紙の本
つゆのひぬま
2007/08/11 18:36
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よくきた - この投稿者のレビュー一覧を見る
そこは深川の南の端で佃町(つくだちょう)と
いい、海とのあいだに広く、芦原や湿地が広がっ
ていた。
「蔦屋」の自分の部屋で、「よくわからないけ
れど」と、やや暫くしておぶんが云った。
「世の中には運のいい人とわるい人があるでし
ょ、運のいい人のことは知らないけれど、運のわ
るいほうなら叺(かます)十杯にも詰めきれない
ほどたくさん知っているわ、そして、男の人がや
ぶれかぶれになるのも、自分の罪じゃなくって、
ほかにどうしようもないからだってことを知って
るわ、だから、そうね、――そんな人に逢うと、
怖いっていうよりも泣きたいような気持になって
しまうわ」
良助はしんと黙った。若者はこの言葉で、やる
つもりだった、押込み強盗を思いとどまった。疲
れ果てた良助の面倒をみる、おぶんの所作がこま
ごまと述べてあり、その気働きが好ましい。
年長で最古参のおひろは、おぶんが客を「すき
になった」と感づく。
おひろは、今はどんなに想いあう仲でも、きれ
いで楽しいのはほんの僅かなあいだ、ちょうど
「露の干ぬまの朝顔」と同じで、ほんのいっとき
の幸せだという。世間に打ちひしがれた船(男)
は、港(娼婦)を頼りにするが、暴風雨がしずま
り、毀(こわ)れたところが直れば出ていってし
まう。そして港のことなど、すぐに忘れてしまう
ものだと諭す。
幼年で母を亡くし、貧乏で苦しんだ挙句、つい
先日も父と兄を同時にうしなったおぶん。
物心ついた時から二十六の今日まで、不運とい
う奴に散々なぶり者にされてきた良助。
信じた男に裏切られ、人間の善性に背をむけ
て、小金をためることに執着するおひろ。
三人の心底を試すかのように、二十年ぶりの高
潮が葦原を越え、佃町を呑みこむ。
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非常に面白かったです。
江戸の市井に住む人間の哀歓がこんなにもうまく書ける作家はもう出ないんじゃないでしょうか。正統派歴史小説です。
筋の一本通ったうつくしい物語たちでした。
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「おしゃべり物語」は痛快。小姓に上がった主人公が、殿様の部屋の隣で仲間にたわいもない議論を吹っかける。最初は立腹した殿様も、主人公の率直で本音の語り口に好感を持つ・・・。
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「つゆのひぬま」とは「露の干ぬ間」である。
深川の小さな娼家に働くおぶん
不幸な過去を持つ良助を客にとる。
年かさの娼婦おひろは、労咳の浪人の夫と子供をかかえている、と
自分の身の上話を作り上げ、金をためるのに励んでいる。
おひろは、客との間に真実の愛は育つはずがない、
といい、またそうなってもならないと決めている。
おひろにいわせれば
「どんなに真実想いあう仲でも、きれいで楽しいのはほんの僅かの間、
露の干ぬまの朝顔、ほんのいっときのこと」
なのだ。
おぶんにそう忠告するのだが、おぶんはそれでも
だんだんと良助を待つようになる。
ラストシーン、大洪水で屋根の上にとり残されたおひろとおぶん。
愛情に不信感をもっていたおひろは、助けにきた良助の真実の愛に
ガツ〜ンと一発くらわされるのだ。
自分のためた全財産をおぶんの懐に押し込み、
おぶんを良助の船にのせ
「・・・・つゆのひぬま・・・・といったのは取消してよ」
と、一人屋根に残る。
おひろはこの先どうなるのかもわからないが
妙にすがすがしいのだ。
私の場合、結婚して28年もたった(もった?)のだから
つゆのひぬまというわけではないかも。。。。。
しかし、人生そのものはあっという間、
つゆのひぬまですね。
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「つゆのひぬま」とは「露の干ぬ間」である。 深川の小さな娼家に働くおぶん不幸な過去を持つ良助を客にとる。 年かさの娼婦おひろは、労咳の浪人の夫と子供をかかえている、と自分の身の上話を作り上げ、金をためるのに励んでいる。 おひろは、客との間に真実の愛は育つはずがない、といい、またそうなってもならないと決めている。 おひろにいわせれば「どんなに真実想いあう仲でも、きれいで楽しいのはほんの僅かの間、露の干ぬまの朝顔、ほんのいっときのこと」なのだ。 おぶんにそう忠告するのだが、おぶんはそれでもだんだんと良助を待つようになる。 ラストシーン、大洪水で屋根の上にとり残されたおひろとおぶん。愛情に不信感をもっていたおひろは、助けにきた良助の真実の愛にガツ〜ンと一発くらわされるのだ。 自分のためた全財産をおぶんの懐に押し込み、おぶんを良助の船にのせ「・・・・つゆのひぬま・・・・といったのは取消してよ」と、一人屋根に残る。 おひろはこの先どうなるのかもわからないが妙にすがすがしいのだ。 私の場合、結婚して28年もたった(もった?)のだからつゆのひぬまというわけではないかも。。。。。しかし、人生そのものはあっという間、つゆのひぬまですね。
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「武家草鞋」
「みんな、金、金、金・・・だ。この世は腐ってる。世間全体が欺瞞と狡猾の組み合わせだ!」と、伝三郎はこの世に絶望し、死を求めて深山に入る。
が、老人と娘に助けられ、一緒に暮らすうちに生きる力を取り戻す。草鞋を作り始めたところ、「丈夫だ」「長持ちする」と大評判になる。しかし、またしても、世間の荒波が伝三郎をおそう・・・!
山本周五郎が昭和20年10月に著した傑作!!
(九州大学 大学院生)
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なるほど「大衆文学」というにふさわしい、受け入れやすい・解りやすい・面白い文学である。山本周五郎デビューであったが、なんとも面白く、一気読みしてしまう。テレビドラマのような、受け入れやすいストーリーと人物描写のなかに、深い人間愛が感じられて、なるほど世間の評価の通り、山本周五郎の中毒性のすっかりハマってしまう作品群である。特に「武家草鞋」は最高にカッコイイ。
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山本周五郎
中学の頃、自己紹介だったかな、好きな本が山本周五郎の「さぶ」だという女子がいてさっそく読んでみたんだ(恋愛感情はなし)。面白かった。教養小説ともいえる内容なのに頁をめくる手が止まらない、それから中学では山本周五郎をかなり読み込み(短編が多い)、今でもたまに読みたくなる。で、今読んでもすごいや。この短編集を読んで思った。途中だけど。
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就職してじっくり小説読む暇もなくなってから、
すっかり周五郎の短編ばっかり読んでます。
古本屋で順番も気にせず適当に買ってきてるんだけどどれ読んでも面白い。
今回読んだ中では「妹の縁談」が良かった。
前に読んだ「おたふく」と同じ話で男性から女性に視点を変えたお話。
冷静と情熱のあいだみたいな。あれは青しか読んでないけど。
好きな話だったから別視点の話が読めたのは嬉しかった。
武家もの、町人ものいろいろ入っててバランス良くまとまってました。
ただ、やっぱ周五郎の現代物はあんまりハマらない。
歴史ものの中で浮いてるからだとは思うんだけど何でかなー。
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戦後から、昭和30年をすぎた頃の作品。この頃の作品はおもしろく、良くできている。「武家草鞋」「凍てのあと」「つゆのひぬま」が良かった。13.5.9
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「武家草鞋」「つゆのひぬま」がよかった。「つゆのひぬま」は、昔吉永小百合と長谷川裕美子、松山政路というキャストでドラマになっていて、それをCSでみて読んでみた。
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武家草鞋
つゆのひぬまが好きでした。ハッと気付きのある物語です。短編で展開がはやいのでどれも読みやすいです。
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昭和二十年初頭から三十年初頭にかけての周五郎の作品集です。
周五郎さんが大きく脱皮するのが二七年頃といわれていますので、それを挟んだ数年になります。幾つかの作品は脱皮前とは言うものの、その中でも優秀な作品が選ばれているのでしょう、全体としての質は高く感じられます。
とはいえ、やはり後ろに行くほど、例えば”水たたき”などの作品は、構成も複雑で、物語としての深みは増すようです。
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亡父の蔵書より。
初山本周五郎。氏の名は作家としてよりもネスカフェのCMでまず耳にした。
かつてはなにがあろうともこの種の作品を手に取るような読み手ではなかったが、機会があれば読むくらいの活字廃にはなったようである。
近頃強いて読むようにしてみた文学作品も、題材そのものには興味がなくとも、文章の美しさやおもしろさで惹かれることもあると知った。本書も、そのように読めた。
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山本周五郎の短篇小説集『つゆのひぬま』を読みました。
ここのところ、山本周五郎の作品が続いています。
-----story-------------
深川の小さな娼家に働く女“おぶん”の、欺かれることを恐れぬ一途なまごころに、年上の“おひろ”の虐げられてきたがゆえの不信の心が打負かされる姿を感動的に描いた人間賛歌「つゆのひぬま」。
そのほか、江戸時代を舞台にした作品7篇に、平安朝に取材し現代への痛烈な批判をこめた「大納言狐」、現代ものの傑作「陽気な客」を加え、山本周五郎のさまざまな魅力を1冊に収めた短篇集。
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1945年(昭和20年)から1956年(昭和31年)に発表された9篇が収録されています… 初めて読む作品ばかりでした。
■武家草履
■おしゃべり物語
■山女魚
■妹の縁談
■大納言狐
■水たたき
■凍てのあと
■つゆのひぬま
■陽気な客
■解説 木村久邇典
山本周五郎の作品にしては、まずまずでしたね… そんな中で、、、
人間的には誠実で一徹だが未熟さもある青年武士の成長が暗示される『武家草履』、
驚嘆すべき口舌の才能に恵まれた少年が、寡黙で政治に無関心な藩公の眼を、その弁説で藩内の政争に向けさせて争いを終結させる『おしゃべり物語』、
愛妻に浮気を薦めるという歪んだ展開から、行方不明になった妻を探すというミステリ的な展開に変化し、亭主の悔恨や妻の魅力的な人柄が印象に残る『水たたき』、
娼家に働く女の一途なまごころに、虐げられた不信の心が打負かされる姿を感動的に描いた『つゆのひぬま』、
の4篇が印象に残りました。