- 販売開始日: 2013/05/03
- 販売終了日:2024/09/25
- 出版社: 新潮社
- ISBN:978-4-10-111751-5
死顔
著者 吉村昭 (著)
生と死を見つめつづけた作家が、兄の死を題材にその死生観を凝縮させた遺作。それは自身の死の直前まで推敲が重ねられていた──「死顔」。明治時代の条約改正問題とロシア船の遭難事...
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商品説明
生と死を見つめつづけた作家が、兄の死を題材にその死生観を凝縮させた遺作。それは自身の死の直前まで推敲が重ねられていた──「死顔」。明治時代の条約改正問題とロシア船の遭難事件を描きながら、原稿のまま残された未定稿──「クレイスロック号遭難」。さらに珠玉の三編を合わせて収録した遺作短編集。著者の闘病と最後の刻を夫人・津村節子がつづった「遺作について」を併録。
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悲しみの刻
2011/09/26 08:13
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2006年に亡くなった吉村昭さんの遺作短編集です。
最後の遺作となった作品が『死顔』というのも不思議な予感のものを感じますが、この作品は吉村さんの次兄の死を題材にしたもので、同じ題材を扱った『二人』という短編もこの短編集に収められています。
特に『死顔』は癌で入院していた病床で何度も推敲していた作品で、そのあたりの事情と吉村さんの死の直前の様子を綴った夫人で作家の津村節子さんがつづった「遺作について」もこの文庫版に併録されています。
その文章の中で津村さんは「遺作となった「死顔」に添える原稿だけは、書かねばならなかった」と綴っています。その理由はその短文全体で推しはかるしかありませんが、この作品そのものが吉村さんの死とつながっているといった思いが夫人にはあったのでしょう。
それにしても自身の死の予感にふれながら、吉村さんはどんな心境で兄の死と自身の死生観を描いた『死顔』と向き合っていたのか。そのことを思うと、作家というのも残酷な職業だといえます。
吉村さんの死生観と書きましたが、『死顔』の中で吉村さんは死についてこう書いています。
「死は安息の刻であり、それを少しも乱されたくない」と。だから、死顔も見られたくないと。
その死生観そのままに、吉村さんは次兄の死の知らせのあと、「行かなくてもいいのか」と訊ねる妻の言葉に「行っても仕様がない」とすぐさま駆けつけようとしません。
その姿を冷たいというのは簡単ですが、吉村さんにとってその刻は次兄の家族たちのみが持つ「悲しみの刻」であり、いくら弟とはいえ自分が行けばそれが乱れると思ったにちがいありません。
次兄の死を描きながら、そしてそれを推敲しながら、吉村さんは自身の死を思ったことでしょう。そして、妻や子供たちの「悲しみの刻」にも思いを馳せたのではないでしょうか。それでも何度もなんども推敲する。それこそ、吉村昭という作家の強さだと思います。
吉村さんはかつて最愛の弟の死を描いた『冷い夏、熱い夏』という作品を残しています。吉村さんの数多い作品の中でも名作と呼んでいいでしょう。そして、最後の作品が次兄の死を描いた『死顔』。
吉村さんの悲しみを想わざるをえません。
味わい深い晩年の短編集
2019/09/28 12:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ニック - この投稿者のレビュー一覧を見る
味わい深い晩年の短編集。遺作となった表題作では、自らに忍び寄る死を強く意識しながら、次兄と父の死を反芻している。3年前に同じ「新潮」発表された「二人」も収録されているが、ほぼ同じ題材を用いていながら、次兄の葬儀に最後まで参列したか否か、結末が異なっていて興味深い。「グレイスロック号遭難」は長編で読みたい題材だった。
吉村さん、遺作。そして奥様のあとがき
2018/02/14 23:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
やっとここまできた。吉村さんの作品をいつからか読みはじめて大好きになって、ことあるごとに泣かされて、励まされて、感動して、人生教わって、とうとう遺作を読む機会を得られた。まだ全作読んだわけではないが節子さんの紅梅を読んだあたりから準備はできていたのだと思う。生あれば死あり、だからこそ生きることには意味があり、皆が悩むこと。死に方を考えるのも人間ならではであろう。吉村さんは他の人よりずっと死を身近に感じ生きてこられた。死顔もたくさん目にされてきた。そして決心された思い。吉村さんの笑顔は私の瞼に生きています。
頁数の割に重量感のある短篇集
2013/06/23 21:45
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉村昭の遺作『死顔』が収められた短篇集である。本書には5編の短編が収められている。遺作の死顔と『二人』という作品はおそらく同じ材料からとったものであろうと想像される。最後に奥さんの津村節子の後書きに代わる「遺作について」という説明がある。これには7年前の2006年に亡くなった吉村昭の最期が書かれていた。
この死顔は本文には何の説明もないが、「私」のことを書いている。私とは吉村昭のことらしい。吉村は兄弟が多く10人近くの兄弟がいた。昔のことだから、病気や戦争で早くに亡くなった兄弟が多かったようだ。すると、親を始め兄弟の死に直面すること機会が多くなる。
年を経てくると誰もが死に近づき、身近な者の死に接して自分の死について考える機会が増えてくる。吉村の作品にはこれ以外にも死に関する短編ものが多い。暗いことは確かなのだが、死については誰しも避けることのできないことである。この一冊を通して嫌でも死について考えてしまう。
『ひとすじの煙』はやはり「私」が少年期に療養していた温泉町が秘湯めぐりのテレビ番組で取り上げられたことをきっかけに描いた作品である。吉村は少年期に胸を病み、大手術で命拾いをし、その温泉町で半年間療養を続けていた経験がある。その当時の記憶を呼び覚まし、描いた作品である。
他に更生者のその後を保護司という役柄を持った主人公を通じて描くもの、がらりとテーマが跳んでロシアの運送船が難破して、それを救助するストーリーなどである。不平等条約を締結せざるを得なかった状況の中で、当時の外務大臣大隈重信が辞任するという事態に発展した。その中でのロシア船の救難のエピソードであった。この後間もなく条約が改正されたが、わずか半月後に日清戦争が勃発したわけである。
短篇集は全く異なるテーマを集めることにも意味があるが、本編はタイトルである『死顔』がテーマ全体を支配していると言って良い。最近の文庫本としてはきわめて薄手の一編であるが、内容はかなり重いというべきであろう。