連城三紀彦のデビュー作を含むヴァラエティー豊かな短編集
2020/06/10 21:01
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投稿者:honto好き - この投稿者のレビュー一覧を見る
表題作は、クローズドサクークルにおけるフーダニットを噺家にまつわる芸人小説として叙情的に描きながら、現役刑事と退職した後輩との書簡のやり取りによりミステリとしての仕掛けも楽しめる濃厚な著者のデビュー作。前作「戻り川心中」は花を基調としたシリーズ物であったが、本作は各編趣向が違ってヴァラエティー豊かな短編集。
これぞ連城ミステリ 『変調二人羽織』
2010/03/11 13:51
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の初版は今年の1月だけれど、作品が世に送り出されたのは1984年(講談社文庫刊)のこと。だから今回の光文社文庫刊は「復刊」ということになるのかな。(出版業界について知識がないのでよくわかりません。)
連城作品は心が「ざわざわ」する。
なぜ「ざわざわ」するのかというと――心理描写が巧いからだ。伏線が至るところに張り巡らされているからだ。現状把握ができないからだ。読者は読み進めても読み進めても自分が置かれている状況――作品内での読者の立ち位置―――が把握できず、不安になってしまう。
今、何が起こっているの?
物語はどこへ進もうとしているの?
だから心が「ざわざわ」するのだ。
わたしはこういう不安定な状況が苦手だ。好きな言葉は「安定」。実生活でもトラブルに見舞われたときはまず現状把握を行う。自分の立ち位置を明確にしてからでないと動き出せない。
そんなわたしの安定志向を連城作品はことごこく打ち砕いてしまう。足場を失ったわたしは不安になる。それでも読み進めてしまうのは、読み進めることで現状把握ができると思っているからか、それともただ単に先が気になるだけか。
読みやすい文章ではないとは思う。テンポは悪くないのだけれど、80年代前半に出版された作品が故の「古臭さ」が作品全体を包んでいる。だけど…なぜかたまに読みたくなるのだよなぁ。それがわたしにとっての連城作品なのだ。
『変調二人羽織』収録作品
・変調二人羽織
・ある東京の扉
・六花の印
・メビウスの環
・依子の日記
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バラエティに富んだ短編集でした。
軽快でオチの利いた作品から、非常に巧妙で恐ろしく思った作品もあり、大変楽しかったです。
推理物というよりは意外性を追求した作品集のように思います。
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極上の短編5作品。
一番好きなのは「六花の印」
明治と現代の物語を交互に紡ぎ、最後に明らかとなる真相は目が覚めるほどの。それに至る伏線も細かい。
男と女の肉体の交わりにもこの様なものがあるのかと新たな思考に気付かされる。すげえ!
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著者連城氏の処女作『変調二人羽織』を含む5編の短編集。
三津田信三氏が著作『忌館』の中で登場人物(雑誌編集者)に述べさせていた連城氏に対する評価があるが、「変調二人羽織」の書き出しにそれが凝縮されていると思う。
誤って薄墨でも滴り落ちたかのようにゆっくり夜へと滲み始めた空を、その鶴は、寒風に揺れる一片の雪にも似て、白く、柔らかく、然しあくまで潔癖なひと筋の直線をひきながら、やがて何処へともなく飛び去ったのだと言う
なんと美しく流麗に日本語を駆使する作家さんなのだろうか、そして本格の名に恥じないプロット、伏線の回収、読後感。短編に関していえば、淡坂妻夫氏と連城氏が個人的東西横綱である
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「変調二人羽織」と「依子の日記」がよかった。
つまらぬ男のエゴに翻弄される「依子」が崩壊していく様がなんとも悲哀的。どんでん返しの嵐のため、終着点が読めないのが面白い。
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一筋縄ではいかない捻りに捻った短編集です。実質処女作なので粗さや若干の読み難さがありますが、なかなかの佳作揃いだと思います。
【メビウスの環】【依子の日記】がトリッキーでお気に入りです。
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変調二人羽織
ある東京の扉
六花の印
メビウスの環
依子の日記
依子の日記 が心に残りました。
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冒頭の鶴の出現は、事件への布石として見え見えだが、抒情的な演出として考えれば悪くもない。
二人羽織のトリックが見せ場。キーワードは一人二役。
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噺家 伊呂八亭破鶴、落語の公演中に衆人環視の中、刺殺される。
表題作は探偵小説的な不可能状況あり
仮説の検証あり
探偵役の気づきあり
魅力的な推理と意外な真相ありと色々つまってて、連城さんこういうのも書くんだ。惚れ惚れ。
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連城マジック炸裂。ミステリ色全開です。どれも本当に素晴らしかった。
変調二人羽織
ある東京の扉
六花の印
メビウスの環
依子の日記
表題作は甘美な文章が癖になります。捻りまくった展開に翻弄されます。
ある東京の扉は変則的な一編。ユーモアが効いてます。
お気に入りは六花の印。これ超連城。力業決まってます。
メビウスの環は「美女」に収録されてそうな、連城得意の男女と芝居。
依子の日記もやられました。気持ち良く騙されました。
初期からこんなどえらい作品がゴロゴロしてるとは…天才だ
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1.変調二人羽織
最後の独演会の高座で死んだ、
落ちぶれた落語家。
自殺か、他殺か。
他殺なら、犯人は
不可能な犯罪を犯した事になる。
著者の魅力溢れるの美しい文体。
探偵役の刑事の視点で描かれる部分は
ユーモラスで雰囲気のある作品との
融合が面白い。
だが、ミステリとしての満足度は
高くなかった。
2.ある東京の扉
浮浪者のような薄汚い男が、
ミステリ雑誌の編集部へ
アイデアを持ち込む。
このプロットが面白ければ
即金で買ってくれと。
男の語る物語は
どんな結末を迎えるのか。
本格ミステリ風なやりとりを
つまらなく感じていたが、
この物語の本質はそこではなかった。
やられた。素晴らしい一作。
3.六花の印
明治。俥夫の弥吉は駅で奥様を迎え、
雪の夜を車を引いて走った。
現代、大手企業の令嬢夫婦に
雇われる沼田は、
空港へ主人を迎えに行った。
違う時代を生きる2人の男は、
共に良家に使える運転手。
車に乗せた主人が自らの命を絶とうと
考えているらしい点も共通していた。
この、時を超えた2つの物語が
どうリンクするのか、
読ませる物語だった。
そして、その真相はまた見事。
4.メビウスの環
「ねえ、きのうの晩、あなた、
わたしを殺そうとしなかった?」。
夫に絞め殺されかけたと訴える妻と、
身に覚えのない夫。
狭い部屋の中で繰り返される殺人未遂。
一体何が起こっているのか。
面白い設定で、不思議なラスト。
余韻が残る作品。
5.依子の日記
戦後、長野の田舎で
隠遁生活を始めた作家とその妻。
静かな生活の中に突如闖入して来た
編集者を名乗る女。
作家の妻が書き綴る日記の形で
物語は語られ、
妻はその女を殺害すると書いていた。
刺激的な始まり方をして、
すぐに没頭した。
何故女は殺される事になったのか、
物語はどんな結末を迎えるのか。
もちろん驚かされた。
全5編の短編集。
どれも連城三紀彦らしい情景豊かな物語。
美しい文体と、予測できないラストが
全てに用意されている。
連城さんマジパねぇ。
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初期の本格ミステリを5編収録した短編集。
どの作品も論理と叙情を両立させたクオリティの高い短編です。
物語の着地点を予想させない、読み手の意表をつくテクニックが群を抜いていて、犯人当てを楽しむよりもただただ作者の描く豊饒な物語を堪能するばかりでした。
心に残ったのは表題作「変調二人羽織」と「六花の印」の2作。
まずは「変調二人羽織」。
東京の夜空に珍しく一羽の鶴が舞った夜、一人の落語家・伊呂八亭破鶴が殺された。
舞台となった密室にいたのはいずれも破鶴に恨みを抱く関係者ばかり。捜査で続々と発覚する新事実。そして、衝撃の真相は―。
出だしから絵画を観るような、格調高い文学的な香りのする文章に引き込まれます。
何気ない描写にも全てに必然性があり、魅力的な謎と人間ドラマが有機的に結びついているのが素晴らしい。
「六花の印」。
明治時代と現代を交互に描いた物語。
夫に呼び戻される名家の妻を駅に出迎えた人力車の車夫と、アメリカから帰国した男を出迎えたお抱え運転手。
車夫と運転手は、彼女と彼が拳銃を隠し持っていることに気づき…。
過去と現在を行き来する流れに最初は戸惑いますが、行き来するたびに次第に増幅される緊張感がスリル満点。
最後には二つの話が合流するのだろうと予想はつきますが、やはり予想の上をいく鮮やかな真相に感服。
夫人が一瞬見せた緋色の布に包まれた拳銃や雪の中をポツポツと舞う提灯行列の光など、幻想的なまでに美しい情景が印象的でした。
巧みなトリックに騙されながらめくるめく美文を味わえるという、なんとも贅沢な時間を過ごすことができました。
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初期の短編集。記憶をたどると未読だということがわかり、意外と新鮮な気持ちで読めた。連城ミステリの特徴は、特殊な作品構成と、読者の想像もつかない結末の意外性にある。そこに情緒豊かな描写が加わり、艶と鋭さが調合された唯一無二の作品に昇華する。
あとがきに作者は自身のミステリ事始めについて、「ミステリはどれを読んでも犯人がすぐにわかってしまうので退屈だ」と語って死んだ父の一言で、「それなら父が読んでも犯人のわからぬ推理小説を書いてみよう」と書いている。その思いが反映された初期の作品はどれもこれも個性的。トリッキーでバカミスと紙一重のトリックもあるが、卓越した文章力に酔わされて、ほろ酔い気分のまま面白く読了してしまうのが憎いのよね。
圧巻は『六花の印』。後の「花葬シリーズ」にも繋がる仄暗い色香と殺意に縁どられた第一級の本格ミステリで、因縁を紡ぐ皮肉なラストまで素晴らしい。
初期の作品での未読が結構ありそうなので、翻訳ミステリに胸焼けした時にでも読もうかな。
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初連城作品。表題作は展開が二転三転するトリッキーな作品で、デビュー作からこんな精緻な作風なのかと驚いたが、プロット自体は捻り過ぎな印象も。しかしながら、古さを感じさせない叙情的・情景的な独特の文体には惹かれる。その個性が色濃い「六花の印」では二つの異なる時代の別の出来事が交錯し、全く想像し得ない結末に辿り着く。トリックは突拍子もないが、とても五十頁以下の短編とは思えない濃密さ。コメディチックな「ある東京の扉」や情念的な愛憎劇「依子の日記」など、振り幅の大きさも魅力的。次回は中期〜後期作品を読んでみたいな。