- 販売開始日: 2013/01/18
- 出版社: 小学館
- ISBN:978-4-09-408645-4
事の次第
著者 佐藤正午 (著)
7つの物語が精妙巧緻にリンクする連作短編今年四十歳になるタクシーの運転手、武上英夫は妻に言えない秘密を三つ持っていた。五年前、放火事件が起こった冬の夜にタクシーに乗せた女...
事の次第
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商品説明
7つの物語が精妙巧緻にリンクする連作短編
今年四十歳になるタクシーの運転手、武上英夫は妻に言えない秘密を三つ持っていた。五年前、放火事件が起こった冬の夜にタクシーに乗せた女との経緯もその一つだった。彼に内緒で定額貯金を積み立てている妻にもまた、結婚前に付き合っていた危険な男との過去があり、五年前の冬の夜に武上英夫のタクシーに乗った女には、妻子ある山田宗雄との短い恋があった。山田宗雄が働く新聞社で記者を務める七種歩は妻のまゆみの浮気に気づき、まゆみとは高校時代の同級生だった有坂弓子は三十五歳になっても結婚できないのは妹のせいだと密かに思っていた。有坂弓子と交際中の竹中昭彦には事故で失った双子の弟がいたが、それを彼女に打ち明けていなかった。
そして街の裏社会に生きる“少年”倉田健次郎は雨の夜、武上英夫のタクシーに乗り込み――。ひとつの街を舞台に炙り出されていく、夫婦の関係、恋人の関係、不倫の関係、一晩かぎりの関係、過去の関係……。それぞれの事情を抱えた男と女が、それぞれの人生の境界線に直面したときに生まれる“事の次第”を巧みに描き出し、交錯し連鎖していく至極の小説集。表題作のほか「寝るかもしれない」「姉の悲しみ」「七分間」など、全七篇所収。
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この世界の境界線を越えないと、終わりなき日常にピリオドを打てないのか
2011/12/03 21:47
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
7つの連作短編が織りなす、複数の男女の静かに歪んだ日常の物語。
1997年に『バニシングポイント』の表題で単行本化されたものを、初出時のタイトルに戻して再刊行されたとの由。
文章の技巧派である佐藤正午の筆が紡ぎだす世界にとにかくどっぷり浸りたくて手にしました。ですから連作短編であることも知らず、それぞれの作品の間のつながりも見えぬまま頁を繰ったのです。
主人公たちは互いに見ず知らずの仲で登場し、そのまま深く切り結ぶこともないまま物語の中を歩んでいきます。彼らは時たま思わぬ接点を得るのですが、それは「袖触れ合う」程度の淡い関係です。
今年2011年に出版された佐藤正午の新作小説『ダンスホール (テーマ競作小説「死様」)』の端緒がそこにあるように思われます。その書評で私は「『六次の隔たり(Six Degrees of Separation)』が人に生きる力を与える物語」と書きました。
ただし『事の次第』のほうはむしろ、やはり六次の隔たりの仲にある男女が、どこか生きる気力を失っているようにも思えます。
「別に一刻も早く死にたいと思っているわけではないし、妻や子供たちを大切に思わないわけでもないのだが、彼は心のどこかに、この世にたいした未練があるわけではなく、自分はいつ死んでもかまわないのだという覚悟を眠らせているのかもしれない」(「寝るかもしれない」39頁)
「どうせ死ぬのなら一息に確実に死にたいもの、今日か明日というわけでもないんだけど、いつ死んでもいいと覚悟を決めているから、そのときが来ても迷わないように、毎日散歩がてら歩き回って適当な建物を探してるの」(「そのとき」75頁)
このように彼らは生の気力をたぎらせる場を日常の中に見出せずにいるのです。
しかし思えば、日々そうした気持ちをみなぎらせながら生きる人はそれほど多くはありません。人々はケの日を普段生き、運がよければハレの日をたまに迎える幸運にも恵まれる。うるさくもなく、また終わりのない日常を人々は倦むこともなく生きる毎日なのです。
そんな人々の姿がつまった7編に、妙に心惹かれる自分がいることに気づかされます。
巧みに交錯する人とストーリー。佐藤正午の「事の次第」。
2011/12/15 13:42
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る
「バニシングポイント」(97年単行本、2000年文庫で発売)を改題
し、新装版として小学館文庫から刊行されたもの。正午ファンなのにな
ぜか読んでなかったので早速手に取った。
これは7つの物語からなる連作小説だ。最初の話の冒頭は「今年四十
歳になるタクシー運転手、武上英夫は秘密を三つ持っている」というフ
レーズで始まり、7編目のラストは「今年四十一歳になるタクシー運転
手である武上英夫は、気をまぎらわせるために繰り返しそんなことを考
えていた」で終わる。この武上というドライバーは何編かに登場する。
「連作小説」というのは各々が全く無関係な話ではない、ということだ
が、この「事の次第」における登場人物の重なり具合はかなり微妙で、
話が巧みに交錯している。その交錯加減(?)が尋常ではなく、さすが
佐藤正午なのだ。語られるのは夫婦や恋人、不倫関係など男と女の物語。
今いる場所ではないどこかに、ちょっとしたことで踏み越しそうになっ
てしまう彼らのことを佐藤はいつものクールな文体で描いていく。でき
ればこれ、通勤電車で少しずつというような読み方ではなく、休日に一
気読みした方がいい。話が分断されると大切なことを読み落としてしま
う可能性がありそうだ。特にいいのは最後の2編。作者の描写力が冴え
渡り、非常に濃密な時間がこの中にある。読書の幸せを感じさせてくれ
る一冊だ。