法廷は真実をもって人を裁くことができるものなのか?
2012/11/10 23:27
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投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
州上訴裁判所主席判事・サビッチは野心家で、次の選挙で法曹のトップ・州最高裁判事が当確視されている。だが、還暦をこえてまたまた女に夢中になる。調査官・アンナとの職場不倫だ。寝ての覚めても彼女のことが頭から離れられない。離婚も考える。奥さんが躁鬱の薬漬け、その心の病の半分は自分の責任なのだ。馬鹿な男だ、けしからん男だ、妻バーバラの変死は薬の誤用ではなく、彼による毒殺かもしれないと、読者だってそう思います。
検事局の実質トップにある検事・トミー・モルトは過去の苦い思いを持って、サビッチを殺人者として立証しようとする。晩婚のモルトは若い妻が二番目を妊娠したことで人生最高の喜びを感じているところだ。かつて仕事師と言われた男が挫折を経験し、いま家庭の中に幸福を見出している。なかなかに渋いいい味を出している。主人公サビッチよりはるかに好感を持てる人物だ。
判事ベンジル・イは特例としてこの裁判の判事に指名された東洋系移民。完璧な英語の文章はかけるが、話し言葉は不自由しており、裁判官としての挙措動作に頼りなさを感じさせる。そのオトボケに振りまわされるのだが、彼一流の正義の判断は関係者を動かすに力強い。
ここに、癌に罹病して治療中の老弁護士サンディ・スターンが体を引きずりながら加わる。
だれもがその実力を認める凄腕だ。
完璧なリーガルサスペンスであった。
被告人、弁護士、検事、判事。遺恨、怨念、恩義、ポストへの野心などなど個人的しがらみに左右されるところはあるのだが、いずれもが法曹界きってのプロフェッショナルである。ヒーローが登場し、それが飛びぬけた才気を発揮して見えない真実を明らかにする。そういう颯爽活躍ものではないのだ。わたしにはあまりなじみのない世界であり、しかもアメリカの裁判事情ときたら、たとえば司法取引、陪審員操縦、裁判官の心証形成などの法廷戦術は実感し難い。だからかれらの職人的な丁々発止のつばぜり合いについては、ほんとの見所はとらえていないのかもしれない。裁判というものが、証拠主義の貫徹とか疑わしきは罰せずという根本思想など、われわれ一般人が期待するキレイごとだけで治まるものではないと思っている。法規範や法精神の遵守とはちょっと異質の色合いがある。どうやらプロ同士の黙契、慣習・掟・仁義といった暗黙の仕組みが厳然としていて、相互には敵対関係にあったところで、しっかりとこの枠内でしのぎを削っているのだ。それが法廷なのだ。
たとえば、サビッチの空白の一日はなんであったか。「事実」を積み上げる弁護士、検事、判事であるが、ではそれによって人間関係に潜んでいる「真実」を証明しつくせるのか?という究極の問題提起がここにはある。著者は現役の検事補だと聞く。その道のプロが書いたハイレベルの小説なのだ。法廷の場で説明困難な「真実」と向き合おうとする彼らが「事実」をどのように扱うかを生々しく描いている。裁判を左右するのは証拠であり、証明できないことを主張することは許されないといっても、実はこれが容易なことではないことが語られる。
彼らは裁判という場においてプロの実力を遺憾なく発揮した。そしてサビッチにまつわる「事実」を彼ら全員が納得する形で整理したのだ。そして判決を出したのだ。だがそれはサビッチの「真実」を明らかにしたものではない。真実に基づいた決着にはなっていないのだ。
そして真実を隠し、その罪業におののきながら生きていかねばならない男と女が残された。
深い余韻の文芸作品。これがスコット・トゥローのリーガルサスペンスなのだと思う。
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『推定無罪』は映像でしか観てないので、文章としてのトゥローは初体験。
前半は事件が起きるまでのそれぞれの関係と思惑を描き、後半はサビッチを被告とする法廷シーンで、検察側と弁護側の攻防と駆け引きが繰り広げられる。こってりコクのある文体で、リーガル・サスペンスではあるけれども、文学作品としての印象が強い。
作中での人間ドラマはソープオペラっぽいけど、洗練された複雑さが、ありきたりの愛憎劇を掘り下げて映し出している。だが誰一人として共感できない。全員、どこか一部が破綻しており、個々の動機については理解する気にさえなれなかった。長い物語を読むに値する作品だけれども、どこかで引いて読んでしまった分、世間ほどは傑作だと実感できず。
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法廷小説。
前半は事件に至るまでの話なのでやや冗長。
法廷に入ってからの丁々発止なところは面白かった。
そもそも前作を読んでいなかったことに途中で気づきました。。。
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「推定無罪」からもう二十年以上たつのか…。なんだかしみじみこの間を振り返ったりして。
主人公や周囲の人の「人間性(自分でもダメだとわかっていることになぜだがひき込まれていくという意味合いでの)」に共感できるかどうかがポイントじゃないだろうか。私はもうひとつ気持ちがのらなかった。語り口はうまいなあと思うが。
「推定無罪」の「真相」をすっかり忘れていて、作中でほのめかされるたびにモヤモヤする。再読してからの方がより楽しめるのだろうけど、文庫二冊分の長さだものねえ。
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原題そのまま、Innocent.
あの「推定無罪」の続編。
前作同様、また主人公が不倫してしまいます・・・・。
そして彼の奥さんが死亡するところから、物語は始まります。
主人公、彼の息子、そしてあのトミー・モルトの視点から話は進んで行きますが、後書きでも書かれているように、本書の影の主役はかつての宿敵トミー・モルト。
前作で受けた影響を背負って生きていく、そしてまた宿敵と対決するという構図・それにどちらかというと彼への優しさが溢れた書き方に、私は肩入れして(そして結果を予想しつつも)読み進めました。
「推定無罪」同様、愛の描写がことごとくいやらしく、かつ文学的にしっかりと表現されているので、この作者の力量はたいしたものです。
話としては、大絶賛の内容ではないですが連作を締めくくるにふさわしい余韻がある作品なので、Sトゥローファンならば読んで損は無い一冊。
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20年くらい前に発表され、ハリソン・フォード主演で映画化もされたベストセラー「推定無罪」の20年後を描いたという話題作です。主人公が初老になってます。
前半が事件に至るまでのできごと、後半は主人公が妻に対する殺人罪で起訴されてからの裁判劇という構成。主人公は有罪になるのか無罪になるのか、そして彼は妻を殺したのか殺してないのか、最後の最後までわからないという非常におもしろい作品です。
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なんか期待が高すぎて、思ったより夢中にならなかったな、という印象。
最後の数ページで真相が明かされる、という形式は変わらず。
トミーがいい人で、アンナはくそ。ラスティ?論外。サンディかっこいい。アホみたいな感想だな。
不倫は「なに一ついいことなんかない」。自分のことしか見えていない、異常な状態だ。不倫とか浮気はなぁ、「私は視野狭窄な馬鹿です、自己中です」って言ってるようにしか聞こえないんだよな。「とんでもないことをしてしまう」ことが人間にはあるって、わかってはいても。
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面白かった。
前作の「推定無罪」を読んだのは、うーんと……15年くらいまえ?
あのときは途中で犯人がわかってしまった。
でも、今回はハズレ。
だからというわけではないけれど、公判中に何度も形勢がひっくり返る展開にドキドキ。
最後まで楽しめた。
で、わたしはトミーが好き。
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海外のミステリーを読みこなす時間的余裕がなくなったのだなと実感・・・。時間軸が前後する前半で挫折です。
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「推定無罪」の続編というか、その十数年後を描いている。
主人公のサビッチは判事になり最高裁判所の判事に立候補しようとしていた。しかし彼はまた不倫をしており、保釈中の犯罪者に判決を仄めかし逃亡させてしまう。そんな中で彼の妻が亡くなるがサビッチは発見してから1日後に息子に連絡する。その空白の時間は何を意味するのか?
前作と同様に前半部は退屈。裁判が始まってからのスピーディな展開は非常に面白い。オチ的には何と無く予想通り。女の執念深さを感じさせる。物語は色々な人の視点から描かれているが時系列が整っているため、さほど違和感は感じない。この視点にサンディも加えて欲しかった。
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私の評価基準
☆☆☆☆☆ 最高 すごくおもしろい ぜひおすすめ 保存版
☆☆☆☆ すごくおもしろい おすすめ 再読するかも
☆☆☆ おもしろい 気が向いたらどうぞ
☆☆ 普通 時間があれば
☆ つまらない もしくは趣味が合わない
2013.5.18読了
すべてにおいて、年の経ることを思わせる小説である。
一級の法廷サスペンスではあるが、法廷でのやり取りよりも、人の心の有り様が良く書かれている。
サスペンス部分はそれ程でも無いが、人の捉え方も文書も円熟を感じさせる小説で、とても素晴らしい。
ただし、これが続編となる前作より、面白くは無いので、星一つ減らして、評価した。
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面白くなるまでが長い。
裁判に至るまでをもうちょっとコンパクトにして、
裁判シーンを長くした方が面白くなるんじゃないかと思うのは、
私だけだろうか。
事件前の出来事と事件後の捜査を並列的に描くことは、
効果的だった。
前作「推定無罪」よりは楽しめた。
しかし、同じ過ち、同じ動機、同じ…、という感じでがっかり。
それと、この作者の女性の扱い方というか、描写というかが、
好きじゃないんだよね。
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この本を読むために前作『推定無罪』を読んでおいて大正解であった。
それぞれの人物像が鮮明なまま、物語にすんなりと入ることができた。
前作では宿敵、なんともうだつの上がらなかったモルツが本作では陰の主役。
あれから20数年、それぞれが色々抱え、成熟もし、とはいえどうにも変わらないところもある。
前作同様、人間とは、何かのきっかけでとんでもないことをしでかしてしまうんだ…という物語。しかし、それこそが人間なのだという著者の温かい目が感じられる。人を、家族を、愛することがどういうことなのかも。
これまた前作と同じく、思いがけない結末が用意されているが、前作ほどミステリ色は濃くない。
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395-29
推定無罪は映画で鑑賞済み。推定無罪から二十年後に同じ過ちを犯したあげく、また殺人疑惑をかけられるラスティ。この人学習能力ないのだろうか(笑)推定無罪のキャスティング通りラスティはハリソン・フォード、サンディは今は亡きラウル・ジュリアに脳内変換(笑)
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2014/3 皆さんが書いているように前半の退屈さと後半の面白さを十分堪能しました。
でも外国人の名前はわかりにくい。こんがらかってしまいます。でも登場人物を日本人にしてしまうとこの法廷小説は成り立たなくなるので、やっぱり外国文学ですね。