- 販売開始日: 2013/04/30
- 出版社: みすず書房
- ISBN:978-4-622-04510-6
ちいさなカフカ
著者 池内紀 (著)
歴史の不条理や官僚制を告発する、きわめて深刻・まじめなカフカ――この定番のカフカ像を手放すと、どんな新しいカフカが立ち現れるか? そのみごとな見本がこの「ちいさなカフカ」...
ちいさなカフカ
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商品説明
歴史の不条理や官僚制を告発する、きわめて深刻・まじめなカフカ――この定番のカフカ像を手放すと、どんな新しいカフカが立ち現れるか? そのみごとな見本がこの「ちいさなカフカ」である。これは数多あるこちたき作家論の類ではない。著者は、散歩のようにゆったりとカフカの周辺を巡りながら、しかし肝心のところは看過せず、その等身大の姿を紹介してゆく。道すがらふと摘みとった作品や伝記の断片から、カフカの〈生のスタイル〉が透けて見えてくる仕組みである。「ほんのちょっとしたこと、ちいさな手がかりからカフカに入ってみた。そのつど考えたり、気づいたり、連想したことを書きとめた。動いていると風景が変わり、目の位置が変化すると別の景色があらわれるように、いろいろなカフカが見えてきた」女性たちに送った夥しい手紙の数奇な運命、大の映画好きであったカフカと『審判』の関係をはじめ、賢治のクラムボンとオドラデク、『ライ麦畑でつかまえて』と『アメリカ』、さらに多羅尾伴内・長谷川四郎・クンデラに通底するカフカなど。われらの隣人カフカを知るための格好の道案内。
著者紹介
池内紀 (著)
- 略歴
- 1940年兵庫県生まれ。東京大学大学院修士課程修了。元東京大学文学部教授。ドイツ文学者。著書に「川の司祭」「カフカの散歩道」など。
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一途なドイツ文学者による「カフカの愛し方」
2001/02/22 12:09
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の池内紀先生は、現在『カフカ全集』(白水社)の翻訳に取り組んでいる。『変身』や『審判』、「掟の門」が所収された『カフカ短編集』ならば、その不思議で不条理な世界にしばし遊んで楽しむことができるけれど、たとえば『城』のような長編だと、いつまでたっても目的地に辿りつけない主人公のKよろしく、私も本を最後まで読み通す気力がなえ、作中人物に殉じて、いつまでたっても完読できないでいる。読むだけでもそんな有り様なのだから、全集の翻訳という仕事は、偉業なのだなあとつくづく思う。
同じ著者によるカフカのエッセイには、『カフカのかなたへ』という本があり、気難しくてとっつきにくい印象のカフカの小説世界を、想像力豊かなメルヘンとして読み解くヒントが、魅力的な文章で書かれていた。この『ちいさなカフカ』では、恋をしたり、散歩や仕事をするカフカの日常生活が描かれ、さらにぐいぐいカフカの世界をこちらにたぐり寄せてくれているという強い印象が残った。
カフカが恋人たちに宛てておびただしい手紙を書いたということ、映画が好きでよく見に行っていたということは、外国の研究者たちの著書にも書かれた生活者としての一面である。
でも、身近なカフカの描写よりも、この本で特に際立っていることは、著者が「ほんのちょっとしたこと、ちいさな手がかりからカフカに入ってみた」と記述しているように、
(1)同世代を生きた宮沢賢治の童話とカフカの小説が視点を動物 に移し、人間以外の生きものへの変身という望みを作家が物語 の中で実現させたという共通点
(2)サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』とカフカの『アメリカ』がともに無垢の少年の魂の遍歴を描いたという比較
(3)ヴィトゲンシュタインとカフカの哲学や性格の類似
などといった独自の視点で観測できるカフカ像ではないかと思う。
カフカを深く読み込み、深く愛し続けた研究者だからこそ見えてくる位相があるのだということがよくわかる。
実は、池内紀訳のカフカは短編集しか読んだことがない。読み通した小説は、それ以外は全部他の翻訳者の手になるものだ。
小さな真珠を丁寧に磨きながら、そっと糸でつないでいくような味わいのエッセイを書く池内紀先生。その訳でぜひ、カフカをまとめて読んでみたいと思った。