沈黙者
著者 折原一 (著)
埼玉県久喜市で新年早々、老夫婦とその長男夫妻の4人が惨殺された。10日後、再び市内で別の老夫婦の変死体が発見される。一方、池袋で万引きと傷害で逮捕された男の裁判が進められ...
沈黙者
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商品説明
埼玉県久喜市で新年早々、老夫婦とその長男夫妻の4人が惨殺された。10日後、再び市内で別の老夫婦の変死体が発見される。一方、池袋で万引きと傷害で逮捕された男の裁判が進められているが、男が黙秘を貫いたために、彼の名は一切明かされない。埼玉の事件と男の裁判、ふたつの流れが重なった末に展開する驚愕のストーリー。 叙述トリックの最高峰「――者」シリーズでしか味わえない“脳髄をかき回される快感”に酔うべし!
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巧みなリードと伏線。ミステリーの楽しさがつまっている
2010/07/03 17:52
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
取り調べも、起訴後の裁判でも
氏名、住所などを一切明かさないとどうなるか――。
たった3,000円程度の万引きと
警備員と近くの客への傷害罪で
どんどん自分を追い詰めていく一人の若い男。
彼に語りかける二人称が巧みに物語をリードしながら
一方、埼玉県久喜市で一家残虐連続殺人事件を
クロスカッティングさせます。
こちらも同じ学生の新聞配達者による発見が
物語を盛り上げます。
ミステリーは謎に包まれたまま、
最後に思わぬ展開を見せるのですが
やはり、プロフィールに対して黙秘権を行使し続ける男の話に
切迫感があります。
しかも、これは実話に基づいたフィクションというから驚き。
彼が果たして、どんな刑になるのか、というのは
ひとつの読みどころなので明かしませんが、意外に重い。
警察では素直になりましょう。
頑固者は時として、人生を無駄に過ごします。
驚きに満ちたラストの帰着すると
ミステリーを頭の中で構成し直してしまいます。
すべてが明らかになるまで
複雑な伏線を楽しみました。
沈黙を守ることの怖さ、それをこういった形で小説に出来るのは、やはりこの人でしょう。それにしても埼玉県、犯罪王国の感が拭えないのは困りものです
2005/12/20 21:06
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
《埼玉県北東部の人口七万の久喜市。新聞配達の学生が巻き込まれた二件の大量殺人事件。奇跡的に助かった被害者の弟が失踪した》
ダチョウ倶楽部ではないですが、掴みが良ければ小説の大半は成功と言ってもいいもの。折原一の推理小説は、どれも冒頭で読者をひきつけずにはおかない点で、それに似ています。それにしてもこの小説の舞台である埼玉県、昔はダサイなどと笑われていたのですが、最近は犯罪が頻繁に起きる場所のイメージが強くなっています。ワールドカップもあったことですし、そろそろ汚名挽回と行きたいところですね。
埼玉県北東部の人口七万の久喜市、そこで新聞配達をする大学生の立花洋輔が事件の発見者です。配達先の鍵の掛からない玄関に不審を抱いた彼が見つけたのは一家4人の惨殺事件でした。一人生き残ったのは同じ大学理科大の学生 田沼ありさです。十七歳の弟省平の行方はようとして知れません。その発見者である洋輔がまたしても出遭ったのが元警視庁署長である吉岡一家殺人事件でした。
平行して描かれるのが、十七歳の少年が引き起こした万引き事件です。彼は事件そのものこそ認めたものの、頑なに名前を明かすことを拒み続け、警察の心証を悪くしたまま留置所の留め置かれます。留置番号池袋警察署39番と呼ばれ、姓名を明かすことを拒み続ける少年は一体誰なのでしょうか。殺人事件との関連は。失踪した省平はどこに。心の傷を乗り越えてありさは再び幸せを掴むことができるのでしょうか。
五十嵐友也のレポートを小説に構成したという形式をとっています。叙述トリックが得意な作家だけに、単純な推理小説ではありません。ただし、古いところでは中町信『新人文学賞殺人事件』、記憶に新しいところでは逢坂剛『水中眼鏡の女』の切れには及ばない気がします。
むしろ構成ではなく、私がもっとも感心したのは、頑なに沈黙を守り続ける万引き少年の描写です。読んでいるこちらの心が痛くなってくる、とはこういう小説をいいます。