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  • 販売開始日: 2013/10/04
  • 出版社: 新潮社
  • ISBN:978-4-10-130702-2
一般書

錦繍

著者 宮本輝

「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛しながらも離婚した二人...

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錦繍

税込 572 5pt

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商品説明

「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛しながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る――。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。

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みんなのレビュー477件

みんなの評価4.1

評価内訳

モーツァルトの音楽は、宇宙の不思議なからくりを奏でている。

2009/02/22 20:18

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:サムシングブルー - この投稿者のレビュー一覧を見る

「前略  蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。」
 勝沼亜紀から有馬靖明へ宛てた手紙で始まります。亜紀は体の不自由な8歳の息子、清高に満天の星を見せてやりたくなって蔵王を訪れます。まっ盛りの紅葉の頃、十年前に別れた夫、靖明と再会します。靖明とは二年余りの結婚生活でした。リフトを降りて「それじゃあ」と足早に去っていった靖明へ、亜紀は長い手紙を送ります。清高の世話に追われていた亜紀は手紙を書くことで、過去の私、「モーツァルト」という喫茶店でモーツァルトを聴いて

「生きていることと、死んでいることとは、もしかしたら同じことかも知れない」と思わず言ってしまった私に戻ります。過去にこだわって生きてきた靖明もまた、亜紀に長い手紙を送ります。「錦繍」は書簡体小説です。
 人の心は迷います。時には気持ちと裏腹な言葉を言ってしまったりします。しかし、書いたものに嘘はつけません。何故なら書くことは自分と向き合うことだからです。二人は手紙を書くことで自分の過去と向き合い、現在の自分を認めるまでになっていきます。そして亜紀は清高と生きていくことを、靖明は令子と生きていくことを決めます。そして二人は終わりがきたことを悟ります。

「宇宙の不思議なからくり、生命の不思議なからくり」
 最後に亜紀が靖明に書いた文章です。私は何度もその箇所を読みました。亜紀は父と亡き母のお墓参りに行き、料亭の夥しい紅葉の庭で父と語らい、この物語は終わります。

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過去、現在を伝え合う事で未来への道がつながる。

2015/10/08 21:19

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る

厳格で美しい日本語で書かれた書簡集。
10年前離婚した男女が偶然再会し、手紙のやりとりをする内に
離婚した時にはわからなかった過去の事実やその後の事、お互い
傷を持って生きている様子が描かれます。

素晴らしいのは、ただ過去の恨み言や後悔だけでなく、だんだん
現在の30代になってからの自分を手紙を書くという行為でもって
静かに見つめ直し、「不幸だ」という思い込みからそれぞれが
違った方法で解放されることです。

一度、間違ってしまった道はそうそう修正はききません。
だからこそ、過去を怨み、隠しながら現在を生きているのですが、
過去はもう変えられない。
そのことを受け入れ、さらに未来へとお互いを高め合う手紙になって
別れを告げ、それぞれの道を行く2人の姿に痛みと同時に至福も感じます。
何が幸福で、何が不幸か、それは他人が決めることではなく、
自分が決めるものなのです。

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時は織られ、続いていく。

2007/04/21 09:34

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:オクヤマメグミ - この投稿者のレビュー一覧を見る

まず美しいタイトルだと思った。
意味を辞書で調べ、読み終えた後で改めてぴったりだと実感した。
男女のやりとりした手紙だけで成り立っている物語。
いや、手紙は物語ではないけれど、互いの想いを長々と綴った内容は読み手に様々な物語の場面を見せてくれる。
この一組の男女とは、思いがけない事件で別々の道を歩く事になった元・夫婦だ。
偶然旅先の蔵王で再会し、女の方から手紙を書き始める。
男は当初戸惑いつつも、返信をしたためる。
携帯電話やメールなど「便利で手軽な物」が普及している現代、自分の文字で綴る手紙は貴重な存在だろう。
瞬時に届かないから時間もかかる。
それも含めて待つしかないという苦しみに似た楽しみ。
2通の間のかすかな余白にそれがにじみ出ていたと思う。
手紙のやりとりは1年足らずの期間に過ぎないが、その中で過去を受け止め、今を生きることの大切さに気付き、未来へつなげていかなければならない…という成長の過程がうかがえる。
季節のうつろいを感じながら、会えない相手に宛てた愛情溢れる手紙。
それは永遠に続くものではないと2人は分かっていた。
胸がいっぱいになった。

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輝ファンになるきっかけになった本

2015/01/26 22:11

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:jaipur - この投稿者のレビュー一覧を見る

今、一番大好きな作家さん。
きっかけはこの本でした。どの本を初めて読もうかいろいろレビューを見たりしてこちらに決めたのですが、ものすごく大好きな特別な作品になりました。
いわゆるハッピーエンドな物語ではありませんが、読んでいるとあらゆる感情がわき上がってきます。
まるで映画を見ているかのような気持ちになり、どんどん続きを読んでしまいあっという間に読破しました。(もともと薄い本ではありますが・・)
手元にずうっと置いて時々読み返したい本です。

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泣きました

2002/01/17 16:17

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みのたき - この投稿者のレビュー一覧を見る

 泣きました。通勤電車内で読んでいたにもかかわらず、最後の手紙のところで、「あ、泣いてしまいそうだな」という予感もないままに、本当に突然、泣けてきました。

 この作品は、ある事件がきっかけで不本意ながら別離した夫婦が、時を経て偶然に再会し、それをきっかけに1年弱に渡って手紙のやりとりをする。その手紙のやりとりのみによって綴られる作品です。

 物語の前半は、離婚する原因となった悲惨な事件を中心に書かれていて、好奇心のまま読み進めました。ずっしり重苦しい雰囲気で進みます。中盤では「命」「生と死」について、モーツアルトの楽曲等、様々なエピソードを絡めながら掘り下げられています。「喜びと悲しみの同居」「生きていることと死んでいることは同じようなことかもしれない」「宇宙の、人生の不思議なからくり」……。私には理解の及ばないところも多く、実感としてつかみきれないままに読み進めました。そして最後は、未来に向けた希望、強い意志が少し描かれ、物語(二人の手紙のやりとり)は、終わりを迎えます。

 読み終わった後、一筋の光をみたような、癒されたような気持ちになりました。でも、それと同時に、どうしようもなく哀しい、淋しい気持ちも感じて、何とも表現しようのない気持ちになりました。そして、「人生の不思議なからくり」という意味不明な言葉の意味が、少しだけ分かったような気持ちになりました。

 私の心のどこに触れて涙が出てきたのか分かりません。でも、何か、人生のどうしようもなさ、それでも前に進むしかない『人』についての漠然とした思いが、読み終わって1日たった今もあります。

 さらっと読める本ではありません。じっくりと読む本だと思います。そして、10年後、20年後に、また読み返したい本です。

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言葉の力を感じる作品

2021/10/17 21:00

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:山野 - この投稿者のレビュー一覧を見る

手紙のやりとりのみで小説が成り立つのかと疑問でしたが、想像以上でした。手紙として書かれた文章から、細やかな心情や過去の思い出、今の状況がありありと伝わってきます。思い出の土地として触れられていた港町の描写では、自分もそこにいるかのような不思議な感覚になりました。
彼ら二人による手紙を読んだだけにすぎないのに、本当に彼らの人生を目の前で見てきた気がします。定期的に読み返したい作品です。ぜひ、読んでみてください。

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透明の向こうの壮絶

2002/07/31 22:54

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:HRKN - この投稿者のレビュー一覧を見る

私は本作「錦繍」で初めて書簡体という形式を知った。高校生の時である。書簡体の小説は近頃では珍しいらしい。文庫に併録されている解説にそうあった。書簡体というのはある程度使い尽くされた形式なのか、と当時少し残念に思った記憶がある。しかし、本作のこの雰囲気は書簡体でなければ描けないものだと思う。中に展開される二つの人生の浮き沈み、これは手紙というある意味で冷静な媒体を通してこそ、その凄まじさが生きてくるのではないか。

初めて読んだ当時、一通目の手紙の訥々と続く語りになかなか馴染めなかった。が、作品のボリューム自体は大きくないし、淡々と続く手紙のトーンとそこに展開される壮絶な人生の圧力の対比に浸っているうちに読み終えていた。一つ重要なキーワードが前半に登場人物の口から発せられ、それに向かって二つの人生が収斂され、そしてそこを出発点に別々の方向に決然と向かって行く様に心底感動した覚えがある。

今回改めて読み直してみると、いくつか気付くこともある。本作が書簡体であることを読み手に確認する技術、それが見えてしまう部分も所々にあるように思う。しかし、登場する二人の生き方、生き様の凄さはどうだろう。感動できた。ある程度歳を食った今だからこそ、新鮮に読むことができたのかも知れない。

作中に登場するモーツァルトの交響曲第39番、この音楽作品の無色透明な雰囲気は、「錦繍」に描かれているものに近いと思う。本作を読み終わった後、交響曲39番を聴いてみたのだが、その雰囲気の繋がりには驚愕を覚えるほどであった。宮本氏の、この音楽作品を選び取ったセンスには全く脱帽である。

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映し鏡たる「手紙」は、過去、現在、そして未来をも描き出す

2023/10/18 21:10

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る

恋愛結婚のこの後始末小説は「手紙」形式を採り、[夢破れて青山あり、心虚(うつ)ろにして後悔深し]を地で往く離婚した元夫婦の男女二人を主人公とする。住まいのある阪神香櫨園と大阪市内では電車でも一時間圏内なのに、二人の心理的距離感は相当なもの。だから「手紙」が活躍する。

十年一昔、年月を隔て陸奥(みちのく)の地で偶然再会した男は落魄苦悩を滲ませ、再婚した女は脚の不自由な子供を連れる。三十路半ばに至った男女は挨拶のあとは無言。「思いがけぬ再会が、私に例の少女じみた空想癖を呼び醒まし」た騒(さざ)めきから、女は手紙の筆を執る。無粋なスマホや電子メールが無いこの時代が懐かしい。

予期せぬ返信で、離婚を招いた無理心中事件で死んだ女が、十四歳の頃に転入先の舞鶴の中学校で知り合った初恋相手だったと元夫から告げられる。懺悔を迫る手紙の遣り取りを拒む元夫に、心の澱(おり)を愚痴や嫉妬と一緒にぶち撒ける元妻は「手紙」攻撃を止めない。未練なのか、強迫観念ゆえか。

「モーツァルト」喫茶店の火災焼失、鼠を弄び尻尾を残して喰い千切った猫、男の同棲相手が語る祖母の奇形の左手、気立ての良さが取り柄の無口な同棲女が預金を叩(はた)いても男に勧める新商売(美容院向けPR誌)の提案、主人公たちの行方にすべて繋がろうとは…。

同棲女は不平をこぼす男を眺めて破顔一笑、「うちはあんたを一年間飼(こ)うて来たんや」と冗談めかした口振り。「やっぱり、あんたはたいしたもんやわ」と男の成果に大いに感心し、「そやけど、月末の配達は、あんたがしてくれるんやろ?」とちゃっかり追い撃ちを掛ける。俄然、面白うなってきた。救いは関西弁とともに来ぬ、か。

「手紙」は書き手の過去、現在、そして未来をも描き出す映し鏡のようなもの。艶やかな着物も、一本一本が細い撚糸の交錯で生まれる。目には見えない赤い糸や運命の糸が組み合わさり、こんがらがったりして、人生はより複雑に彩(いろど)られる。

実りの秋に読み耽るべき本作で作者は、不幸の連鎖と決別し再生への意欲に目覚めた男女の未来を読者に仄めかしつつ、手紙の往還を昇華された愛情交歓のうちに見事に締め括った。

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書簡体小説の妙技

2019/10/13 23:27

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る

黒井千次が解説で言っているように、書簡体小説は手紙という性質上制約が多い。夏目漱石の『こころ』のように知識人階級と学生なら、人の内面に迫るような哲学的なことを手紙に書いても自然だが、一般の人間がそのようなことを手紙に書くことは不自然だからだ。然しこの小説ではあくまで会話をするかのように自然に小説を進めている。その点が見事だと感じた。

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生きていることと、死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれない

2018/11/22 15:32

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る

今では文壇の長老の気分さえある宮本輝の、この作品は初期に書かれた作品ながら、宮本輝文学の世界観が凝縮されているような気がする。
 それにどうしてだろう、この作品の柔らかでしっとりした印象は、初めて読んで以来何度も読み返していても変わらない。
 いつも懐かしいひとと再会した気分になる。
 会いたかった、と。

 何よりもそれはこの作品のタイトルの良さだろう。
 「錦繍」。たった二文字ながら、そこに織りなされているのが単に紅葉黄葉の織りなす景色だけでなく、生と死、善と悪、過去と未来、そんなさまざまなものの織りなす世界を喚起させてくれる。
 そして、この書き出し。
 「蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」。
 何度この書き出しを求めて、本を開いたことだろう。
 この書き出しから始まる最初の手紙。ここから物語は別れた妻と夫の、あまりにも切なく辛い手紙のやりとりで進められていく。
 いわゆる書簡体文学になるこの作品は、書かれた昭和57年(1982年)だからこそ成立したともいえる。

 やりとりされる書簡で、読者はこの二人が何故別れることになったかを知る。
 そして、離婚ののち再会(といってもわずかばかりのすれ違いに近い時間)するまでの日々を、さらにはそれらを通じて人の運命を考えざるをえない。
 この作品に登場するすべての男女が悲しみをひめているような気がしてならない。
 もしかしたら、生きるものすべてが悲しみを包むようにして生きているのかもしれない。

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大好きな作家

2018/01/23 13:23

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ポッター - この投稿者のレビュー一覧を見る

書簡体で書かれた、今は別れた男女の物語。
手紙のやりとりにより、二人の過去から現在までが明らかになっていくのですが、手紙を書く事により言葉に表せなかったら事柄が浮き出てきます。心に残る言葉も沢山ありました。一気に読んでしまった。

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“終わり”が語る“始まり”の物語

2015/09/18 03:20

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:baron - この投稿者のレビュー一覧を見る

書簡体で語られる離婚した男女の物語!
男は、とある理由で胸と首に傷がありその痛みと悲しみが死を語り
女は、モーツァルトの奏でる音色の中から死を見つめる。

終わったはずの二人は、手紙のやり取りで生きる意味を探し、そして始まりを見出す。
切なくも暖かい素敵な小説でした^^

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救いはきっとある。

2004/03/20 00:12

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:バンドウメグミ - この投稿者のレビュー一覧を見る

元夫婦の文通でストーリーが展開される不思議な構成。それぞれの主観と客観、冷静さと感情の高ぶり、過去・現在とが交差して緩急がついている。2人の微妙な関係がもどかしいのだが、傷心と喪失の過去からゆるやかに立ち直るそれぞれの姿が静かに心を打つのだ。
「生きていることと、死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれない」。この言葉が2人の文通を長続きさせた。死に行く自分を見つめているもうひとりの自分の存在を知り、人生観が変わった夫。障害をもつ子を授かり、現在の夫に不倫をされ、すべてを過去の離婚につなげていく妻。お互いのわだかまり、苦しみを吐露することで受容は始まる。そして、すべてが理解されたとき、前進が始まるのだ。
過去は振り返ってはいけない。そんな言葉をよく耳にする。しかし、受け入れがたい現実から目をそむけ、逃げつづけるだけでは解決は望めない。勇気を出して認識する。理解する。どんなにつらくても立ち向かっていかなければ、止まったまま。ことに恋愛に関することはそうだ。時間は解決してくれない。解決するのは自分自身であることをそっとこの本は教えてくれた。

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手紙

2001/03/29 00:45

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:T.D - この投稿者のレビュー一覧を見る

 人はどんな時に手紙を書くだろう。面と向かってでも、電話を通してでも、言葉にできない事がある場合。相手に会えない場合。話すという事は、一方的な行為ではない。相手が黙ったままであったにしても、相手のある行為である。手紙は、一方的なものになり易い。また、手紙を書くことで、書くことに集中し、普段考えつかないような事を思いついたり、思いがけないほど、相手をいたわったり、傷つけるような言葉が書けてしまったりする。
 人と人との出会い。住んでいる場所が近い、学校が一緒、職場が一緒、友人が共通、好きな店が同じ、通勤手段、時間が一緒、年齢が近い、いろいろの縁で、人が出会う。もしかしたら、人生を繰り返してまで出会いたいと思うほどに。良い出会いが必ず良い結果を生むわけではない。また、良い結果ではなかったからといって、出会い自体が良くなかったということでもない。
 取り返しのつかない別れをした事に、冷静になってから気がつく場合もあるが、人生の時間は戻らない。後悔の中で、別れてしまった人に、面と向かってはいえなかった事を手紙で書ける関係にはまだ救いがあるのかもしれない。逆に、手紙で語れるという事は何かが終わってしまっているという事かもしれない。
 自分が一番好きな人に一番好かれて一生一緒に暮らせたら、それはとても幸福で幸運な事だろう。そして、その状態がずっと続いたら。では、一番好きというわけではない人と暮らすことはどう言う意味を持つのだろう。片方にとっては相手が一番で、一方は一番ではなかったら、それは二人にとって、ともに幸福な事なのか。やり直しのきかない、後戻りのできない人生の中で、そんなことを考えたことのない人はいるだろうか。

 人生の悲しみ、歓び、いろいろのことを考えさせられる、切ない小説。年に何回か読みたくなって、読み返してしまう小説です。後悔しない人生なんて難しいし、どうすれば後悔しないかなんて、過ぎてからしかわからない場合が多いのですが、若いうちに読んで、人生の全体像ではないけれど、感触を感じてみては。



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紅葉の季節に相応しい本

2021/10/22 09:27

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:m - この投稿者のレビュー一覧を見る

ずっと読もうと思いながら後回しになっていましたが、たまたま本屋に入った時に表紙が目に入り、購入しました。
書簡体のものは初めてでしたが、美しい文章と光景が目に浮かぶような描写で一気に読んでしまいました。
舞台が紅葉期の蔵王なのと、内容がしっとりしているので今の季節に読むにはもってこいだと思います。
一般の人はあまりしないのではと思う高級旅館での逢瀬や、今時こんな手紙を書く人など居ないだろうという時代感のズレは感じますが、もう一度読み返そうかなと思うくらいには良かったです。

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