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疑惑
著者 松本清張 (著)
雨の港で海中へ転落した車。妻は助かり、夫は死んだ――。妻の名は鬼塚球磨子(おにづかくまこ)。彼女の生い立ち、前科、夫にかかっていた高額な生命保険について、稀代の悪女“鬼ク...
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疑惑 新装版 (文春文庫)
商品説明
雨の港で海中へ転落した車。妻は助かり、夫は死んだ――。妻の名は鬼塚球磨子(おにづかくまこ)。彼女の生い立ち、前科、夫にかかっていた高額な生命保険について、稀代の悪女“鬼クマ”と断定しセンセーショナルに書き立てる記者と、孤軍奮闘する国選弁護人の闘い。球磨子は殺人犯なのか? その結末は? 桃井かおり、尾野真千子らが熱演した名作推理サスペンス。明治の藤田組贋札事件を描く「不運な名前」併録。
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紙の本
息つく心理描写、そして市民社会が踊らされた陰謀、と内容の深い二作品
2023/12/17 10:29
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
松本清張先生の著作では「シルクロードを辿った文物や文化などを扱った歴史もの」や「日本各地の風土・特産物が事件の根底を流れているような紀行もの」には興味があるのだが、本タイトル作「疑惑」はそのどちらでもなく、私からみればトリックを扱った「ただの推理小説」でしかなかったため興味の対象外であった。しかし北海道の開発に隠された裏面史でもある月形監獄を扱った併録作品があることを知り、それが読みたかったのでタイトル作も自動的に読むことになった。そして、主人公である正義感の強い新聞記者の揺れ動く心理描写が鋭く抉られた見事な作品だと感じ、「ただの推理小説」を見直した。「社会派」といわれる松本先生は本作において、警察官もしくは検察官よろしく「独りよがりの正義感を振りかざして行き過ぎた捜査まがいの取材と記事発表」を行った新聞記者に警鐘を鳴らしたかったのかと邪推までしてしまった。警察や検察が犯罪を捜査し、調書に纏めてもその内容はまだ捜査関係者に知られうるレベルにとどまる。しかし独断や思い込みによって新聞記者が記事にしてしまうと大衆の心情にはほぼそれが真実として既成事実化してしまう恐れがある。松本先生の「警鐘」はそれかと感じた。そして記者自身が記事を書いたことによって追い詰められていく。ほとんどスリラーの世界だ。
さて月形監獄ゆかりの作品「不運な名前」は明治期のニセ札事件を扱った事件で、実在の事業家藤田伝三郎と藤田組も事件との関係を糺され、また不運な名前の画家が罪を着せられ投獄された事件の冤罪性を追究する小説である。国宝「曜変天目茶碗」を所蔵するあの大阪の著名な博物館の当時の当主にこのような疑惑がかけられたことを知らなかった。推理小説というよりも、松本先生が歴史上の冤罪事件の真相に一考察を与えるという作品である。当時の紙幣印刷にかかわる紙、デザイン、印刷技法、インク製造などへの深い造詣がないと書けないし、われわれ凡人が読んでも大変わかりにくい内容で、理解へのハードルの高さを感じた。社会派松本先生が当時の陰謀まがいの犯罪に切り込んだ気迫に溢れた作品であることはよくわかった。
以上二作品による読み応えのある内容の濃い一冊であった。