紙の本
秀吉神話をくつがえす
2008/01/14 23:39
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:leid - この投稿者のレビュー一覧を見る
農民から天下人に上り詰めた英雄伝説の他に、80年90年代から、秀吉による天下統一は権力欲によるものではなく日本に平和を現出させるためだったという考えが通説化しているという。本書では、豊臣平和令というこの考え方に異を唱え、時代毎に変遷した秀吉像を追いながら、英雄伝説ではない、豊臣秀吉の実体を追う。
平和令という考え方自体になじみがなかったが、それでも戦国時代後期には傀儡として軽視されがちな足利幕府や公家といった既成権力や、信長陣営内の微妙な勢力バランス、四国国分における勢力争いなどは非常に興味深い。
紙の本
新書という器を無視した記述法、そしてイデオロギー臭に難点あり。
2007/12/05 15:13
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:越知 - この投稿者のレビュー一覧を見る
新書は専門書ではない。学問の最先端を、しかしシロウトにも分かりやすく伝える啓蒙的な使命を帯びているはずである。このところ新書競争が激化しているせいか、その辺の基本を押さえない本が散見されるようだ。その一例が本書である。
「秀吉神話をくつがえす」というタイトルから何が連想されるだろうか? 『太閤記』や大河テレビドラマでおなじみの秀吉。その一般に流布されたイメージを専門家の立場から正す本ではないか、と思うだろう。しかしその期待はせいぜい半分しか満たされない。なぜかといえば、半ばはこの本が専門的すぎるからであり、半ばは専門家特有の、しかしシロウトには無縁のイデオロギーが濃厚にこめられているからである。
まず、新書には不適切な専門性を帯びている点。秀吉の行状を追っていくのはいいが、細かい同盟関係や戦略にまで立ち至っており、専門家はともかくシロウトには話が微視的すぎる。くわえて史料がしばしば、それも現代語訳もつけないままに引用されており、しかもその原文自体が著者自身「内容的にはいささか判然としない」(101ページ)というような代物なのである。史料の読解には専門的な訓練を要するし、著者自身書いているように、専門家間でも読みの相違があったり、史料の真偽性に問題があったりする。したがって引用された史料を著者が主張するように解するのが正しいのかどうか、専門家でもない読者に分かるはずがない。分かるはずがないことを書き連ねてまともな本になるのか、いったい著者は(そして編集者も)考えてみなかったのだろうか。A5版の専門書として出すならともかく、新書という器には明らかに不釣り合いな内容と言わねばならない。
次に行こう。本書のイデオロギーについてである。本書の「はじめに」では次のように書かれている。
「秀吉ファンならば激怒するかもしれないが、この不世出の英雄の正体こそ、みずからの権力欲のためには手段を選ばず、非情な謀略でライバルたちを次々と蹴落としていった策士であった。(…)権力を手中にしてからも、刃向かう者に対しては信長に劣らぬ残虐行為をおこない、民衆に対しては過酷な圧制をしく独裁者だったのである。/本書では、こうした秀吉の実体をよそに一人歩きしている秀吉像を、『秀吉神話』と呼ぶことにする」。
私はここを読んで首をかしげた。子供向きの本ならばたしかに秀吉の生涯を明るく楽しく非の打ち所のない英雄のように書いているかも知れない。しかし大人の常識で冷静に考えれば、戦国武将として乱世を生き抜き大出世を果たした男が、「権力欲」や「非情」や「残虐行為」や「圧制」と無縁だったはずがない。逆にこういう記述を見ると、歴史家ともあろう者が400年以上も前に生きた人物を現代の道徳律で裁くという、学者としてあるまじき態度をとっていることに驚いてしまうのである。こうした態度がかえって日本史学者の非常識と偏向を印象づけることに、著者は気づかないのであろうか。
急いで付言すれば、以上のような勇み足は「はじめに」と「終章」に濃厚にあらわれているが、本文においては(いささか専門的すぎるけれど)学者としての節度ある記述法がおおむね守られている。また、秀吉の生まれた日付けの確定や、若い頃日吉丸と名乗っていたという一般に流布している説への疑問など、それなりに面白いところはある。しかし、秀吉が平和を生み出したとする別の日本史学者の説を批判しつつ、著者が戦前日本のアジア侵略と秀吉を結びつけるのを見ると、そして明治大正期の日本を「軍国主義」と呼ばねば気が済まない態度を見ると、「五十歩百歩」という諺が脳裏をかすめるのは私だけではあるまい。
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戦国時代の常識とされている秀吉伝説を史料を細かくあたりながら、一つ一つ否定している。大河ドラマや時代小説のフィクションの部分があまりにも歴史的事実のように広まっているために、このような一冊が新鮮なものと感じる。
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第1章は面白かった。
う〜ん・・・やっぱ”陰謀史観”ぽいと思うんだが(笑)
「武功夜話」ってホントの所どうなんでしょうかね・・・?
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秀吉は本能寺の変からわずか一日半後の六月三日夜には確実な情報を入手し、全軍を上方へ向けて進発させた。あらかじめ変のあることを、およその時期・場所までも含めて予想し、用意した屈強の使者に伝達させなければ、このような情報伝達はとうてい不可能である。
情報と宣伝が、政治や戦争に決定的な影響力をもつことを、秀吉は熟知していた
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どこが秀吉神話なんだろうか?
大半は織田家臣団と本能寺の変に費やされているし、秀吉に触れてもありきたりの事にしか触れていない。
墨俣一夜城等いろいろあったと思うのだが、なぜ触れていないのだろうか?
いろいろと物足りない。
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タイトルの通り、読了後は神話が覆された感じがする。
とりわけ、本能寺の変のくだりは印象的だ。
もちろん、陰謀説というわけではないけれども。
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[ 内容 ]
出自の秘密、大出世、本能寺の変、中国大返し、豊臣平和令―天下人の虚像を剥ぐ。
[ 目次 ]
序章 「秀吉神話」の系譜
第1章 戦国時代の「悪党」(出自の謎に迫る;織田信長の台頭;異例な早さの出世)
第2章 本能寺の変(西国支配をめぐる派閥抗争;筆頭重臣への画策;将軍推任・安土行幸;「中国大返し」の真実)
第3章 関白の「平和」(織田体制の破壊;ヒエラルヒーの確立;「天下静謐」の倫理;「平和」のための侵略)
終章 軍国神話の現在
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
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☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
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読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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いささか大袈裟なタイトルである。著者によると秀吉神話なる物があるというが本当にあるのか?私は疑問であるが、なるほどと言う視点もあり結構、面白い。ただ神話うんぬんは別としても、歴史番組(ドラマも含む)により偏った歴史が語られているという自覚は必要である。某番組みたいにひどいものもあり、そこに著者と同様の危惧を覚えるのである。
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地元の図書館で読む。著者は三重大学の先生です。読みやすい文章です。著者は、秀吉神話は捏造と主張しています。主張は間違っていないと思います。英雄伝説に、捏造はつきものと思っているので、どうでもいいです。
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(2014.07.14読了)(2008.11.15購入)
【黒田官兵衛とその周辺】
秀吉に関する小説は、読んできたのですが、歴史上の秀吉については読んだことがなかったので、官兵衛関連ということで読んでみました。
ちょっと新書本としては、わかりにくいような印象です。同じテーマの本は、三冊読めといわれるので、あと二冊ぐらい読まないと、なかなかわからないのかもしれません。
元々地盤があって、地域を支配してきた武将の場合は、信長のやりたいことを理解できず、行商をしながら勤め先を探していた藤吉郎みたいな人間のほうが信長のやりたいことが分かったのではないか、というのは、その通りかもしれません。
【目次】
はじめに
序章 「秀吉神話」の系譜
第一章 戦国時代の「悪党」
1 出自の謎に迫る
2 織田信長の台頭
3 異例な早さの出世
第二章 本能寺の変
1 西国支配をめぐる派閥抗争
2 筆頭重臣への画策
3 将軍推任・安土行幸
4 「中国大返し」の真実
第三章 関白の「平和」
1 織田体制の破壊
2 ヒエラルヒーの確立
3 「天下静謐」の倫理
4 「平和」のための侵略
終章 軍国神話の現在
おわりに
参考文献
関連略年表
●秀吉神話(4頁)
「秀吉神話」とは、端的にいえば尾張中村の百姓の子として誕生した秀吉が、信長のもとで驚異的な出世を遂げ、本能寺の変後は亡き主君にかわって瞬く間に周囲の戦国大名を「征伐」して天下統一を実現し、晩年には「唐・天竺」をめざす「海外雄飛」つまり侵略戦争を断行し、死後は武神「豊国大明神」として祀られるまでの物語である。
●明治の秀吉(5頁)
江戸幕府が倒れ、明治政府の世になると「庶民の英雄」は一転して、「軍国主義の象徴」としてもてはやされる。秀吉の朝鮮侵略は、大陸進出を目指す国策にかなうものとされ、その部分が巷間のみならず、教育現場などにおいても繰り返し称揚された。
●約束事(22頁)
江戸時代の「秀吉物語」には約束事があった。秀吉の死とそれ以降の秀頼の運命を描くと、家康の露骨な天下簒奪過程が明らかになることから、必ず死の直前で完結しなくてはならなかったのだ。
●秀吉の子供(64頁)
秀吉は寧との間に子供はなく、伝承では長浜時代に側室との間に秀勝を含む二人の子をもうけたが、いずれも夭折したらしい。
●付城戦(67頁)
付城戦とは、敵城の周辺に攻略の拠点となる付城・陣城を築き、徹底して敵城の陥落、殲滅をめざす戦術である。戦国大名では信長が初めて、これを基本的な戦術として採用し、そのための組織的な体制を築いていったのである。信長の戦争は、あたかも大規模な土木工事となっていったのだ。
●光秀の国替え(108頁)
「明智軍記」には、光秀が信長から出雲・石見への国替を命ぜられたとある。
そして畿内からの転封は、永禄十一年(1568)に上洛して以来、常に政権中枢にあった光秀にとって、活躍の場を取り上げられること、つまり左遷を意味した。
●信長のめざしたもの(109頁)
信長のめざしたのは、麾下の大名を、信長の命令ひとつで自由に転封できる鉢植え大名にすることだった。家臣個人の実力を査定し、その能力に応じて領地・領民・城郭を預ける体制の確立をめざしたのである。
●安土城(120頁)
将軍相当者となった信長が築城した安土城は、「将軍の御館」と位置づけられていた。実際に築城の際には、京都の嘉昭御所から「西の御楯」や南門・東門などが解体されて城内に再建されている。これは、将軍御所が京都から安土に移ったことを視覚的に示すものだった。
●安土遷都(129頁)
本能寺の変によって実現こそしなかったものの、西国出陣のため上洛した信長は将軍任官を表明するつもりだったこと、天下統一後は誠仁親王の即位を受けて正式に将軍に就任し、年来の懸案だった安土行幸を執行する予定だったことが推測され、さらには安土への遷都を構想していた可能性さえ考えられるのである。
☆関連図書(既読)
「豊臣秀吉」北島春信著、ポプラ社文庫、1982.09.
「秀吉 上」堺屋太一著、日本放送出版協会、1995.12.21
「秀吉 中」堺屋太一著、日本放送出版協会、1996.04.30
「秀吉 下」堺屋太一著、日本放送出版協会、1996.10.12
「夢のまた夢 一」津本陽著、文春文庫、1996.01.10
「夢のまた夢 二」津本陽著、文春文庫、1996.01.10
「夢のまた夢 三」津本陽著、文春文庫、1996.01.10
「夢のまた夢 四」津本陽著、文春文庫、1996.02.10
「夢のまた夢 五」津本陽著、文春文庫、1996.02.10
「軍師官兵衛(一)」前川洋一作・青木邦子著、NHK出版、2013.11.30
「軍師官兵衛(二)」前川洋一作・青木邦子著、NHK出版、2014.03.20
「軍師の境遇」松本清張著、角川文庫、1987.07.25
「黒田如水」吉川英治著、講談社文庫、1989.11.11
「信長の棺」加藤廣著、日本経済新聞社、2005.05.24
「集中講義 織田信長」小和田哲男著、新潮文庫、2006.06.01
(2014年8月5日・記)
内容紹介(amazon)
「神話」に隠された秀吉の暗い実像に迫る!日本史最大のヒーロー、豊臣秀吉の実像は、暗い策謀家だった!数々の「秀吉神話」を覆し、その奥に隠れた素顔を暴いて戦国時代の常識に挑む意欲作!
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なまじ天下を取ると出生まで捏造しなければならない。
一代で成り上がった大物である事に違いはないがどこまで人に腹を見せてたか。。
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2007年刊行。
著者のライフワーク。それは藤木久志氏の主張する「豊臣惣無事令」解釈への批判であり、本書もその一。
ただ、本書はそれのみならず、本能寺の変につき、義昭黒幕説(著者は嫌がる評のようだが)を展開。もちろん単純な内容ではなく、信長権力にて生まれつつあった構造的矛盾をついて義昭が光秀を謀反に引き込んだというものであり、変時の背景事情や義昭の将軍権力の内実も含めて叙述される。特に、義昭が従前展開してきた信長包囲網の一環として本能寺の変を理解。各文献引用も多く良叙述である。
著者は三重大学教育学部教授。
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かなり秀吉批判で埋め尽くされた本書です(苦笑)
初めの数ページで読むのをやめようと思ったのですがそこは歴史に対するさまざまな説を見ようと思いとどまりました(笑)
たしかに表現は著書も書かれているように
「秀吉ファンなら激怒する」
モノでしたが内容は面白かったです。
秀吉を堕とそうとするもののその業績を史実から裏付けてくれているように思います。
本能寺の変のくだりは秀吉の神業を神話でなく実力で
足利義昭
毛利輝元
長宗我部元親
明智光秀
を下したものと言えると思います。
個人的にはグッと堪えて読み進めて良かったなと思っています(笑)