「他人の城」がすごかった。。
2019/06/02 01:39
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投稿者:ニック - この投稿者のレビュー一覧を見る
日常の生活が戦争との距離を日増しに縮め、いつのまにか飲み込まれていく、そんな戦時下の物語5編を描く。目の前の不安な出来事に対して、人々は日常の延長の上で対応を迫られ、やがて惨劇の渦中に投じられていく。登場人物たちの描写は戦時下に多感な時期を過ごした吉村氏ならでは。そして、沖縄を舞台にした「他人の城」は特筆すべき名作であった。令和が始まり、昭和という時代がひとつ過去に追いやられてしまったが、昭和63年10月に書かれた川西政明氏の解説も、作品と「昭和」とを的確にまとめて秀逸だった。
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実際に起こった事件をもとにかかれている小説です。なにがすごいって、吉田先生がこんなとこまで調査しているのがすごい。
中篇が数本収録されています。
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少年たちが投げ出された戦場。南樺太の寒村・奈良の東大寺・瀬戸内海の漁村・本土への疎開を目指す対馬丸・サイパンの砂糖黍の町。
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終戦という転換期を様々な場所で,かたちで,生きた人々の短編集。
全体として,たとえば燃え尽きた都会で玉音放送を聞いて・・・という感じではなく,どちらかというとあまり戦争らしい戦争を経験しないで終戦を迎えて,時代の急激な移り変わりを虚ろな目で見つめる,と言った感じ。
終戦と一言に言っても,色々な終戦があったのだなと思わされました。
「脱出」「焔髪」「鯛の島」「他人の城」「珊瑚礁」の五編が収録されているのですが,私の印象に残ったのは「他人の城」と「珊瑚礁」。もちろん他の作品もとてもよかったですが。
「他人の城」は,沖縄からの学童疎開船「対馬丸」に乗船していた中学生の話。
学童疎開船である対馬丸・亜米利加丸の沈没・・・民間人の多くが犠牲になったそうです。疎開船が沈没なんて,気の毒過ぎます。気の毒の一言じゃ済みませんが,乗っている船が沈没したらもう,為す術がないですね・・・。
対馬丸に乗っていて,沈没して,たくましく漂流して救助されるところまででも十分ドラマチックですが,さらにこの小説の魅力は,本土に残った学友たちが沖縄戦を闘い,散っていたことに対して主人公が負い目を感じていること。
疎開船が沈没するというだけで十分な被害者ですが,やっぱり本人の感情としてはそれだけでは済まされない。そういう葛藤が描いてあるのが良かったです。
そして改めて沖縄戦の悲惨さを思い知りました。日本で唯一決戦の地となり,10万人以上の人々の命が失われた沖縄戦。私の実感として,戦争と言えば沖縄戦,として語られることがあまりないように思うのですが(戦後生まれ,本州在住として),もっと学ばれて然るべきだと思いました。
「珊瑚礁」はサイパン島に住んでいた日本人が,米軍上陸によって山中を逃げ惑い,家族を失いつつ,捕虜になり,戦後を迎える話。
敵を恐れて家族で山中を逃げ惑う。うう。怖い。こんな生活耐えられないよなーとつくづく思いました。
毎日安心して布団で寝られる幸せよ。
昭和の転換点・・・とても興味深い短編集でした。
事実の悲惨さやむごさのようなものが中心に描かれるのではなく,主に少年の心の移り変わりのようなものが中心に描かれていて,そこが良かったです。
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戦時から戦後にかけての、戦争に翻弄された若者たちの物語である。5つの物語は、北は樺太から南はサイパンに至る。吉村昭の淡々とした筆運びが臨場感を増す。民間人しかも若者の戦争による悲劇を描く。まさに日常の延長の戦争であり、何気ない平凡な日常から、ある日突然戦争を意識しだし、悲劇に巻き込まれていく様子が恐ろしい。
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淡々としているからこそ、恐ろしい。
自分だったらどうなるのだろうとつい考える。
気づけば自分も登場人物たちと同じ時間軸に立ってしまっている。
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終戦直前から終戦直後の戦いの中の少年を掌編で纏めた一冊。スタートは樺太の住民の少年がロシア軍の進行で北海道にたどり着き苦労しながら生きていくさま。中でも沖縄からの疎開船対馬丸に乗り、母・弟・妹ともに潜水艦の攻撃で沈没。死の海の中を弟とともに生き延び、戦後沖縄に戻る少年の姿は痛ましい。まず沖縄で戦闘要員として戦っている中学の同級生達に引け目を感じ船に乗り込み、攻撃を受け沈没での人間性(自分だけの気持ち)、疎開先の宮崎での地元住民からの蔑視。沖縄に帰ってからの米軍の好き放題。結構読み応えがあった。
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住民を巻き込んで戦場となった場所もあれば、
「鯛の島」のように取り立てて被害のない場所があったことにはちょっと驚きでした。
島に連れて来られた少年たちはその理不尽さを目の当たりにしたのだと思うと
その行き場のない憤りが伝わってくるようでした。
本書はどの話を読んでも「日本の敗戦」という事実から目を逸らせなくなります。
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「脱出」「焰髪」「鯛の島」「他人の城」「珊瑚礁」を収録。離島で戦争にあった少年たちの戦争体験記、といったようなもの。
しかし、単なる体験記にとどまらないのが、吉村昭の作品の見事なところ。
戦争の影響が比較的少ない場合が多かった離島にありながらも、戦争に段々と巻き込まれていった少年たちの姿が見事に描かれている。
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第二次大戦において民間人の生と死の修羅場を描いた5つの短編。屍体を物としか感じず、他人のことをお構いなく般若となる。取材による事実なのだろう。後世に残すべき小説。2016.1.31
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第二次世界大戦、終戦ごろを舞台にした、民間人の生と死を描いている。
小説だけれど、この5つの短篇に描かれていることは、本当にあったかもしれない。
あるいは、筆者が人から見聞きした、または筆者自ら実際に
見聞きし、肌で感じたことが大いにあるだろう。
特に「玉音放送」の前と後の人々の感情のありようは、戦争を知らない世代にとって、知らないことばかりだった。
個人的には、沖縄が舞台の「他人の城」、サイパンが舞台の「珊瑚礁」が胸に刺さる。
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吉村昭の3冊目。
硬質な文章であると思うのだけれど、自然の描写が美しく……、その美しさ故に、描かれている時代の悲惨が、より際立ってくる・・・。
「鯛の島」
・・・なんともやるせない。敗色濃厚な戦況が国民には隠されていたということ自体は、歴史に疎い自分にも周知の知識ではあったけれど、その隠蔽のためにあんなことが・・・。
「他人の城」
・・・巻末解説文で「神の名によって許されさえする」と描かれた、極限状態での選択……。
生き残った後に心を保てるのかどうか?
・・・自分だったら?・・・
平成日本に生きる我々には、想像すらできないな。
「珊瑚礁」
・・・その“地獄”を生き延びた人達が実在したのだよね。
・・・その彼ら、彼女らが、高度経済成長に浮かれる日本を、どんな気持ちで生きたのだろうか。そして、平成日本をどう見るだろうか。
★4つ、8ポイント。
2016.12.27.古。
※子供の頃、夏になると「火垂の墓」などを授業で見せられた記憶が。金曜ロードショー等でも、夏になるとよく流れていたかと。たしか中学生くらいの頃だったかと…。
中学生に「火垂の墓」も、、、まあいいけど、、、、
本書を、高校生の必読図書指定してもよかろうかと思った。
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はじめの「脱出」を読んで、素晴らしく良いとは感じなかったので表題作がこれくらいでは、他もそんなに大したことないのかも…と思いつつ読み進めると、この本のコンセプトが「脱出」というタイトルに象徴されていることがわかり、様々な人々を描きながら、一本の太い棒のようなものが貫かれていることに感心する。バラバラに読むよりまとめて読んだ方が、作者の言わんとすることがよくわかる。そういう意味で良い短編集である。
戦中戦後に、直接戦闘にはかかわらなかった子どもや僧がたとえ命は失わなかったにしてもどのように心身に傷を負ったかが、情緒を排した文章で描かれる。
特に児童労働と、労働させる人々を描いた「鯛の島」、生き残った人々の海上でのサバイバルがすさまじい、対馬丸を描いた「他人の城」が印象に残った。
感情移入してすらすら読める本ではないが、日本文学として若い人にも読んでほしい作品。こういう作品を読む力が近年著しく失われているのではないかと感じているので。
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太平洋戦争末期の日本を、少年の目を通じて描いた5篇からなる短篇集。舞台となっているのは、樺太、瀬戸内海、沖縄、サイパンなど、辺境の地である。これまで戦争とは縁がなかった地域が突然、最前線となり、日常と戦争との境目が極めて曖昧で紙一重である状況が描かれている。普通の生活を送っていて、突然戦争の影がそこに忍び寄っても誰もがそれを目の前に迫る来る現実的な危機とは捉えることが出来ずにいる様がそこにはあった。そして、自分や家族がどのようにするかという判断のほんの少しの些細な差が、生と死を分ける無情な結果がその先に待っているのである。戦争と日常が背中合わせである中、誰もがそれを現実として受け止められないままいつの間にか戦場のど真ん中に引きずり込まれた様子を通じて、作者は当時の日本中の空気感を描きたかったのかと思う。
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戦争に関する記録文学。
戦争という現代の我々からすると非日常なできごとについて、描き方が上手い。死体などの「死」との対面については、丁寧な描き方がされており、ぐいぐいと引き込まれてしまう。