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単独飛行
著者 ロアルド・ダール (著) , 永井淳 (訳)
石油会社入社後、赴任先のアフリカで体験した楽しくもスリリングな数々のエピソード。その後、第二次世界大戦が始まり、英国空軍飛行士として中東やギリシャを転戦しながらの冒険の日...
単独飛行
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単独飛行 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
商品説明
石油会社入社後、赴任先のアフリカで体験した楽しくもスリリングな数々のエピソード。その後、第二次世界大戦が始まり、英国空軍飛行士として中東やギリシャを転戦しながらの冒険の日々。そして戦地から手紙に託した母への想い……短篇の名手が波瀾万丈の青春時代を綴る『少年』の続篇の自伝
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紙の本
飛行機乗りの見た第二次世界大戦
2002/03/01 00:30
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キイスミアキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
少年時代の日々を書いた自伝『少年』に続く、アフリカにシェル社員として赴任し、戦争が始まってから戦闘機のパイロットとして各地を転戦し、怪我によって帰国を余儀なくされるまでの三年間を描いた、ロアルド・ダールの自伝小説。
『少年』が幻想的といっていいような、様々な葛藤を抱えつつもとびきりの幸せな時間だったとすれば、『単独飛行』はまさしく一人の人間が、戦時という悲惨な状況にあっても、なんとか楽しみを探しながら生きていく姿を描いた、一つの貴重な戦争の報告である。
同じ英国人のチャーチルが、二次大戦をまとめた記録で、ノーベル文学賞を受賞しているが、西の端に位置するこの国の人間は、戦争の渦中にあり、過酷な運命を強いられていたというのに、どこか自分を含めた世界のことを客観的に見る、面白い感性を持ち合わせているのかもしれない。中東を転戦するダールの記憶も、不思議な感性の持ち主である彼の魅力を伝えるとともに、こちら側に強烈に訴える光景を逃さずに記録している。どうやってそんなことを見ていたのか、と驚かされるエピソードばかりで、ダールという人の感性に心底惚れ込んでしまった。
特に素晴らしいのが、ドイツから亡命し、パレスチナで暮しているドイツ語なまりのユダヤ人男性と、彼が守っている大勢の孤児たちのエピソードだ。このユダヤは、自分の抱える問題がキリストの時代から続くものだと言うのだが、当時のダールにはまったく理解ができない。そしてダールは、この男性に好意を感じたり、怒りを感じたりするのだが、その気持ちがとても正直で、この出会いから40年以上も経っているというのに、自分の無知を言い訳することがまったくない。
ダールに驚かされるのは、すべてを自分の意志によって行っていること。戦中に移動を命じれたが、自分の車を持っていたので、戦闘機に別の人間を乗せるように司令部に懇願し、それが受け入れられると砂漠を一人でドライブして楽しんでしまっている。悲惨な任務を受けてしまうこともあるが、本のどこを見ても愚痴っぽいことなどは書かれていないので、すべては自分が信じる道を進んでいるだけだ、というわかりやすさが伝わってくる。
『少年』の時代から、ダールという個人からは、非常に強い《自分》を持っている、個人主義的な傾向が見られる。戦時に、しかも戦闘機に乗って空にいるときにまで、自分というものを歪めることなく、真っ直ぐに保っていた彼の感性は、本当に素晴らしい。
この感性の持ち主が書いたのだからと納得することで、『チョコレート工場の秘密』のような不思議な物語に対する不思議が、少しだけ解消されたような気がする。
あとがきは、宮崎駿。『あなたに似た人』や『チョコレート工場の秘密』を読んだことがあり、『単独飛行』にインスパイアされて『紅の豚』のワンシーンを作成したらしい。『紅の豚』とダールの飛行機がでてくる話には、どこか似たような印象を受けていたが、子どもに興味を持っているという点を含めて、クリエイティブな性質に似通った領域があるのかもしれない。
傑作中の傑作です。