S.M.
*所蔵情報
http://opac.lib.utsunomiya-u.ac.jp/webopac/catdbl.do?pkey=BB00095350&initFlg=_RESULT_SET_NOTBIB
投稿元:
レビューを見る
今、行きたい場所のベスト3に入っているのが駒場にある日本民藝館。
その初代館長であった柳宗悦さんは、民藝運動の父として知られる方ですが、その柳さんがどんな活動をされていたのか、「民藝」とは何なのかを知りたいと思い、手にしたのがこの本、「手仕事の日本」です。
続きはこちら⇒http://wanowa.jugem.jp/?eid=116#sequel